ジョージと死者の森
グロい表現が出てきます
魔王軍への対策が一段落した時、爺ちゃんが不意に口を開いた。
「ジョージ、短期間で効率良く強くなる方法を知っているか?」
この時、俺はコーカツ城の兵士を鍛える方法を聞いてると勝手に勘違いしたんだ‥‥異世界でもホウ・レン・ソウは大切です。
「手っ取り早く経験値を稼ぐ方法に主人公一人で戦うって方法があったよ。メリットは経験値を独り占め出来る事、デメリットは危険が倍増する事。回復魔法が使える人じゃなきゃ無理だけど」
「ジョージ、何日か学校を休んで死霊の森で修行をしろ。勇者が確実に魔王を倒せるという確証はない。人類の危機に対応出来るカードは多くて困ると言う事はないしな‥‥これは命令だ」
そこにいたのは何時もの優しい爺ちゃんではなく、為政者ローレン・コーカツだった。自領の安全の為なら愛娘の結婚を利用し、国や民の為なら汚名も厭わない男。当然自分にも他人にも厳しい‥‥使える身内には更に厳しい。
「いや、俺回復魔法が使えないし‥‥残念だなー」
獅子は我が子を千仭の谷に落とすと言うが、落とされる方はたまったもんじゃない。俺は獅子でも勇者でもないんだから、千仭の谷に降りるのなら
パラシュートは必須だ。
「回復魔法なら私が教えます。時間がないから少しだけハードになりますけどね」
助け船ならぬ地獄行きの渡し船を出してくれたのはハイドロ教神官のロッコーさん。結果、覚えられたのは初級回復魔法のハイドロヒール、ある程度の切り傷は回復出来るそうだ。ただし、まだ慣れていないので魔法を唱えていると、どうしても隙が出来てしまう。近距離戦だと格好の的になってしまうのだ。
ゲームなら戦闘が終わってから回復するって手もあるが、戦闘が長引けば出血死する危険性もある。何より深い傷を負えば痛みで気絶しかねない。
「ジョージ様、武器はどうしますか?アンデッドモンスターには斬撃や刺突はあまり効きませんよ」
ゲームなら光属性の武器を装備したり、エンチャントを使えるキャラをパーティーに入れるのがお勧め‥‥“なんでタイミング良くエンチャントを使えるキャラが加入するんですか?ヌルゲーになります“とか言わないで下さい。ライトユーザー様にそっぽを向かれると痛いんです。
(光属性の武器は高価だ。俺みたいなガキが持っていたら狙われるな)
狙ってくるのはアンデッドモンスターではなく、他の冒険者だ。死者の森において光属性の武器は雨降りの傘の様な物。余り高価な武器を持っていたら、俺がアンデッドモンスターになってしまう危険性がある。
「爺ちゃん、片手で持てる位のズタ袋を用意して貰える?」
「分かった。それと貧民街で緊急の炊き出しを行う。貧民街の住人は自分の身が危険に曝される冒険者狩りより炊き出しの方を優先するだろう。それと緊急連絡用のマジックアイテムを渡しておくぞ‥‥ジョージ、危険な目に合わせてすまない」
爺ちゃんはやっぱり優しかった。
「どうせ、最初は闇属性を強化しようと思っていたから大丈夫だよ」
闇属性に耐性が出来ると、即死魔法や呪いが効き難くなる。ゲームと違いセーブなんて出来ないから慎重にいこう。
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死者の森、闇の魔石の一大産地で、アンデッドモンスターの宝庫。鬱蒼とした木々に囲まれ昼でも薄暗い。
ガチで怖くてチビリそうです。俺は心霊スポットにも行けない位のビビり。そんな俺が一人で絶対に出る場所に来てるのだ。泣かないのを褒めて欲しい。
(死者の森に出るモンスターはアンデッドゴブリン・ゴースト・スケルトン・リビングデッド・グール・マーダードール‥‥全部会いたくねーよ)
ゴーストなんてまんま幽霊だぞ。動く死体なんて見たくもないし、殺人鬼の魂が宿った人形なんて絶対にちびる自信がある。
日が入らない為に死者の森の地面は水気が多く、歩く度に靴の中が湿っていく。
(深入りしたら不味いな。入り口近くをうろつくか)
一歩、一歩慎重に歩く。五歩進んでは後ろを振り向き、更に五歩進んでは後ろを確認‥‥なんでビビってる時って、背後に変な気配を感じるんだろう。
(頼む、最初はスケルトンかアンデッドゴブリンにしてくれ)
そんな俺の祈りも虚しく、最初にエンカウントしたのは髪の長い女性のゴーストさん。虚ろな目で俺を見つめるのは止めて下さい。
「な、南無阿弥陀仏」
「なに、それ?そんなの効かないよ」
俺を嘲笑うかの様にお約束な台詞を呟くゴースト。そりゃそうだ、異世界の幽霊にお経が効く訳ない。
「そんなの百も承知だよ。こいつを喰らいなっ!!」
手に持っているズタ袋をゴーストに向かって振り抜く。
「そんなの効かないよ‥‥ギャァ―ッ」
おぞましい断末魔をあげてゴーストは消え去った。断末魔が消えると同時に、闇の魔石がポトリと地に落ちる。
「光の魔石を詰め込んだズタ袋だよ。簡易の光属性の打撃武器さ」
ズタ袋に光の魔石を詰め込み、根元を縄で縛ったのだ‥‥格好をつけてみたが、股間がぐっしょりと濡れて冷たい。
一息つく為に木にもたれ掛かる。何故か頭上から視線を感じたので、顔を上げて見ると‥‥
「ぬうおっ!!グール!?」
そこにいたのは頭を下にして木に掴まっているグール。グールはアンデッドモンスターとは思えないスピードで木から降りてきた。
「ニク、ニク、ニク―ッ」
「アンデッドモンスターの弱点は頭っ。ぬるいぜ、死者のも‥‥り?」
ズタ袋は直撃しグールの頭は取れかかっていたが、それがどうしたと言わんばかりにグールは攻撃してきた。
「ちょっとタンマ。ラブ&ピースの精神で話し合おう?」
「二グ、二グ、二グー」
どうやらグールさんは俺のラブより俺の身体の方がお目当てらしい‥‥これも肉食系になるんだろうか?
「こうなりゃ、必殺振り回し」
グールの弱点が分からないから、滅茶苦茶にズタ袋を振り回す。ズタ袋が鳩尾に当たると、途端にグールの身体が崩れ落ちた。
「鳩尾にある魔石で動いてたのか‥‥うぉっぷっ」
安心して気付いたんだけど、腐臭と死臭が混じり合い物凄い臭いになっている。そしてグールの顔がじっと俺を見ている‥‥ゲームと違って魔物を倒しても、死体は消えないらしい。
二体と戦っただけなのに、精神力も体力も限界だ‥‥こんなんで強くなれるんだろうか?
(もう、無理だ‥‥取り敢えず外で休もう)
こんなリアルホラーハウスにいたんじゃ俺の心が持たない。
森の出口に近付くと、爺ちゃんが身じろぎ一つせず立っていた。その視線は、じっと死者の森を見据えている。
(待つ身も辛いか‥‥俺に何かあれば母さんに恨まれるのは爺ちゃんだよな)
自分の頬を強く張って気合を入れ直す。魔王軍との戦いになったら、死は今以上に身近な物となるだろう。その時、自分や大切な人を守れるかどうかは、今に掛かっていると言っても過言ではない。
(勇者達の倍戦って初めて対等になるんだ。ここで逃げたら、これまでの努力が無駄になる)
‥‥確かに強くはなれたが、それから数週間俺は食欲不振に陥った。
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死者の森から帰還し、漸く食欲が戻ったので、俺は久し振りにカリナの店を尋ねた。
「ジョージ、久し振りっ!!学校も休んで何してたんだい?‥‥ちょっと、痩せた?」
カリナの満面の笑みが心に沁みる‥‥ロリに目覚めない様に気を付けなければ。
「爺ちゃんに死者の森に放り込まれてたんだよ。遅れてた政務も落ち着いたし、漸く食欲も戻ったから‥‥」
「それはご苦労様。そう言えばあんたが休んでる間、マリーナの弟が何回も店に来てたよ」
「シャイン君が?」
カリナの話によると、貧民街でも炊き出しが恒例化し始め、ライテック家の家計を圧迫してるそうだ。
「台所が苦しいなら、マリーナも無理しなきゃ良いのにね」
「ウォーテックやアーシックも参加してるから、自分だけ抜けるって言えないんだろ?マリーナって頼られると嫌って言えなそうだし」
勇者の子孫で光のライテックだけ没落してるのを、アニエスやベルに見せたくないんだろう。
「あんたは炊き出しはしないのかい?貴族の務めとか聞くけど」
「炊き出しは災害時とかの緊急時には有効だけど、常態化すると弊害も生むんだよ。俺は俺なりの支援をするさ。取り敢えず、シャイン君に渡したい物があるって伝言してもらえるか」
働かなくても食えるとなると、それに依存し始める人達が出てくる。それじゃ何時までも貧民街から出れない。
「分かった。日にちが決まったら学校で教えるよ。はい、マッシュポテト、山盛りしといたよ」
さて、戦闘の次は政務を頑張りますか。




