エピローグ
◇◆◇◆ エピローグ
ここは自分にとって都合のいい世界だと明人は言う。
まず、何よりも私が手に入った。
日本では絶対に私が逃げるのが分かっていて(確かにその通りだ。あの頃の私に明人の手をとる選択肢はこれっぽっちもなかった)もうどうにも動けなくなっていたのと正反対で、気持ちを告げるのに何も躊躇いはなかったと言う。
私が変化が怖いというのは分かっていた。でも私と明人がどうなろうと、環境そのものが大変化なのだから諦めろすんなりと言えたと。
しかも十代からやり直せる。精神的には元の年齢のままだけれど、体が若い。そうすると出来ることが途端に増える。
何よりも子供だ。極論を言えば結婚は死ぬ寸前まで可能だ。だけど出産は女側にタイムリミットがある。ましてや私たちは従兄妹。通常よりリスクがある。そのうえで元の年齢だと高齢出産と、明人との子供を産むタイムリミットはとっくに過ぎていた。私は、私だけにリスクがあるのなら構わない。けれどリスクを負うのは子供だ。私は子供に、明人は私と子供に、そんなリスクを負わせるような選択をとれるはずがない。仮に日本で気持ちを通わせたところで私たちは子供を選択しなかっただろう。
でもここなら。従兄妹であることは変えられないけれど、年齢によるリスクはなくなる。……望める。
長年、明人が何も行動を起こせなかった事で得られなかったものを望めるようになった。
そのうえで、自分(つまり明人)が、私のヒーローになれる、と。
望んでない祝福なんてものを押しつけられ持て余す私を救えるのが自分だというのは、ひどく嬉しい。やはり自分の女は自分で守りたいと言われた。男の身勝手な願望だけど、それを叶えさせてくれる世界だと。
自分にとって都合のいい世界だと明人は言う。
でも、私にとっても都合のいい世界だ。
失った若さを取り戻して、私が知る限り最高の男性である明人に愛を告げられ、守られて。
ただ私が私であれば明人の力になれるなんて、楽なことだけ求められて。
日本にいた頃の私は、自分が結婚出来るなんてこれっぽっちも思っていなかった。自分の人生の先に、そんな幸せがあるなんて、想像すらしなかった。
ましてや、明人が望外の幸せを与えてくれるなんて、夢にすら見なかった。
それを明人が現実にしてくれた。
苦しいこともある。身よりが互いしかいない事に不安が全くないといったら嘘になる。寂しい時もある。一般常識が違う世界は分からないことだらけだ。日本よりも暴力や死が身近にあって怖くもある。
明人に腹を立てることも、私が怒らせることもあるだろう。喧嘩だってするに違いない。
でもそれを上回る幸せを、明人が与えてくれる。
なんて都合のいい世界。
けれど、いいことだけではない。
果てしなく都合のいい世界だけれど、その代償として二人とも『罪』を犯した。
どう言葉を取り繕ったところで、自分達の幸せのために親を捨てた事実はなくならない。私たちはそれを罪と認識している。
戻る手段が何もなかった訳ではない。私だけなら戻れた。でも戻らなかった。明人から離れる選択肢をとれなかった。
明さんも瞳さんも、私たちが幸せになるなら認めてくれるだろうけれど、それは免罪符にならないし、したくもない。
私たちは、この罪を一生背負って生きて行くのだ。
一人ではつぶされてしまうから、私の罪悪感の半分を明人が、明人の半分を私が持つ。総量にかわりはなくても、互いに支え合えばつぶされずに生きていけるだろう。
だから。
「一生、一緒に生きよう」
明人の言葉に頷く。
「幸せにしてね。私はあなたを幸せにするから」
最後まで読んでいただきまして、ありがとうございました。
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自分の至らない点もたくさん発見できたので、今後はそれをいかしていきたいと思います。
繰り返しになりますが、本当にありがとうございました。




