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4-4

いつもありがとうございます。説明回です。

◇◆◇◆ 4-4


「あのう、よろしいですか」

 離れたところにいるマガトが声をかけてきた。

「なんだ?」

 何事もなかったように対応できる明人の図太さが羨まし……くはないか。

 促されて、マガトのいる方へ戻るとさっきまではなかったものが出現していた。

 机と椅子だ。今からガーデンパーティーでも始めるんですか、って感じの白い丸テーブルと対になった椅子が三脚。どこから引っ張り出してきたのか埃っぽいけれど、そんなものは拭けばいいだけの話だ。というかどこから出てきたのこれ……。

「質素なもので申し訳ありませんが、どうぞお使いください。あ、その前に!」

 じゃあありがたくと座っていいものなの? と悩んでいたらマガトは手をたたいた。

「お二人に対して魔法を使わせてください。使いたい魔法は『洗浄』です。これがどういうものかというとですね。この机、埃をかぶって汚れてますよね。そこに……」

 妙に生き生きとマガトは話し続ける。なんとなく口をはさむタイミングを逃して、二人そろって聞いてしまっている。

 マガトは右手で机にふれてから目を閉じた。すると、まず右手が淡いクリーム色の光を発して、それが机へと広がっていく。

 幻想的な光景につい見入る。

「……綺麗」

 思わず感嘆のため息が出る。

 光がおさまった時には、机の埃っぽさはなくなって、ピカピカの新品みたいになっていた。

「ありがとうございます。このように、汚れをとります。修復ではないので、ついてしまった傷はなおせませんが、少しはサッパリすると思います。いかがでしょう」

 照れたのかやや早口でマガトは言った。

 いかがも何も。

「是非とこちらから頼みたいぐらいだ」

 明人の言葉に頷く。えぇ本当に。

 そうして最初に明人、次に私と順番に洗浄してもらった私たちは久しぶりにサッパリした気分を味わえた。体と服の汚れをとってくれるのね。素晴らしい。お風呂に入れていないのはものすごく気になっていたので嬉しい。

 マガトの光に包まれている間は気持ちがほっこり温かくなった。自然と表情も緩む。

「へぇ……たいしたもんだな」

「洗浄は基本的な魔法ですし、魔法具にもなってますから簡単に手に入りますよ」

「ちょっとその辺詳しく聞かせてくれないか。まぁ座れよ」

 あたかも自分が用意したテーブルセットのように明人はマガトに椅子をすすめた。

「あ、どうも」

 それを自然に受けるマガトもどうかと思います。

 私だけ立っているのもなんなので、座りましたけどね。




「魔法ってのはこの世界ではみんな使えるのか?」

 明人はやけに魔法にくいつく。それはオトコノコ的興味ではなく、何が出来るか分からないがための防衛本能みたいなものだろう。自分が使いたいとは一度も言わず、それがどういうものかを聞いていることからも明らかだ。

「まさか。一部の者だけですよ。みんな使えたらわざわざ魔法騎士団なんて作りません」

「それもそうか。一部ってどれぐらいなんだ? 十人に一人とか?」

「貴族だけで考えると、だいたいそれぐらいですね。でも平民で使えるものは殆どいません」

 へぇ、と、明人は感心の声をあげた。

 貴族だ平民だと言われると、表向き身分差のない日本人としては構えてしまう。

「魔法具ってのはなんだ? 名前からして魔法の道具、か?」

「そうですね。特定の魔法がこめられた石になります。あ、これなんかそうですよ」

 マガトが懐から取り出したのは、透き通った青い色をした石だった。私の親指の第一関節ぐらいまでの大きさ。宝石と考えたら大きいけれど、パワーストーンだと普通の大きさ、かなぁ。

「これは念話の魔法が入ってまして、魔力をながすと起動する仕組みになってます。あ、だから魔法が使える者しか利用できませんね。えっと、起動すると、これと対になる石を持っている人に声を届けることが出来ます。シェイラさんが持ってますから、やってみますか?」

「起動はいい。……最初に俺たちの会話をあの女が聞いていたのはそれを通じてか」

「そうですね。いやー、俺、シェイラさんみたいに賢くないから、とりあえず会話を届けておけばどうにかしてくれるかなって思って咄嗟に起動しました」

 そんな、のほほんと賢くないと言われても……。別にそれをマイナスと捉えてなさそうな辺りは人柄だろうか。

「魔法に関しては、三人の中では俺が一番使える種類多いし、知識も多いし、魔力も大きいんです。ただ、どこで何を使うかとか、どこまで話していいかとかはあとの二人の指示待ちになりますねー。俺、魔法馬鹿なんで」

 え? なんか今、自慢げに言われたよ!?

「お前はそれでいいのか?」

 明人も反応に困っているようで、戸惑うように聞いた。

「はい。今だって魔法に関しては話して大丈夫って聞いてますし。ちゃんと指示くれる人はありがたいです!」

 ……えーっと。

「そうか……まあ本人がそれでいいなら……」

 あまりいいと思ってなさそうだけど、口出しすることじゃないかと結論づけたらしい。

「ええと魔法具に話を戻すと、一つの石にこめられる魔法は一つだけです。効果は石の質によりますね。目安としては色が濃いほどいいものになります。どうしてかっていうと、色がついている間が魔法が有効だからです。魔力による起動じゃなくて、普通の人が使う場合は、起動の言葉か動作が決められてますよ」

 こちらの困惑など気付いてなさげにマガトは話を続ける。その様子はとても生き生きとしていて、嬉しそうだ。……うん、本人がいいならそれで……。

「この机を出したのも魔法なの?」

 明人が反応に困っているので、私から質問をむけた。

 明人としては、出来る人間なんだから自分の能力の発揮場所ぐらい自分で判断しろよと言いたいのだろうけど、口出しするほど深い仲でもないから言えずにいる葛藤があるようだ。

 でもね。自分の能力に見切りをつける、というとマイナス思考だけど、本人が散々足掻いて、でも出来なかったことを「出来るはずだから頑張れ」と言われても辛いのだ。だから本人が決めたことなら、傍からみてどれだけもどかしくてもそれでいいんじゃないかな。選択が間違いなら、いずれ本人が悟る。第三者が「こうあるべきだ」と上から押し付けるものではない。

「そうです。俺は転移を使えない分召喚が得意なんですよ」

「転移と召喚の違いって?」

 字面でなんとなくわかるけど。

「簡単に言うと、転移は自分が移動して、召喚は自分の元に持ってくる、ですね。あと転移は魔力量に応じて自分以外の人間も一緒に移動出来ますが、召喚はモノしか移動できません。だからええと、今、馬車を召喚してる最中なんですが、馬は無理なので俺が乗ってきたのを使います。あ、召喚は対象物の大きさによって時間がかわりますね」

 明人サン、机の下で手を握るのやめてください。指からめてるし! もしかして私が他の男性と会話したので嫉妬してるんだろうか。ってさすがに自意識過剰だよね。……だよね?

 ふりほどこうとしても、うまくかわされて出来なかった。

 ところかまわずイチャつこうとするのやめてください、さっき日本人の倫理観持ち続けましょうって言ったばかりじゃない。そんな意味をこめた視線を向けたんだけど……明人は強張った表情で一点を見ていた。

 視線の先は私からすると明人の向こう側。マガトと会話していたら気付かない場所だった。陽炎のようにぼんやり揺れながら何かが現れようとしていた。

「ああ、馬車ですから安心してください。俺が召喚してるものです。大きなものですから時間かかってまして。でもここまできたらあと少しですよ」

 私たちの視線が向かう先に気付いたのか、マガトはのほほんと伝えてくる。未知の現象に驚いているのだろうと安心させる言葉もつけて。

 私なんかは「ふぅん、そうなのか。こんな風にゆらぎながら現れてくるんだな」としか思わないのに、明人の表情は強張ったままだ。

 徐々に実体化していく馬車の本体は一頭でひくからか、さほど大きくはなかった。上に覆いがあるこの形をなんというのだったか。

「幌馬車だな」

 明人の知識は時々謎の方面に深い。

 その馬車が実体化すると、明人の手の力が緩んだ。でもなんだか振りほどいてはいけない気がしたので、そのままにする。

 何が明人を不安にさせているんだろう。それは二人きりになれば教えてくれるの? 話を聞くぐらいしかできないけれど、私だって明人の力になりたい。

「……招き人というのは、誰かが召喚した存在なのか?」

 明人の問いはどこから来たんだろうか。召喚という言葉からの連想?

「申し訳ありません。招き人に関しては、正解でも間違いでも、見当違いでも、とにかく喋るなと言われてまして。招き人の待遇がいいので、過去に渡り人がなりすました事があったんですよ。だから確証がとれるまでは話すなと」

「なるほど。通りであの女がすっとんでくるはずだ」

 マガトと出会った頃の事を言っているのだろう。

 マガトが話す前にシェイラは現れて、会話の主導権をもっていった。

「いやー、怒られましたよ」

 はははと呑気に笑うマガトをみて、一瞬、シェイラに同情してしまった。暖簾に腕押し、糠に釘。注意しても反省の色がない相手って、疲れるよね。

「転移や召喚ってのは便利だが、使う奴の性根によっては犯罪の手段になりそうだな。何か予防してるのか?」

「ああ、最初は皆さんそこ危惧するんですよねー。でも制約多いので、考えるようなことは無理ですよ」

 といってマガトは制約について教えてくれた。

 いわく、誰かを連れて転移する際は同行者の同意が必要だから誘拐には使えないこと。転移先だってどこでもいい訳じゃないらしい。

 いわく、召喚はどこからでも持ってこれる訳じゃなくて、あらかじめ自分の魔力を浸透させた場所からのみ可能だから窃盗には使えないこと。魔力を浸透させるには結構時間がかかるらしいし、一般的な商店は魔法禁止の結界がはってあるので無断で浸透させるのも無理。

 などなど。

「根本的な質問で悪いんだが、魔力ってのはなんだ?」

 ここまでの説明でたびたび出てくる単語を明人は質問した。

「魔法を使う際に必要となる力ですね。体力みたいなものですよ。生まれつき持っている量は人によりますが、鍛えれば増える。アキトさんとミィアさんの体力は違いますよね。そんな感じです。あと走れば疲れるし、休めば回復する」

 私たちは名乗ったのだけど、マガトだけでなくシェイラも、正しく発音することは出来なかった。

 明人はアキト、美弥はミィアと呼ばれることになった。HとYが鬼門なんだろうか。

「分かるような、分からんような……」

「こればかりは『そういうもの』ですからねー。馴染んでいってください」


もう少し説明回続きます

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