歌を
ムイは、身体中から出ていく声を、さらに前へと、そしてこのリンデンバウムの青々とした空に向けて、放った。
シバのかき鳴らす二胡の伴奏も、いつからか耳には届かない。
怒涛の終盤の歌詞を歌い切ると、ムイは息をついてから、顔を元に戻した。
観客は波を打ったように、しんと静かだ。
驚きで満ち溢れていた。いや、呆気に取られていたと言っても過言ではない。
そのムイの歌の力強さ、その素晴らしさに、感動で打ち震えているのだった。
「あ、あの、」
けれど、そんなことも知らずに静まり切った反応に、ムイはどうしていいのかわからなくなった。
横で座っているシバの顔を見る。シバが、そろりと立ち上がるのが見えた。
「し、シバ、」
声を掛けるが、震えた弱々しい声しか出ない。
どうしよう、と思い、後ろを振り返ると、イスに腰掛けていたはずのリューンが中腰から立ち上がろうとしていた。
「……ムイ」
リューンへと手を伸ばす。けれど、足は震えたまま言うことを聞いてはくれない。すると、リューンが足早にバルコニーへと向かい、そして攫うようにムイを抱きしめた。
「ムイっ」
身体をぐいっと抱え上げられ、ムイは軽やかにその身をリューンへと委ねた。
「ムイ、素晴らしいっ、素晴らしい歌だった」
「リューンさま、」
そして。
リューンがムイを掬い上げるのと同時に、どっと歓声が上がった。
「なんという美しい歌声だっ‼︎」
「ムイさまあ、ムイさまああぁ」
「我らがリンデンバウムの歌姫の誕生だっっ」
「ご結婚、おめでとうございます‼︎」
口々に言い、あちこちから叫び声が飛ぶ。
ムイは、例えようのない喜びを感じていた。
(全てはリューン様のおかげ……)
リューンを見る。
すると、どきっと心臓の鼓動が跳ね上がった。
それは、リューンの慈しみの視線。優しさに満ち溢れた、瞳。
自分にこれほどまでに注がれている。
そしてそこから溢れるような愛情を感じて、ムイはさらに胸をいっぱいにした。
リューンがムイを抱えたまま、領民に手を振る。その度に、どっと歓声が湧き、ムイの身体をびりびりと振動させる。
「ムイ、お前を愛している」
耳をつんざくような歓声の中、そっと入り込んでくる声。その言葉を胸の中で噛み締めて、ムイは幸福感で全身を震わせた。




