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美しき、歌声



その唇に見覚えがある気がした。


歌うたいはゆっくりと声を出し、哀しげに、歌詞を歌い始めた。


その声を聞いてまたもや、心臓が跳ね上がった。


リューンがそろそろと、力なく立ち上がる。

手が震え、足が震え、身体の全てが震え出して止まらない。


「ま、まさか、」


「リューン様、演奏中です。お座りください」


いつのまにかローウェンが後ろに立っており、リューンの肩に手を掛けて押した。そのローウェンの力に負け、リューンはよろっとよろけながら椅子に座り直す。


(いや、そんなはずはない)


サリーの二人の侍女が、怪訝な顔をして、リューンを見ている。

けれどすぐに、その歌を聴き、なんて綺麗な歌声でしょう、と感嘆の息をついた。


確かに。それは美しい歌声だった。


聞きようによっては、悲哀を含んでいるような、そのか細い声。


(心に響いてくる)


どんな歌なのだろうか。どうやらそれは異国の歌のようで、歌詞の意味はわからない。旋律だけで判断しようとすれば、それは失恋、いや愛しい人を失った深い哀しみのように聞こえてくるのだ。


(……ムイ)


その歌声は、リューンに刻まれた深い傷を呼び起こす。


そして、歌が佳境に入ると、その歌うたいの動きにつられて、リューンは視線を揺らした。


歌うたいは、次には並ぶテーブルを横切って、サリーの横に擦り寄った。そのすぐ隣に座るリューンが、呆然とした顔で、その様子を見る。


そしてサリーの耳元に何か囁いたかと思うと、すぐに離れていった。


部屋にいる皆はそれを一種のパフォーマンスだと思い、期待に満ちた顔で見ている。

歌を歌いながら、さっと後ろへと下がった女に、部屋中の視線が注がれた。


「さっきの、何だったのかしら」

「ふふ、サリー様にちょっとしたサービスみたいな?」


侍女のひそひそ声を、邪魔に思う。それ程にリューンは、その美しい歌声に耳を奪われていた。


その時。隣で。サリーが、ほぼ聞き取れないような声で、何かを呟いた。


「ん、どうした、サリー?」


リューンは、耳を寄せた。


「り、り、リリー、」

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