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4-1

いつもありがとうございます。美弥視点に戻りました。

◇◆◇◆ 4-1.


 今日まで私は流されて生きてきた。

 自分のやりたい事、なりたい事を目指すのではなく、楽な方、他者に示された方、無難な方を選んでいった。いや、選ぶ、という言葉は正しくない。ただ、流され続けた。


 高校は環境の変化に右往左往している間に気づいたら志望校が決まっていた。お金のかからない公立で工藤家から通いやすいところから学力を考えたらほぼ一択だったので、妥当なところだっただろう。もっと上の高校に入れるはずの明人が同じだったのには驚いたけれど、サッカーに力をいれている学校だったので納得できた。


 大学は、高卒で就職する・しない(今思えばこれが私からした数少ない意思表示だった。結局選ばなかったけど。)を明さんと話し合ってる間に、何故か明人に決められていた。同じ大学だったのは手続きを楽にするためだろう。

 とにかく進学しないと明さんは納得してくれない、就職するつもりでいたので行きたい大学、学びたいこともなく、じゃあそこでとなった。当時の学力からは少し難しい大学だったけれど、明人が家庭教師状態で面倒をみてくれたのでなんとか受かった。


 就職は、情報システム関連が比較的求人が多かったのと、大学の講義で基礎を学んだ時にさほど拒否感がなかったのでその職種で探した。

 本は好きだけど、それを職にしようというほどの熱意もなく。ただ出来そうだ、求人が多いというだけが理由だったので面接では苦労したけれど、なんとか今の会社に潜り込めた。そういえば何故明人まで同じ会社だったのだろうか。……というのは今は関係ないので考えないことにする。


 そして、今。

 日本どころか地球ですらない世界にいるのも、望んだ結果じゃない。

 やっぱり、流された結果だ。


 自分で選びとらなくても、誰かが示してくれたり、あるいは全く思ってもなかった事態に巻き込まれる。

 そうやって、今まで生きてきた。


 そんなことをつらつらと思い出しているのは、己の将来について真剣に考えたことがないのを悔いているからじゃない。

 ちょっとした、現実逃避だ。




「……なぁ。今、何考えてる?」

 疲労を隠そうともせずに明人が問うてきた。

 そうねぇ、と同じぐらい疲れた声で返す。

「人生、一寸先は闇、ってところかしら」

 上司と面談のたびにキャリアプランをちゃんと考えろと言われるのだけど、だって何が起こるか分からないのだから考えても仕方ないと、今なら返しても許される気がする。

 つい逃避したくなる現実とは何か。


 それは、少し時間をさかのぼる。





 私のペースにあわせてのんびりと、休憩をこまめにはさみながら移動を続けていた。

 一晩を過ごして、今日は移動を始めてから二日目だ。

 明人が収穫してきてくれた果物を大事に食べて、水は川からくんで、どうにか過ごせている。

 今日あたり何か見えてこないと困るねと朝食の場で会話をしていると、背後から一頭の馬が……正確には馬に乗った人がやってくるのが見えた。

 ようやく現地の人の姿が見えたのは喜ばしいけれど、どうみても急いでいるようなので話しかけるのは無理だろうと判断した私たちは、大木の陰に隠れるようにしてやり過ごそうとした。

 ちなみに睡眠と朝食はその大木の傍ですごしたので、随分とお世話になったことになる。


 そう。

 私たちは、やり過ごそうとしたのだ。


 でも先方がそうしなかった。

 私たちの前で馬はとまり、乗っていた人は慌てた様子で降りた。


 初めて会う現地の人の姿に、さすがの明人も緊張していた。

 動き的に私たちに用があるのだろう。人を探してるんだろうか。

 友好的でなくていいから、せめて敵対されなければいい。いやそもそも言葉は通じるのか。

 様々な疑問や不安を抱えながら、次の動作を警戒していると。


 その人は、切羽詰まった顔で私たちを観察した後、その場に崩れ落ちた。

「何故……何故っ! おとなしく待っていてくださらなかったのです! 禄な準備もなく徒歩での移動など、危険ではありませんか!」

 っていうか、そもそもアナタ誰ですか。私たちにこんな知り合いはいない。

 そして誰が、誰を待つというのか。

 そんなことを呻くような声で言われても困る。

 思わぬ展開に、つい、自分の生き方について考えてしまうほどだった。


「人違いだ」

 いつもより固い声で明人は返し、「行こう」と私の手をとって歩き出す。

 えぇ、行きましょう。

 確かに私たちは現地の人と会おうとしていた。

 でも想定していたのは、歩いていけば村とか町といった集落にたどりついて、普通の人と会えたら、というものだった。こんな、よく見たら剣とかもっているような危険な人とは会いたくない。

 考えが甘い自覚はある。でも他に選択肢はなかった。

 私たちは、甘いと分かっていても選んだのだ。それをいきなり現れた初対面の不審者に責められたくはない。

「お待ちください! 人違いなどではありません! 私は……私たちは、貴方様をお迎えにあがったのです。どうか話を……っ」

 コートの裾にすがりつかれた。

 ええと……。

「アキ、どうしよう?」

 困って、助けを求める。

「その手をはなせ」

 気づいてくれた明人は、愛想のカケラも見あたらない冷たい眼差しを不審者に向けた。それでも手をはなさない根性だけは認めてもいいと思う。美形の冷たい表情って迫力があるので、私なら条件反射的に従っているところだ。

「話を聞いていただけるまでははなしません」

 なんだかなぁ。

 明人ほどではないにしろ、この人も美形なのに、もったいない。

 ぱっと見は、物語に出てくる中世ヨーロッパの騎士みたいな出で立ちをしている。体も鍛えているのだろう。すらりとした体型は、黙って立っていれば絵になるはずだ。金髪碧眼で白馬に乗ってるとか、どこの王子様だ。

 でも今は、必死の表情でコートの裾を握りしめている。強く引っ張れば、生地を痛めるだけの結果になりそうだし……どうしたものか。

 もしかして、これってチャンスじゃないだろうか。ふとそんな考えが浮かんだ。

 初対面のインパクトに引いてしまったけれど、多分この世界の人だろうし、何より私たちを傷つけようとする様子がない。

「ねえ、話、聞いてあげてもいいんじゃないかしら? そのかわりこちらも聞きたい事を教えてもらうとかにして」

 明人に提案する。

「ありがとうございます!」

「おい、まだ聞くと決めた訳じゃ……まぁいいか」

 どんな判断があったのか、明人は頷いた。


 立ったままの会話というわけにはいかず、近くに場所を移動することになった。大木から少し離れたところに座りやすい段差のついた大岩があったので、丁度よかった。

 明人は私を段差に座らせ、自分は横に立った。

「私はスウォル王国の魔法騎士団のマガト・ヘリオスともうします。マガトとお呼びください」

 マガトと名乗ったその人は顔を上げ、ひざまづく態勢で話し始めた。


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