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嫌われ者始めました〜転生リーマンの領地運営物語〜  作者: くま太郎


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ジョージの夏休み1寂しいお兄様?

 (アミ)がボーブルに来れば、ホッコリした夏休みを送れる…そう思っていた日が俺にもありました。

 アミがボーブルに来て早3日。未だに夕飯の時しか顔を合わせていません。しかもテーブルマナーがなんちゃらで、会話は殆んどなし。聞いた話によるとダンスやピアノのレッスンで忙しいらしい。

 かく言う俺も仕事に追われていた。普段は領主と学生の二足の草鞋を履いているが、夏休み期間は領主業に専念している。それを狙って書類は山の様に積まれていくし、面会もひっきりなしに来るのだ。

 しかも調子に乗って新規事業を立ち上げたのが運の尽き…前世のデスマーチを彷彿させる忙しさで、朝から晩まで働き詰めです。

 今日も朝から書類とにらめっこ、何しろ最終判断を下さなきゃいけない立場だから否が応にも慎重になってしまう…社長を始め重役の皆様、判子を押すだけの楽な仕事なんて陰口を叩いてすんませんでした。

  

「ジョージ様、お昼の時間でございますよ」

 仕事が一段落したのを見計らってアンヌさんが声を掛けてくれた。立ってる者は親でも使え、泊まってる者は客でも使え、ルリアさんとアミの侍女の皆様にもボーブル城での仕事をお願いしている。


「バゲットサンドとお茶を頼む」

 失礼だとは分かっているが、碌に顔も上げずに返事をしてしまう。バゲットサンドは早い話がサンドイッチやホットドッグの様にパンに具材を挟めた食べ物の総称である。サンドイッチ伯爵はカードゲームの為にサンドイッチを作らせたそうだが、アコーギ伯爵家のジョージ君はデスクワークの為にバゲットサンドを愛用している。ちなみにリーマン時代は片手で飲めるゼリーのお世話になっていた……貴族に転生しても仕事に追われるとは。


(本領を訪れる冒険者が増えてるのか…ボーブルでゴブリンの目撃情報?マジかよ。今、人手不足だってのに)

 たかがゴブリンと侮るなかれ、ゴブリンは雑食な上に繁殖力も強い魔物。農作物や家畜の被害が凄いのだ。しかも取れる魔石が小さいから冒険者も倒したがらない。結果、ゴブリン退治は騎士や兵士の仕事になってしまう。しかし、ボーブルはドラゴンやゴーレム馬車目当ての観光客が増え騎士も兵士も対応に大童(おおわらわ)なのだ。


「分かりました。差し出がましいとは思いますが、あまりご無理をなさいません様に…アミ様もお心を痛めておいでです」

 

「分かった。すまんな」

(マジでどうしよ?今、人を増やしても夏休みが終われば人が余るし。臨時雇いだと身元保証が微妙…しかし通年雇用にしたら人件費がかさむし)

 警察や消防を作ろうと考えてはいるけど、一朝一夕に作れる物じゃない。それに下手に兵士を増やせば、謀反等のあらぬ疑いを掛けられる危険性もある。


「ジョージ様に領主を継いで頂けたら、アコーギ家も安泰でございますね」

 確かに俺がボーブルを治めてから税収は飛躍的に増え、町も著しく発展した。しかし、それはあくまでボーブルだったから出来たと言っても過言ではない。ボーブルには有力騎士や豪商の様な既存の勢力がいなかったから自由に動けたのだ。そうでなきゃ今頃、足を引っ張られまくってる。

 幸いな事に、アランはまだまだ元気だ。俺が後を継ぐのは早くても十数年後、下手したら三十年四十年後かも知れない。それまでボーブルで力を蓄え、既存勢力に負けない組織を作る必要がある 。


「期待を裏切らぬ様に努力をする。ボーブルの生活はどうだ?何か気になった事はないか?」

 外から来た人だから気付く事って結構ある。侍女の皆さんにボーブル満足度アンケートを取りたい位だ。今なら抽選で、ボーブル地鶏の薫製があたります。


「大変活気もあり快適なお城でございます。ただ…」

 

「ただどうした?何だかんだ言っても、俺はただの餓鬼だ。年下を導くと思って遠慮なく申してみよ」

 いや、頭が凝り固まってる分、餓鬼より質が悪いかも知れない。


「失礼かと思いますが、ジョージ様もダンスや服に興味を持った方がよろしいかと。ジョージ様は、これから社交界に出なければなりません。社交界では服に疎い者やダンスを踊れない者は下に見られてしまいます」

 社交界、それは貴族にとって避けては通れない世界。参加すれば人脈が広がるし、最新情報も手に入る…いや、分かってはいるんだよ、分かっては…服は基礎知識を学んで鑑定を使えば何とか誤魔化せる。

 問題はダンスだ。社交界のダンスはワルツやタンゴの様に男女が音楽に合わせて踊るタイプ。しかしボーブルにはダンス講師どころか楽団すらいない。何より俺にはリズム感がない…音楽は音を楽しむと書く。しかし前世の俺にとって、音楽の授業は音に苦しめられる音苦だったのだ。


「…分かった。参考にさせてもらう」

 逃げちゃ駄目だとは分かってはいるけど、どうにもモチベーションが上がらない。ダンスは基本を覚えてお茶を濁しておこう。そして音楽は吟遊詩人か楽団のパトロンになって音楽好きな領主をピーアールしよう。

 貴族の間では、吟遊詩人に自分のテーマソングを作らせるのが、流行っている。俺にしたら罰ゲームにしか思えなんだが…ジョージ君マーチや素敵なジョージ様なんて、歌を作られたら憤死物である。


「カトリーヌ様はダンスが得意と聞いておりますが」

 母さんとダンス?それって地味に拷問だと思う…ちなみにキミテにもダンスイベントがあるが、ジョージのパートナーは高確率でベテランの先生になる。


(待てよ…このままじゃゲームの再現になるんじゃないか?)

 普通に考えれば俺のパートナーは婚約者のマリーナになる…しかし現状を考えると、その可能性は極めて低いと思う。アミなら快くパートナーになってくれるだろうが、可愛い(アミ)に恥を掻かせるの忍びない。母さんは最終手段にとっておくとして、ハウスキーパー部門の誰かに頼むのは…上司によるセクハラになりかねないから駄目だ。新人女子職員に銀恋でデュエットさせるオッサンと変わらない。

 夏休みでダンスの基礎を学ぼう、また休みが減ってしまう。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 アミがボーブルに来て一週間が経った。その間サンダ先生は長期休暇に入り、入れ替わりでボルフ先生が復帰。


「ゴブリンの目撃情報か…で、どうすんだ?」

 あれから毎日ゴブリンの目撃情報が届いていた。まだ実質的な被害は出ていないが、早目に対応しないと取り返しがつかなくなると思う。問題はゴブリンが、どこから来ているかだ。


「ゴブリンが来るとしたら本領からの可能性が高い筈。だから確認の為に何匹かのゴブリンを捕縛し、どこかに目印を付けた後に逃がします」

 ゴブリンをスリープで眠らせるか、パラライズで麻痺させる。そして耳たぶに穴を開けて認識票(タグ)を付けた後に逃がす。耳にタグを付けたゴブリンがボーブルで見つかれば、対応策が練れる。


「おい、アコーギ本領に何匹のゴブリンがいる思ってんだ?場所を絞られねえと徒労に終わるぞ」

 ボルフ先生の言う通り、ゴブリンは本領のいたる所に住んでいる。

 

「調査するのはヴェント谷周辺です。恐らくゴブリンはそこから来ています」

 そしてこの騒動の責任の一端は俺にある。


「なんで分かるんだ?」


「多分、ゴブリンは棲息地を追われたんだと思います。ゴブリンより強い魔物、ゴブリンシーフやハーピーでしょう」

 ヴェント谷に出没するのは風属性の魔物、ちなみに風の六魔枢はクノイチのオボロ。六魔枢一の素早さを誇り、幻術を得意とする。そしてオボロは風属性のヒロイン風継凛に化けて主人公を惑わす。

 オボロを倒すにはある宝箱を見つける必要がある。宝箱の中にはペンダントが入っており、年相応にお洒落に興味を持ち始めた凛に主人公がプレゼントするイベントが起きる。そのペンダントにはオボロの幻術を破る効果があるのだ。

 決して“何でオボロはペンダントを壊さなかったんですか?”とか“普通、目の前で違う女の子にプレゼントしたらひくよね”って突っ込んではいけない。シナリオをスムーズに進める為なので、ご都合主義にも目を瞑りましょう。


「何でそんな事が分かるんだ?」

 やっぱり、説明が必要だよね。


「あくまで予想なんですけどタスク山のドラゴンが魔物を襲わなくなった事が関係してると思います。ドラゴンが好んで狩っていたのはタスクでも高位の魔物、

そんなドラゴンがヴェント谷に行かなくなり、高位の魔物の数が増える。高位の魔物は住み処を確保する為に中位の魔物ゴブリンシーフやハーピーのテリトリーに侵入、住み処を追われた中級の魔物はゴブリンのテリトリーに侵入…結果、ゴブリンは住み処を追われボーブルに逃げて来たんだと思います」

 風が吹いたら桶屋が儲かったじゃないが、ドラゴンを味方に付けたらゴブリンがボーブルに来てしまった。本領を訪れる冒険者が増えたのは上位の魔物が増えたからだろう。


「思いっきりお前が原因じゃねえか‼…で、ゴブリンを防ぐ手立ても考えてんだろ?」


「一応はゴブリンにタグを付けた数日後に狩人に熊と狼を狩ってもらいます」

 自分で撒いた種だ。責任を持って解決して、最大限に活用しやろう。


「分かった。それと例の海水浴の日だが、お前に水中での戦い方をレクチャーしてやる」

 …なんですと?そんな事になったら目の保養計画が台無しになってしまう。


「いや、俺泳ぐの得意ですよ。潜れますし」


「泳げようが潜れようが戦えなきゃ意味がねえだろ?お前に足りないのは実戦経験だ。これからは魔物とも戦ってもらうから覚悟しとけ」

 不味い。形式的には俺の方が立場は上だけど、未だにボルフ先生には頭が上がらない。


「思春期の少年の密やかな楽しみを奪うんすか?」


「何が思春期の少年だ‼中身はおっさんだろうが…それと残念なお知らせがある…貴族の女は日焼けを嫌うから水着にはならねぇぞ。薄手のサマードレスを着て日傘の下でのんびりするのが、貴族の海水浴だ」

 ちきしょう、こうなりゃ海の幸と夏祭りに期待だ。夏祭りは夜に開催するから日焼けも関係ない。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 山は山でも放っておけば、勝手に高くなる山はなーんだ?答えは俺の机の上にある書類の山です…夏祭りが近付くに連れて俺の仕事も倍増していた。

 

(まだ減らないのかよ…しかし、ここを乗り切れば夏祭りと海水浴が待っている)

 水着は見れないが、アミと一日ゆっくり過ごして鋭気を養うんだ。

 俺が再び書類の山と対峙し様とした時、執務室の扉がノックされた。


「お兄様、今お忙しいですか?」

 見るとアミが扉の隙間から、遠慮がちにこっちを見ている。


「丁度、今一休みしようと思っていた所だよ」

俺の言葉を聞いて安心したのか、アミがドアの隙間から顔を出した。


「良かった…夏祭りに着て行くサマードレスが届いたんです。どうしても、お兄様に見て欲しくて…駄目ですか?」

 なんて可愛い妹なんだろう。もし、アミから恋愛相談をされたら本気で応援して一人で男泣きする自信がある。


「それは光栄至極、是非見せてくれ」

 そう言うとアミは照れ臭そうに執務室に入って来た。アミが着ていてたのは白地に花柄が刺繍されたサマードレス。肩が出ているのが恥ずかしいらしく、小さな肩が少し揺れていた。


(決めた‼俺が認めた男以外にはアミは渡さない)


「どうですか?アミにはまだ早いでしょうか?」

 もし、アミのサマードレス姿に文句を付ける奴がいれば三時間は説教してやる。


「アミが妹なのが悔しい位だよ」

 まあ、妹だからなついてくれてるんだけどね。


「お兄様ったら、お上手なんですから。夏祭り楽しみにしていますね」

 アミはそう言うと、スカートを翻して執務室から出て行った。


(いつまでお兄ちゃんっ子でいてくれるかな?)

 答えを知りたい様な知りたくない様な不思議な気持ちだ。お兄ちゃんっ子卒業されたら、成長は嬉しいがきっと凄く寂しいと思う。

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