所詮は子供A02
学徒兵らの悲鳴が連鎖した、同時刻。
艦長室にはクランドとカイドウがいて、ミーティングを行なっていた。
「子供たちに目立った変化はあるか?」
「いんや………不思議なことに、士気が高まってやがるぜ。マジで不気味なくらいな」
「要因は、やはり?」
「ああ。ヤツだよ。むしろヤツ以外の要因が見つかりゃしねぇ」
「ふむ………」
その日、クランドとカイドウは食堂を使わず、艦長室で朝食にした。カイドウが食堂に寄って、プレートをふたつ運んているうちに、クランドが紅茶を用意した。
中年の男がふたり、優雅に紅茶と軽食を嗜むなんて余裕はないが、定期的に情報を共有しなければ、なにかの不備に繋がりかねない。艦を預かる者としての義務だった。
そして、ミーティングの半分、人員的な問題で名が挙がるのが、決まってとある少年だった。いつものことである。
「マジで不気味だぜ。なんつったって、あのシドウがよぉ、頭抱えるくらいの問題を半日で解決しちまってから、それから嘘みたくうまく運んでくんだぜ?」
「本来なら、喜ばしいことなのだがな」
喜ばしいことなのだが、素直に喜べない。
シドウが部下にしたのは学徒兵である。2週間前は普通に学校に通い、大半が軍とはなんら関係のない生活を送るはずだった子供たち。
運命を歪めたのは敵の襲撃だ。だが戦う道を促し、志願した者を許諾したのはクランドたち大人。
葛藤はいつまでも続く。消える気配も、薄まる気配もない。
けれども、そんな罪悪感で吐き気を催しそうな日常のなかで、光が差した。雲の切間から太陽光が差し込むように。
クランドとカイドウからすれば、まさに天恵に等しい。
「エース・ノギ………こいつ、意味がわからねぇ。同じ2年生だった連中と比較しても、異常なほどに別格だぜ」
「どう異常なのだ?」
「そりゃ………勤務態度は真面目そのものだぜ? 周囲と比較して、ズバ抜けて優秀ってわけじゃねぇし、むしろ機械工学の知識も乏しいところもある。まさに中途半端な学生そのものよぉ」
紅茶をグイッと飲み干すカイドウに、クランドがおかわりを注ぐ。痺れを切らせたカイドウが懐からカルバドスを取り出すと、さすがに朝食ゆえ取り上げた。
「しかし、ケイスマン教授の遺産のなかにあった隠しファイルの謎を解いたのは、彼だと聞くが?」
「そうだよ。ケイスマンの教え子なだけあったぜ。ハルモニの協力があったのも確かだが、それでも何百枚とあった写真のなかから、ケイスマンの特徴や趣味とか、そういうのをヒントにして3分くらいで解析しやがった。俺だったら3週間以上はかかっただろうぜ」
「ケイスマンとは旧知の仲だったな。お前は」
「おうよ。けど、骨董品を集めるのが趣味だとか、知らなかったぜ」
「どうやら、エース・ノギは、我々以上に最短で人物を観察できる能力を持っているようだ」
「マジで、それよ。どうなってやがんだあの小僧。シドウも嘆いてたぜ。あの小僧は本当に学生だったのかってよ。俺も時々、学生なんかじゃない、別のなにかが目の前にいるんじゃないかって疑てきちまったぜ」
「学生ではない、なにかか………」
クランドも覚えがある。
学生たちをグラディオスで保護した翌日、物資運搬の任務でソータとエースを呼び出したところ、任意ではあったが任務の参加を促すと、エースは最初こそ戸惑っていたが、ソータが慌てると急に別人格に切り替わったように冷静になり、学生とは思えない口調で流暢に話し始めた。
その後のアクシデントもそうだ。
アンノウンBタイプを殲滅するための判断も早すぎる。軍人でも同じことができるのはたった数名だろう。
逡巡もせず最適解を選んだ。自らのなにかを犠牲にしようともだ。
賢い子だと思った。だが自己犠牲に躊躇いがないところが、酷く恐ろしかった。
そのエースがパイロット科に属していたのも知っていて、もしパイロットに志願したらどう扱うのが正解なのかと迷ったが、結局は整備士に志願したので胸を撫で下ろす。代わりにカイドウが苦労することになったが。
「その後、エース・ノギはどうしている?」
「新たに懐いた狂犬みたいな小僧………ハーモンつったか。そいつが忠犬になって、今はエースの側をチョロチョロしてらぁ。微笑ましい光景だぜチクショウ」
「なにか問題があるのか?」
「ねぇよ。無いから逆に不気味だぜ」
「そうか。………そういえば、エース・ノギにハルモニの使用権限を与えたと言ったな。回収はしたのだろうな?」
「………ゲッ」
「カイドウ?」
アルコールを垂らし損ねた紅茶を啜る息が詰まる。危うく服にこぼすところだった。
硬直するカイドウを、クランドが厳しい視線で見据える。
「わ、悪ぃ………忘れてたぜ」
「ハァ………始末書ものだぞ。悪用されたらどうする?」
「あ、あいつは………んなこたぁするタマじゃねぇよ」
「過信は毒にもなり得るといつも言っているだろうが」
呆れたクランドは腕の端末を起動して、ハルモニを召喚する。
視線を逸らしたカイドウはエースを信頼していたが、実際はエースも子供だ。犯罪レベルの行為はハルモニが許可しないものの、グレーゾーンギリギリを攻めるという傾向も否定できない。
カイドウも息子を持つ身だ。今でこそ実直で堅物な性格をしているが、未成年だった頃は、それなりに無茶をしたので叱った記憶もある。
気が気ではなかった。持たせたのはグラディオスの頭脳だ。悪戯などしようものなら───
「ハルモニ。直近のエース・ノギの行動記録を表示しろ。また、お前を使用したログもあれば表示しろ」
「イェス。キャプテン・クランド。行動記録一覧を表示。ならび使用時間と具体を表示。最近のであれば、5分前に使用した履歴があります」
「あ、あの馬鹿ヤロウッ!?」
まさか5分前にも使っていたとは思わず、カイドウは叫びながら立ち上がる。
しかし、だ。
使用した履歴を見たクランドは、不可解そうにしながら首を傾げるのだった。
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