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 大会はいくつかの都市や街から代表となるチームが参加しての勝ち上がり方式となっていた。

 都市の大きさによって代表チーム数はかわっており、南野透のいた街は一チーム、つまり彼のチームだけだった。

 基礎体力の違いから多少の苦戦はしたものの、無事に優勝出来た。

「……なんか腑に落ちない」

 内輪での祝勝会の場で、透がそうこぼした。居酒屋の一室を貸し切っての宴会だ。十名程度入る部屋にそれを超えた人数が押し掛けている。透の彼女……いや、今となっては婚約者をはじめ、チームメイトたちの身内だ。各々健闘をたたえ合って盛り上がっている。

「何が」

 静かに杯を傾けていた明人は、問う。本当は呑気に酒など飲んでいる気分ではないのだが、世の中には付き合いというものがある。声をかけられれば会話をかわすが一緒に盛り上がることはない。

「アキトが入っただけであっさり優勝出来た」

「それの何が悪い」

 目標だったのだから、優勝出来たのはめでたいことだろう。愚痴るようなことではない。

「だって、予選でも結構苦労したのに!」

「贅沢な奴だな。……まあ今回は運が良かったんだ。まだ足元の技術が普及していないから主導権をとれただけだ。今回の結果で、フィジカルだけでなく技術的要素にも目が向けられるようになるだろう。そうなると基礎能力の高い奴らのほうが有利だろうな」

「冷静だなオイ」

「皇太子の手の平の上ってことだよ」

 明人は小さくため息をついた。

「どういう意味だ?」

「高木とお前が皇太子に教えたんだろ。だったら最初に見たのは結構レベルが高かったはずだ」

「……そりゃまあ。大介いたし」

「気にいって普及しようとしたものの、技術よりフィジカル勝負が目立つようになってしまった」

 とりあえず前に蹴って、あとは混戦を力で乗り切る。そんな戦法をとるチームが殆どだった。技術指導できるような人材の前に、手本となる存在もいないのだから当然といえる。

「それじゃあ面白くないだろ。今は新しい競技で、皇太子が勧めているからやってみようっていう奴が多くてもこのままじゃいずれ廃れる」

「うん」

 勝負事なのでそれなりに観客を沸かせもするが、目新しさがなくなれば「別にこれでなくとも」と他に興味がうつるのは容易に想像がついた。透も素直に頷く。元となった競技の楽しさを知っているだけに「これではない」感は強い。

「他の選択肢もあるなかで敢えて……蹴道、だったか? これを選ばせるだけの魅力を手っ取り早く見せたかったからの大会だろう」

「うーんと?」

「分かりやすくいうと、結婚を餌にすればお前が奮起してチームメイトを鍛えるだろ。そうして作られたチームが大会で活躍すれば魅力が伝わりやすく、どんな宣伝より効果的だ」

 透は黙りこむ。

「お前の未来の舅は、皇太子の協力者だろうな。何がそこまで気に入ったのかは分からないが、すべては蹴道を普及させたいための策略だろう。その通りの結果になったので、手の平の上と言ったんだ。さすがに俺の参加は想定外だろうが」

「……」

「なんだか物凄く私が腹黒く聞こえるね?」

 突如かけられた声に、透はびくりと振り返った。明人は正面から人が近づいてくるのが見えていたのでそう驚いてはいない。頭から足先まで、全身を隠すローブをはおった姿を不審者っぽいな、とは思っていたが。近くでみると生地は光沢があって質がよく、細かな刺繍がほどこされたものだった。堂々とした立ち振る舞いは不審者のそれではない。なんとなく予想はついたので騒ぐこともないだろうと放っておいた。実際、予想通りの人物だった。この展開で「私」と言う人間は、つまりそういう人物だ。

「あ……!」

「静かに。今は騒がれたらまずいんだ」

 透を黙らせた後、明人に視線を向ける。

「少し時間をもらえるかい」



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