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謀略



「陛下っ、なにかの間違いです。ムイがそのようなことをするわけが……脅されているのです、そうだ、以前もハイドという男に脅されていた」


「ハイド? 聞いたことがあるぞ。リアン、お前の使い人ではなかったか?」


「そうですが、それがなにか?」


「ムイの父親を人質に、」


「リューン殿っ、何を証拠にそのようなことを?」


「私もその男に脅された。それが証拠だろう」


リューンが負けじと競り合う。


「とにかく、私はリンデンバウムへ戻ります」


踵を返して立ち上がると、部屋のドアの前にはもう一人男が立っていた。


「ライアンっ」


昔、国王の命を受けてムイをリンデンバウム城から自らの城ブリュンヒルドへと連れ出したことのある、シーア=ブリュンヒルドの孫ライアンが、そこに青ざめた顔をして立っている。


「ライアン、どうした?」


リューンが嫌な予感を抱えながら問う。


「リューン殿、あなたはもうリンデンバウムには戻れません」


「……どういうことだ」


「領土を乗っ取られました」


「ハイドという男か、そうだろう?」


「いえ、」


リューンは衝撃を受けて後ずさった。


「ユリアス神父です」


頭を殴られたような衝撃があった。まさか、あの若輩の神父が反乱を起こすなどということに、考えが至らなかった。


「どのような経緯でそうなったのかわかりませんが、ハイド氏は死亡し、そして、」


ライアンが顔を歪めた。


「ムイも、」


「……嘘だ」


「亡くなりました」


「なんということだっ」


背後で、シャルルが声を上げた。

その声を遠くに聞きながら、リューンはよろ、とライアンへ向かって歩き出す。


「待ってくれ、」


両手を上げ彷徨わせながらようやく歩く。ライアンの肩に手を置くと、リューンは呟いた。


「嘘だ、そんな話は嘘に決まっている」


「リューン殿、」


リューンの視線から、ライアンは視線を逸らした。


「残念です」


「待て、ライアン、そんな話はやめてくれ」


ライアンの肩から手を離すと、ふらふらと歩いていく。


「リューン殿っ」


「……信じない、そんな話は信じない、信じたくない」


大広間の開いたドアから、足を引きずりながらそろそろと出ていく。


(帰らなければ、ムイの元に帰らなければ、)


その一心で、廊下を歩いていった。

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