ジョージの領主道
レビューを頂いたので更新を早めました
闘技場が水を打ったかの様に、しんと静まり返り、空気は胃が痛くなる位にピリついてる。販売後に重大なバグが見つかった時の緊急会議を思い出してしまう…俺が携わったゲームじゃないけど、あの時の社長は怖かった。
ちなみにこの空気を作ったケイオスとアコーギ騎士団の面々は驚きの余り棒立ち状態になっている。
かく言う俺は速攻で場外に降りて、王様達に向かって跪いた。お目見えの資格もない俺が直接王様の顔を見ただけでも不敬行為と見なされ大問題なのである。ましてや王様を高い所から見下ろすなんてもっての他だ。
「ば、馬鹿者。王の御前であるぞ。頭を下げろっ」
アランの悲痛な叫びが闘技場に響く。そりゃそうだ、自分の部下が王様に叱られただけでなく、無礼も働いてしまったのだから。
(流石は王様だな。プレッシャーが半端じゃねえ…マジでチビりそうだ)
ゲームの中で勇者が王様と面と向かって話す場面があったけど、信じられない。彼は“王様と対等に話してる俺カッケー”とでも思っていたんだろうか?
「ジョージよ、お前に問う。ケイオスは騎士だからそこに付け込ませてもらうとは、どんな意味だ?」
王様はホートの隣にいて俺のセリフをしっかりと聞いている…つまり、言い逃れはできないと。そして一番の問題は俺に直答する資格がないって事だ。
あれの内容が知れ渡ると、俺は騎士に総スカンを喰らいかねない。それに今は特例になるかも知れないが、その特例が曲者。貴族は名誉や権力に対する嫉妬が凄い。王様から特別扱いされたなんて知れたら妬みや嫉みの対象になってしまう。
ちらりとホートに目配せして助けを乞う。この場で王様と直答出来るのは三人、ホート、アラン、そしてもう一人のお連れ様。
アランはテンパりまくっているし、元々俺を助けてくれる可能性自体が低い。お連れ様に至っては、事態を悪化させるだけだ。
しかし、何度目配せしてもホートは動いてくれる気配なし。まあ、ホートも直答は出来ても王様の問を遮るのは難しいのかもしれない…でも、このまま何も答えないのは、かなり不味い。ケイオス以上の無礼になってしまう。
そんな時、もう一人のお連れ様がフードを脱いだ。白金の長髪、顔は女性と見紛う程に整っている。
「王子様だ…」「なんでシェーン様まで」
オリゾン王国第一王子シェーン・オリゾン。シェーンは、一定条件を満たすと仲間に入れる事が出来た。その条件はかなり厳しいが、その分能力も高く女性ユーザーの人気をミューエと二分している。ちなみにシェーンは剣士タイプで前衛に配置される事が多いが、今の立場から考えると王子に前衛を任せるのは絶対になしだと思う。
「父上、ジョージ君は緊張している様です。後日、日を改めてお声を掛けられてはどうでしょうか?」
シェーン王子はそう言うと俺に向かって優しく微笑んでくれた…やばい、この人になら抱かれても良いかも知れない。
「王子、お久し振りでございます。ケイオスです。無礼を承知で伺います…王子は、その卑怯者の味方をなさるんですか?」
ケイオスの顔からは必死さが伝わってくる。このまま行けばケイオスの立場は最悪になってしまうから、必死になるのも当然だ。
「ああ、君とは高校で同じクラスだったからね…ジョージ君、あんな風に言われているけど良いのかい?」
やべ…王子とケイオスはクラスメイトだったのかよ。さて、どうする…ケイオスを論破するのは簡単だ。でも、うまくやらないと敵を増やしてしまう。
「おい、卑怯者!!王子の問いにお答えしないか。醜い獣人が師匠では碌な答弁も出来ないだろうがな」
ケイオスはどうしても俺を悪者にしたいらしい。ただ、俺の先生を馬鹿にした事は許す訳にはいかない。まずは顔を伏せたまま王様に一礼する。
「王にお答えします。フルアーマーは守備力が高い分、動きに制限がでてしまいます。勿論、ベテランの騎士なら自由自在に動けるでしょうが、ケイオス殿はまだその域に達しておりませぬ。だから、私の様な若輩者に簡単に背後を取られたのです」
次にケイオスの方を向く。
「卑怯?だから、どうした。騎士なら負けても相手が卑怯だって喚けば良いかも知れないが、領主が負けを認めたら領地が蹂躙されるんだぞ。俺は民の生活とオリゾンの平和の為なら、どんな事でもしてやるよ。それとな獣人を含めた領民が納めてくれた税金が、お前の給金になってんだぞ。自己満足の騎士道で、自慰してんじゃねぞ!!」
騎士道ならぬ領主道だ。でも、観客席の女性陣がドン引きしてます。大笑いをしてるのはホート位だ。
「ケイオス君、さっきの問いに答えてあげるよ。ジョージ君はボーブルの経済を発展させてオリゾンの国庫を潤してくれた。でも、君は何をしたんだい?禄を食むだけの騎士と税収を飛躍的に上げた領主。王家がどっっちに重きを置くか幼児でも分かるよね?」
シェーン王子は笑っているが、さっきみたいな優しい微笑みではない。迫力満点の怖い笑みだ…決定、王家には絶対に逆らわない。
「シェーン、そこまでにしておけ。しかし、ローレンが自慢するだけあって面白い者だな。ジョージよ、コーカツ領に移り住んだ方が、楽に暮らせるのではないか?」
「いえ、コーカツ家と良好な関係を保っていられるのは、私が跡目争いと無縁だからです。何より私の様な若輩者に仕えてくれるボーブルの領民を裏切る訳にはいきません。それにやりたい事が山の様にあり、まだまだボーブルから離れたくないのです」
ボーブルは俺にとって一番安全な土地なのだ。ヤドカリの貝みたいなものなのだ。
「うむ、分かった。ジョージ・アコーギよ。これからもしっかりとボーブルを治めよ。そして汝にボーブルの自治権を与える」
この王様中々の狸だ。自治権が与えられればボーブルの税収は本領を通さずに、直接国にいく。何より色んな治水事業や道路整備の様な無理難題も吹っ掛ける事も可能だ。
「はっ、ありがたく受けさせて頂きます」
でも、これで俺だけの軍隊を持てる様になれた。魔王ゴライアスや六魔衆が現る前にボーブルの軍備を強化してやる。
ーーーーーーーーーーーーー
自治権が与えられるのは、来年の春からとなった。あの後、ホートから聞いた話では王様は前からボーブルに目を付けていたそうだ。それを爺ちゃんが後押ししたらしい。そしてアランが俺とケイオスの試合を吹聴しているのを耳にして、ホートに試合に連れて行く様に命じたそうだ。つまり俺もアランも、王様の手の平で踊らされていたと…王様も王子様もこえーよ。
「自治権を与えられるのは嬉しいですが、人材不足を解消しなくてはいけませんね」
サンダ先生の言う通り、これから仕事が増えるから職員を増やさなくてはいけない。
「オリゾンに職安や人材バンクがあれば助かるんですけどね。とりあえず各地にいる元役人や高学歴の人間を探しますか」
特にアーシック領は秋の食糧不足で大量解雇をしたらしく、狙い目だ。食糧を援助したんだから、多少の事は目を瞑ってもらおう。
「読み書きが出来る奴隷を買うって、手もあるぜ」
「それはパスします。一度、取引きをしたら仲間に引き擦り込まれちゃいますよ。ギリアム商会に頼んで各地で募集をかけます。それとサンダ先生は知り合いのオークや大学時代の知人に声を掛けてもらえますか?」
年齢も人種も家柄も問わない。労働条件もきちんと明示しよう。
「オークの他に兎人も役人に向いているぜ。何しろ彼奴等は内勤の仕事を好むからな」
確かにピーターやラパンの生真面目さを見ると、兎人は役人に適性があるかもしれない。
「分かりました。取り敢えず定型の履歴書を作りますので、希望者に書いてもらいましょう。有為の人物が埋もれてるかもしれませんし」
ただし、余りにも優れた人物が来たら身元をしっかりと調べさせてもらう。
「しかし、うちのギルドも、すっかりボーブルの組織になっちまったな」
アサシンギルドと癒着した領主…あまりイメージは良くないが、情報収集や暗殺防止に他領からのスパイの侵入防止と色々動いてもらっている。
「人が増えたら金が必要になりますからね。新しい事業を始めますよ」
アデリーヌのお茶会で女性陣からリクエストがあった女性が楽しめる施設で、もう一儲けしてやる。それに貴族の奥方を味方に付ければ、その旦那さんにも誼が出来る…結果、俺の仕事が更に増えたのは言うまでもない。




