所詮は子供A04
「なんたる怠惰的な態度か民間人どもっ! それが映えあるグラディオスのパイロットの姿とでも言いたいのかぁっ。3秒で集まれと私は命令したぞ! ならば1秒以内で現着せんか! 幼稚園児か貴様らぁっ!」
広いドッグは私の声はよく響く。
声を張り上げると、私は改めて美声だと確信した。
きっと、女のパイロット見習いも、整備士見習いも、惚れ惚れとしていることだろう。
「………なんだその目は。それが上官に向けるべき目だとでも言うのかあっ」
「生まれつき目付きが悪いもので」
「言い訳をするなぁ! すぐに直せ!」
「生まれつきと言ったはず。すぐには直せない。それとも副艦長は直せるのか? 生まれ持った自分の特徴を」
「当然だ! 私は常に努力し、上を目指しているのだ! 欠点があれば数秒で克服できる! ゆえに、グラディオスの副艦長という栄光のある座についた!」
「へえ。なら、俺を見上げるのはどうかと思うけど。上官なんだろ? 見下ろしてみろよ。ほら、身長を伸ばして。欠点があれば数秒で克服できるんだろ?」
「ブッフォッ!! あ、悪ぃ。気にすんな。チビ副官」
「きぃっ………貴様らぁ………貴様らぁあああああああああっ!!」
コウという黒髪を後ろで束ねたガキと、灰色のオールバックにした髪の小僧が、憎たらしい笑みで私を見下ろす。
みっともない学徒兵が知ったようなことを………!
これだから民間人は嫌いなのだ。軽蔑に値する!
確かに私は周囲のクルーと比較して、多少………小柄なことは認めよう。
それでもレイシアさんより、3センチは高いのだ!
確かレイシアさんの身長は、154センチだったはず。
それがっ! ただのっ! 小僧どもが………平和な環境に身を置き、大人たちに飼育されていただけの家畜以下の悪童が、私を見下ろす!
両名とも180センチほどか。なんて生意気な!
家畜同然に栄養のある餌を貪っただけの虫ケラが、私を見下ろす!
もう許さん!
「貴様ら、そのような態度を一貫するようであれば不敬罪に処すぞ! 独房にぶち込んでやる!」
「今度は脅迫か。おもしれぇチビだな」
「黙れ小僧ぉぉぉおおおおおお!」
「うわ、声だけはデケェ。声だけはな」
ハハハ。と嗤う悪童に殺意を覚えた。
私は優秀な副艦長で、失敗などしたことのない、超一流のエリートなのだ!
これ以上侮るというのなら、本気で営倉に入れてやる───
「この馬鹿ども! デーテル副艦長殿に、なんて言葉を使ってやがる!」
「あ、あ………?」
刑に処す。と叫ぼうとした、その時。
私の宣告を遮る怒号が響いた。思わず変な声が出て、上を見上げる。
ガリウス一号機のスラスターを点検していた学徒兵が急降下し、私と悪童を遮るようにして立ち塞がる。
「あのなぁ、不敬罪ってのは本当にあるんだぞ!? デーテル副艦長殿の一声があれば、お前ら一週間は飯抜きの営倉入りが確定することもあるんだ! それなのにお前ら馬鹿どもときたら………なにやってんだ!」
特徴的なオレンジ色の髪。覚えている。顔合わせの日、不敬にも軽々しく声をかけた、印象が最悪な悪童の頂点にいたはずの民間人だ。
しかし、なぜか………そうか。ゴミクズはゴミクズなりに、学習したというのか。
学習した先にある延長線上に、私の偉大さがあることを察知したのだな。
「け、けどエースせんぱ………」
「けど、じゃねぇぞ! お前、普段なにを学んでるんだ! 馬鹿かハーモン!」
「う、うす………」
いいぞぉ。
これは、いいぞぉ!
このエース・ノギというバカタレの評価を、少しだけ改めるとするか。
なにがいいだろうか。
ああ、そうだ。地球にいるなにかの名称………思い出した。
ゴキブリにしよう。
「お前たちもだ。ソータ! ヒナ! みんなも! さっきから改める機会をデーテル副艦長殿は与えてくれてるってのに、その優しさを無視しやがって!」
「エー先輩、変なの食べたの?」
「拾い食いはしない主義だって言ってたのにぃ」
説教を重ねると、ソータという悪童は絶句し、ヒナという準天使は涙目になっていた。
うんうん。私の偉大さに感化されたのだな。ゴキブリよ。そのまま成長して、私専属の奴隷のように働くことを特別に許してやろうではないか。
私は偉大だ。特別で、優秀で、天才なのだ。
ゴキブリの分際で、よくぞ私に尽くそうとしているではないか。なにかの虫の名称だったとは思うが、ゴキという響きに愛着すら覚えた。もし地球に行ったら、飼ってみるか。どこに生息しているだろうか。空輸で運べるか?
「おい。よく言ったな貴様。その殊勝な心掛けに免じて、私に付き従うことを特別にゆる───」
「デーテル副艦長殿は黙っててください! 今、こいつらにあなたの素晴らしさを教え込んでるんです! そのまま俺の背中越しに、このどうしようもないガキどもの学習を参観しててください!」
「お、おお………」
………私としたことが。ゴキブリの大声に気圧されるとは。
だが、悪い気分ではない。清々しくもなる。
鼻を鳴らし、試しになにをするのか見てやることにした。
「いいかお前ら! デーテル副艦長殿の偉大さは筆舌に尽くせるもんじゃねぇ! けどな、きっと俺たちにとって必要となるひとに違いないんだ! だから誓え! 俺のこの左手に!」
ゴキブリはつなぎの裾から伸ばした左手を開き、手のひらを悪童たちに掲げる。
手に誓うというのは、サフラビオロス特有の、文明的な風習なのだろうか。
具体は知らないが、私が認めた悪童が忠誠を誓うというのなら、悪くはない───
「え? は、ははっ」
「ククッ」
「くすっ」
「ふ、んふっ」
「ブッフォァッ」
「流石、エー先輩………ふふ」
シェリー、コウ、ユリン、準天使、ハーモン、ソータの順に、ゴキブリの手を見た途端に、なにが愉快なのか笑い始めたのだ。
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