呪われている
「なんだ、と……」
リューンの目が見開いたまま、凍った。
「ムイが、国王陛下の元へ……」
「……ローウェン、嘘だと言ってくれ」
「リューン様、残念です……」
ローウェンが断腸の思いで告げにきたということが、その顔からありありと見て取れる。手には、一枚の紙。ワグナ国の要職についているローウェンの旧友からの、二度目の手紙だった。
「どうして、そのようなことに……いや、そうだ、ムイの名前だ……名前を狙って、ムイを、」
「ムイは名前を渡さなかったそうです。ですから、そのまま国王陛下へと献上されることに決まっ、」
だんっと音が響いた。リューンが両の拳で、机を叩いた。
「献上だとっっ‼︎ ムイは商品じゃないぞっ‼︎」
「リューン様っ」
握り込んだ両手がぶるぶると震えている。唇は噛み締められ、血が垂れていった。ローウェンは、慌ててリューンの名前を呼んだが、リューンの耳には入らない。
諦めて、ローウェンは静かに部屋を出た。ドアの前で、息を吐いていると、中からリューンの雄叫びが聞こえてくる。何かを叩く音に紛れて、泣き叫びながらムイを呼ぶ声も。
ローウェンは耳を塞ぎたくなった。
足早にその場を離れる。
そのうちに、ローウェンは自分の目頭が熱くなっていくのを感じた。
(こんなバカな話があるかっ‼︎ 心を頑なに閉ざしていたリューン様が、ようやく一人の女を心から愛せたというのにっ‼︎)
袖口で、ぐいっと涙を拭う。
(呪われている、呪われているんだっ。この城も、リューン様の力も、そしてムイの力もっ)
ローウェンは執事室へと戻ると、ドアを力任せにバタンっと閉めた。ネクタイを緩めて首から引き抜くと、床にバシッと叩きつけてベッドに転がり込む。
当分、リューンに呼ばれることもないと思い、そのままごろんと天井を見ると、目を閉じた。




