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セブンス  作者: 三嶋 与夢
お金大好きで恐妻家な四代目
63/345

オートマトン

「背負われライエル……お前の『ポーター』を頂くぞ」


 身なりの良い冒険者は、そう言うと周囲にいた仲間に指示を出す。


「構えろ。戦闘直後で息切れをしている今がチャンスだ。先にオートマトンを狙う」


 煙が発生し、何やら体が思うように動かなかった。


(爆発と何か――)


 二代目が言う。


『換気を急げ!』


 左手サーベルを手放して右手で魔法を発動するが、ポヨポヨに向けられた矢の攻撃で新たに煙が発生していた。


 身なりの良い冒険者は、ボロボロになったポヨポヨを見る。


 服は破け、肌は露出し、血が流れて中の金属部分が見えていた。


「ポヨポヨ……お前らぁぁぁ!」


 激高する俺に、五代目が言ってくる。


『落ち着け。魔法を使用して少しでも換気を急げ。そして交渉だ。時間を稼ぎつつ、相手の隙をうかがえ……敵は交渉するつもりみたいだぞ』


 五代目の意見を聞くと、確かに向こうは俺を見ていた。


 ポヨポヨがボロボロになりながら、攻撃を受け止めている。


「オートマトン……学術都市の七傑が復活させた古代技術の結晶か。売れば高いんだろうが、無理なら破壊してもいいぞ。壊れてもそれなりに売れるだろうからな」


 俺が歯を食いしばると、体のしびれが少しだけ弱まったのを感じる。


 三代目が指示を出してくる。


『ここで感情にまかせるともっと死ぬよ。ポーターを見るんだ』


 視線を向けると、クラーラが手で無事だというのを知らせてきていた。


 アリアが飛び出そうとするのを、ミランダさんが止めている。


 六代目が言う。


『ポーターに……いや、他のメンバーに攻撃はしていないが、警戒して矢は向けている。慎重に動け』


 七代目が言う。


『ライエル、課題はクリアだ。スキルを使用しろ。武器を捨てたフリをして交渉に入れ』


 攻撃され続けるポヨポヨは、両腕を盾にして動かないでいた。


 俺は武器を投げて身なりの良い冒険者の注意を引く。


「……止めろ」


 身なりの良い冒険者の指示で、攻撃が止むとポヨポヨが倒れた。冒険者たちが、近づいてポヨポヨを蹴り飛ばす。


「動かないのか?」

「ちっ、どんだけ手間をかけさせやがる」

「壊れた状態でいくらの値がつくと思う?」


 そうした冒険者の会話に腹を立てつつ、俺は相手を睨んでいた。


 護衛を伴いながら近づいてくる身なりの良い冒険者は、俺に一枚の紙を投げつけてくる。


 三代目が言う。


『動けない状態を演じるんだよ。敵の数を確認したかい?』


 俺は紙を見ると、震える手でそれを手に取る。相手は、それを見てニヤニヤしていた。


 そこに書かれていたのは、ポーターを売り渡すという契約書だった。金額も提示されている。


「……どういう事だ?」


「見たとおりだ。あの人形を買い取る。ダミアンのクソ野郎に教わったゴーレムの魔法……使えないと思っていたが、お前が俺にヒントをくれたからな。ポーター……良い名前じゃないか」


 身なりの良い冒険者の部下が、ペンを俺に投げつけてきた。


「最初から交渉すれば良かっただろうが!」


 そう言った俺に、四代目が言う。


『……こいつら、最初から金を出すつもりなんかないな。この瞬間を狙って、有利な条件で契約したことにしたかったんだろうさ』


 ポーターが狙われるというのは考えていなかった。


 俺は狙われるならノウェムたち――そう思い込んでいたのだ。


「他にも競争相手が出そうだったから、先手を打ったんだ。上手くやったつもりで職員を追い出したんだろうが……世の中、そう上手く行かないもんだぜ」


 ニヤニヤと笑っているところを見るに、こいつらに荷担したのはギルドの職員だったのだろう。


 ダミアンに頼んで追い出した職員を思い出すと、七代目が言う。


『ふん、どうせその程度の組織だ。驚きはせんよ……だが、やれたらやり返すのが、我々だ。それを理解していないようだな』


 領主として生きてきたご先祖様たちは、多かれ少なかれこういう気質を持っている。


 俺は冒険者たちに蹴られているポヨポヨを見る。


「……他の仲間を狙っていると思ったんだがな」


 そう言ってペンを手に取ると、頭の中で確認をする。


(ポヨポヨにはまだ反応がある。全員が動けるようになるまで、もう少しか……)


 スキルを発動する。


 二代目の【オール】で、俺はボスの部屋の把握を行なった。


 三代目のスキル【マインド】で、相手を喋らせる。


「女? 馬鹿かお前。ポーターで上手く稼げば、女なんかいくらでも手に入る。冒険者じゃない。高級娼婦だろうが庶民や貴族の女だろうが大金の前には股を開くんだよ。それを理解していなかったようだな。え、背負われ」


 四代目が言う。


『馬鹿はお前だよ。俺がそれに気が付かなかったとでも? 実績を積んで有用性を示したら、方法は更に広がるんだよ! 素人が!』


 俺は五代目のスキルで周辺の地形を把握し、六代目のスキルで敵の配置を確認する。


 全員が敵意を丸出しだった。


 六代目が言う。


『……全員を殺すつもりだろうな。負けた方は悲惨だな』


 負ければ全てを奪われる。


 そういう世界にいるというのを、俺は再認識した。


(ポーターを奪って、俺を殺してその後は――と言うことか)


 自分が甘かったと思う。


 魔物よりも怖いのが、人間だというのをここに来て知識としてではなく実感して理解できた。


 道具を使い、スキルで追跡し最高のタイミングで仕掛ける。


 注意していたが、しきれていなかった。だから、ご先祖様たちも甘いと思ったのだろう。


 ある意味、この状況は俺への課題の延長なのかも知れない。


(だが……お前らは許さない)


 身なりの良い冒険者は、震えているフリをする俺を見て笑っていた。


 視線をポヨポヨに向けると、俺は言う。


「仲間は救って貰えるんだろうな」


「あぁ、約束する丁寧に扱うさ」


 三代目が言う。


『助けるとは言わない、と……ライエルから書類を貰って、パーティーを全滅させて契約でポーターを貰ったとでもいうつもりだったんだろうね』


 胸くそ悪い――。


 こう言えば良いのだろうか?


(初代なら、どうしていたかな)


 力任せ、無鉄砲な初代を思い出し、俺は笑う。


 身なりの良い冒険者が俺を見て舌打ちをする。


「喜んでいるところを悪いが、早くしないとまずい事になるぞ。俺の雇った連中は短気でね」


 俺は書類にサインをするフリをしながら言う。視線でポーターを見ると、準備が整ったと合図が来た。


 五代目が言う。


『甘いんだよ。詰めが甘い。だからライエルは助かったんだろうが……』


 四代目が言う。


『ライエルは運があるね。それに、今回はポヨポヨ――オートマトンがいた。被害は最小限になるのは分かっていたけどね』


 三代目が言う。


『その発言はライエルを傷つけるね。ま、あのポヨポヨなら――』


 俺はご先祖様たちにも言いたいことがあったが、今は我慢して顔を上げた。


 そして、わざと笑顔を作って言う。


「お前ら、俺を舐めすぎだ――」


「は? 何を言って――」


 俺はスキルを使用する。


 二代目のスキルで周囲の仲間にスキルを使用し、立ち上がると同時に目の前の身なりの良い男の顔面に膝をお見舞いする。


 そして、空中で回転するように持っていたナイフと短剣を横にいた部下たちに投げつけた。


 同時に、ポヨポヨに集まっていた冒険者たちには、アリアが飛び出し、ミランダさんがナイフを投げつけた。


 ノウェムの魔法が発動する。


「ストーム!」


 風が発生し、矢が周囲へと弾き飛ばされる。煙も発生するが、ノウェムたちは口元を布で防いでいた。


 四代目のスキルであるスピードと、初代のスキルで能力を底上げした俺は通路に隠れている敵へと向かう。


「ボックス」


 空中に呼び出した箱から、俺は前に予備として保管していたサーベルを取り出した。


 部屋にいた冒険者たちとは別に、こちらを監視している一団がいたのだ。


 小さな鳥のような魔力の塊で、こちらを監視していた。


 二代目が言う。


『通路に隠れている方が厄介だな』


 部屋ではノウェムたちに攻撃を受けた冒険者たちが、制圧されていた。


 俺は、部屋を出る前にポヨポヨを見る。


(もっと早くに言って貰えれば……いや、これは俺の責任だ。俺のミスだ)


 そうして、予備のサーベルを引き抜くと二刀流で通路を駆けた。


 偵察を行なうスキルなのか、慌て始めた一団はこちらの動きを察して攻撃態勢に入っている。


「魔法使いは三人……」


 そう呟いた俺は、一団がいる場所に到着する前に矢が飛んできた。


 暗い通路で見えているのか、俺を正確に狙ってくる。


 二代目が言う。


『良い腕だが、今のライエルには無意味だな』


 どこから来るのか、どこを狙っているのか?


 目を閉じていても理解できた。


 久しぶりにスキルを使うが、やはり破格の性能である。


(これは敵にも言える事か)


 攻撃を避けて集団へと到着すると、全員が暗い中で動けないのか魔法使いに指示が飛んだ。


「明かりを!」


「どうした。なんで明かりを灯さない!」


 魔法使いを斬りつけ、頭部を蹴り上げる。止めを刺さないが、そのまま厄介な魔法使いと暗闇でも目の利く弓使いを狙った。


「おい、なんで返事をしない!」

「敵は何人だ! 一人の訳がないだろう!」

「おい、おい!」


 夜目の利いたか、スキルで暗闇でも見えていた男を無効化すると、俺は暗闇の中で次々に敵を倒して行く。


 腕を斬りつけ、蹴り飛ばして意識を奪い、そして次の獲物を狙う。


 声を出す数が減ると、黙って隠れようとする奴がいた。


 そう言った奴も逃がさないで意識を奪う。スキルで起きているのか、それとも気を失っているのか……それが分かるだけでも助かった。


(全員に止めを刺す必要がない)


 動けなくし、武器を破壊していくか使えなくする。


 二代目が言う。


『ライエル、お前は甘いな』


 敵を殺さないでいる俺を、甘いという二代目。


 だが、少しだけ嬉しそうにも感じていた。


 そうして最後の冒険者を無力化し、サーベルを一本だけ鞘に戻した。俺は左手に魔法で光を灯す。


「おい」


「ヒッ!」


 相手はローブを着ており、荷物持ちのようだった。他にも周囲を盛れば、武器を持った荷物持ちが多い。


 主要メンバーは少なく、物資を輸送する面子を守っていたのだろう。


 雇ったと言っていたので、きっと腕の良い冒険者たちだったのだ。俺は、魔法使い風の冒険者を蹴り飛ばす。


 怯えている男を脅すためだ。


「……お前らが俺たちをつけ回し、襲撃をかけた。知らないわけがないよな?」


「い、いや、俺たちは知らなくて。報酬が良かったから」


 俺は呟いた。


「マインド……」


 すると、冒険者が混乱していたのもあったが、容易に干渉して喋らせることができた。


「……美人が多いから、殺す前に楽しめると言われたんだ。『背負われ』は金を稼いでいるから、それを奪えば俺たちも金持ちになれる、って。それで、殺す前に女たちを好きにしていいと言われて――」


「もういい。それでギルドは?」


「ギルドは、お前が以前に追い出した奴がいたから、そいつに接触してお前らの行動を調べたんだ。そこに転がっている魔法使いのスキルで監視をして、お前らの情報を集めていたのに……なんで倒せない」


 俺たちの事を調べ上げ、ギルドから情報を貰っていたのだろう。


 以前いた受付の職員が、どうやって俺たちの情報を調べたのか――。


 七代目が言う。


『ふん! だからギルドは信用できんのだ! ライエル、こいつは縛り上げて証人にするぞ』


 二代目が言う。


『やってくれたな、アラムサースのギルド……ダリオンとは大違い、でもないか。ホーキンスが優秀だったんだろうな』


 ダリオンでお世話になった職員もいるだけに、場所によってギルドの質が違いすぎる。


「……ノウェムたちも終わったようだな」


 俺は荷物持ちの男を蹴り飛ばして意識を奪うと、そのまま荷物を放棄させてボスの部屋へと戻る。






 ――ライエルが部屋を出て通路へと向かうと、ノウェムは魔法で矢を防ぐ。


 風を発生させ、煙はしびれを引き起こすので出口へとそのまま流していた。


 口元を布で覆ったノウェムは、飛び出したアリアとミランダを見る。


「その汚い足を、どけろぉぉぉ!!」


 激高したアリアが、ポヨポヨを蹴り飛ばし遊んでいた冒険者を全力で短槍の柄で頭部を殴り飛ばしていた。


 殺す、という覚悟までは至っていない。


 ミランダの方も同じである。


 だが、こちらは少し違う。


「私よりもゴーレムのポーター狙い? 妬けちゃうわね」


 笑っているが、目は笑っていない。


 ナイフを投げつけて片目を失った冒険者が、それでもミランダに武器を構えた。


「地下三十階層に来るだけはある、と」


 だが、そう言ってミランダは彼の両手首を斬りつけてそのまま頭部に肘を打ち込んでいた。


 シャノンがポーターの中で騒ぐ。


「なんなのよ! これっていったいどういう事よ!」


 クラーラは、ノウェムの手伝いで少しでも煙を出口へと流していた。


 弓矢を構えた冒険者が、ノウェムに矢を放つ。


 風で矢が狙った場所に向かわず、全く違う場所に落ちて爆発していた。


「殺すつもりだった、と。残念です」


 そう言ってノウェムは魔法止めると、ポヨポヨの元へ近づいた。


 矢を放った冒険者は、アリアに殴り飛ばされ意識を失っている。


 それを見たミランダが、少し目を細めた後に全員を縛り上げていく。そう見せておいて、手首を斬り割こうとしていた。


 ノウェムは言う。


「ミランダさん。後で治療をしますので、全員を並べておいてください」


 そう言ったノウェムに、ミランダは一瞬だけ鋭い視線を向けた。


「……えぇ、分かったわ。それより、ポヨポヨはどう?」


 ノウェムはポヨポヨの近くに座り込むと、自分を守るために盾になった彼女を見る。


 頭部以外はボロボロで、赤い液体まで周囲に飛び散っていた。


 まるで本物の人間――いや、白銀である人間の骨にあたる部分が見えていた。


 やはり、人間とは違うのだろう。


(どんなに人と似せて作られても、中身は――)


 ノウェムも思うところはあったが、声をかけた。


「どうして私を庇ったんですか? こんなにボロボロになって」


 そう言うと、ポヨポヨが目だけを動かしてノウェムを見る。


「舐めないでください……私は特別製の一品物で、あのチキン野郎……ご主人様であるライエル様のオートマトンです。命令には逆らえませんよ」


 ノウェムは言う。


「主人のためになら、逆らえたのでは?」


「……意地の悪い女狐ですね。それをしたら……チキン野郎が悲しむじゃないですか。私はチキン野郎が悲しむ姿を見たくないんですよ」


 口は悪いが、確かにライエルのために尽くしていた。


 そして、ポヨポヨが言う。


「……何か隠すものはありませんか? ライエル様に肌を晒す覚悟はありますが、こんな惨めな姿を見せるわけにはいかないんです」


 アリアがポーターへと向かうと、毛布を持ってきた。


 ポーターから降りたシャノンが、ポヨポヨを見て青い表情をしている。


「なんで、なんでそんな事ができるのよ……あんた、やっぱり……」


 驚いているシャノンに、ミランダが言う。


「シャノン! ポーターに戻りなさい!」


 慌てて戻るシャノンとは別に、毛布を持ってきたアリアがポヨポヨにかけてやる。そして声をかけた。


「アンタ、なんであんな事を……」


 アリアに笑顔を向けるポヨポヨ。


「何度も言わせるなよ。あのチキン野郎が悲しむからですよ。私はね……ようやく目が覚めたら、製造していたはずの工場もなくなり、会社もなくなり、国もなくなっていたんですよ。そんな私には、もうライエル様しかいないんですよ。こんなファンタジーな世界で、私は目覚めてご主人様を得られた……期待なんかしていませんでしたよ。特別機と言っても……あれ? 思い出せませんね? でも、とにかく、私はご主人様を得ることが出来たんです。どんなクソ野郎にもで従ってやろうと思いましたよ。だって、それがオートマトンの望みですからね」


 ノウェムはそれを聞いて、俯いてしまう。


 ポヨポヨの瞳がチカチカと光り出すと、アリアが言う。


「ちょっと、なんか言いなさいよ!」


 ポヨポヨは笑顔で言う。


「待ってくださいよ。ライエル様が来るまで……なんとしても持たせないといけないん……ですから」


 すると、そこにライエルが駆け込んできた。


 入口付近で引きずってきた冒険者を投げ捨てると、ポヨポヨの元に来る――。






 ポヨポヨに駆け寄った俺は、彼女の顔に触れた。


「待っていましたよ、ご主人様……どうしても聞いておきたかったんです」


 顔だけは守っていたポヨポヨは、首から下を毛布で隠していた。周囲には赤い液体が広がっていた。


 本物の血のようである。


「お前、なんで無理なんか!」


 すると、二代目が言う。


『あ~、なんだ……こういう時は話を聞いてやれ』


 ご先祖様たちにも言いたいことがあった。犠牲が出る前に言って欲しかった。


 俺が未熟なのは理解しているが、それでも――。


「……聞きたいこと? 何でも聞け。ちゃかさないで聞いてやる」


 ポヨポヨは笑顔で口を開く。


 その口の端から、赤い液体が流れた。


「名前です。本当はポヨポヨも気に入っていました。けど、せっかくなので考えて頂いた名前を頂きたいのです」


 口調が丁寧になっている。


 俺は泣くのを我慢した。


 泣いてはいけない気がした。


 なのに、ポタポタとポヨポヨの額や頬に涙が落ちる。


「…………【モニカ】だ。俺がお前に送ろうと思っていた名前だ。ずっと考えていた。あの時読んでいた本も、ポーターじゃない。お前の名前を考えるためだった!」


 そして、モニカは言う。


「モニカ……ですか……良い名前です。大事にします」


「あぁ、そうだ。だから、お前はずっと俺の側にいろ。もうポンコツなんて言わない。お前は俺のオートマトンだ」


 アリアが弱っていくモニカを見て、泣いていた。


 ミランダさんも腕を組んで俯いている。


 クラーラは俺たちを魔法で照らしていた。


 ノウェムは、俺の背中に手を置いてくれていた。


「自慢します。私の……名前は……モニカ、だと……あの、三体に……だから……また……一緒……」


 俺はモニカの顔を両手で掴み、近づく。


 額と額が触れそうな距離だった。


「あぁ、自慢しろ! ダミアンに直して貰おう! あいつは天才だから、これくらいすぐに」


 そう言うと、モニカは首を横に振った。


「無理……です。あの教授には……私を起動させる……限界」


 声が聞き取れなくなってくる。


 モニカのまぶたが閉じられようとすると、俺は言う。


「モニカ? ……モニカァァァ!!」


 すると、パチリと目を開けたモニカが言う。



「再起動完了しました!」



「……え?」


 そして、俺にそのままキスをしたモニカは、呆気にとられ少し離れた俺の目の前で両足を伸ばして反動でジャンプをする。


 毛布が宙を舞い、ノウェムが言う。


「あ、白ですね」


 そこじゃない! そう思いつつ、アリアも――。


「嘘。え、だって!」


 ミランダさんが――。


「この子も意外とやるわね」


 そして、クラーラは。


「古代人は凄いですね」


 ポーターから顔を出したシャノンも――。


「だから言ったのに。こいつ、あの時点で再生を開始していたわよ。ライエルが来ると急にスピードが上がったけど」


 俺は空中で回転し、ひねりまで入れて着地したモニカを見て口をパクパクとさせた。


 ご先祖様たちも言う。二代目から順番に――。


『だから大丈夫なんだよ』

『なんか、あの子の体は凄いよね』

『ライエルと魔力のラインがあるから、大体は理解できたしね』

『驚異的過ぎて、本当に古代人が魔法を使えなかったのか疑うレベルだな』

『何を考えてこれだけの性能がメイドに必要だったのか……』

『きっと浪漫ですよ』


 モニカは汚れ一つないメイド服で、綺麗にお辞儀をする。


「ポヨポヨ改め【モニカ】です。皆様、これからも適当によろしく。チキン野郎は末永く墓場までご一緒するつもりですので、逃げられると思うなよ、この野郎」


 凄く良い笑顔でそんなことを言ってきた。


「お、おま……あんなに駄目そうな雰囲気を出していたじゃないか!」


 ノウェムが言う。


「ラ、ライエル様、落ち着いてください!」


「離せ、ノウェム! 今日という今日は……あ、あれ?」


 三代目が言う。


『ノウェムちゃんの言うことは聞こうよ。というか、久しぶりじゃない、これ?』


 すると、モニカが言う。


「チキン野郎の魔力とか言う不思議エネルギーを使用するので、今まで修復を押さえていたんですよ。いや、今までの戦闘などから、流石にいきなり自己修復すると危険だと思いまして……聞いていますか? 貴方のために説明しているんですよ!」


 俺はフラフラとしてきて、最近ではなかった魔力切れの兆候を感じるのだった。


(スキルの多用とボス戦に……あ、本当にきつい)


 俺は意識を手放そうとすると、久しぶりにノウェムが慌てて俺を呼ぶ声を聞いた。


「ライエル様、しっかりしてください!」


 モニカが言う。


「だから言ったんですよ。それに、さっきの弱っていく時は再起動の――」


 モニカが何かを言っているが、俺は意識を完全に手放すのだった。






 ――ライエルが意識を失うと、全員で周囲の冒険者たちを集めて拘束していく。


 相手が隠し持っている武器も怖いが、裸にしつつ出血を止める程度には治療魔法を使用するノウェム。


「目覚めても骨折などで動けないでしょうね」


 ミランダが言う。


「この人はどうするの?」


 ライエルが引きずってきた男は、彼らの持っていた薬を使用して体の自由を奪っている。


 しびれ薬の一種であると、クラーラが教えてくれた。


 シャノンが言う。


「あ、そいつはなんか体に仕込んでいるわよ」


 ミランダは、下着だけとなった男から武器を回収すると、その場に捨てる。


 アリアが言う。


「下着の中に隠していたの? 折りたたみのナイフみたいね」


 荷運びと予想していたが、どうやらクラーラのように場数を踏んでいるようだ。


 クラーラが言う。


「全員がアラムサースで名のある冒険者たちです。この人たちの悪い噂を聞いていなかったのですが……」


 縛られた冒険者たちを見る。


 今まで上手くやっていたのだろう。


「……ライエル様との会話で、あまり好感の持てる人たちではないと知りました。ライエル様が回復したら判断を仰ぎましょう」


 そういうノウェムに、アリアが言う。


「こいつら、明らかに私たちを殺すつもりだったわよ!」


 未だに怒りが収まらないアリアに、ミランダが頭をかきつつ言う。


「なら、アリアが殺してくれるの?」


 そう言われたアリアは、黙ってしまった。


(覚悟ですか……ライエル様に背負わせる訳にはいきませんが、どうしたものでしょう)


 個人的には、ノウェムが自身で終わらせておきたかった。


 しかし、これはライエルの成長に必要とも思えた。


 どんな判断を下すのか?


 ノウェムはそれが気になる。


(ダリオンでは、盗賊団の処分は他の方に任せましたし、ライエル様がこういった時にどう判断されるのか……気になりますね)


 気になる、そう思ったノウェムはハッとする。


(あぁ、やはりそうですか……)


 ノウェムは、ポーターの中で眠っているライエルを見て、微笑むのだった――。






 目を覚ました俺は、ブスッとした表情でポーターに乗って移動をしていた。


 ノウェムもアリアも、そしてミランダさんにシャノンにクラーラ、モニカも、ポーターの天井に乗って迷宮を自分の足で歩くことなく進んでいた。


 実に快適だ。


 何しろ、俺のスキルの使用制限は解除されている。


 不満そうなのは俺だけではない。


 ミランダさんも、だ。


「装備に食料に水――全部残して、回復までしてあげて良かったの?」


 俺たちを襲撃してきた冒険者たちは、殺さずに地下三十階層に置いてきた。壊した装備は元に戻らないが、何も奪わずに放置してきた。


「知っているんでしょう? 奴らがその辺の事を考えずに、俺たちから奪おうとしていた事を?」


 明らかに量が足りていなかった。


 普段は地下二十階層前後で稼いでいるのか、詰めが甘かったのである。


 二代目が言う。


『甘過ぎだな。止めを自分で刺さないとか』


 俺はモニカのことを黙っていたご先祖様たちを無視する。


 そして、横目でモニカを見た。


「私はモニカ! 可愛いモニカ! ご主人様のモニカですぅ!」


 歌を歌ったご機嫌なモニカに腹を立てて良いのか、喜んで良いのか分からなかった。


 だが、ミランダさんは納得がいかないようだ。


「それはそうだけど、絶対に恨まれるわよ」


 俺は言う。


「でしょうね。でも、彼らは絶対に地上へはたどり着けませんよ」


 ポーターにくくりつけている一人の冒険者からは、洗いざらい吐いて貰った。


 冒険者たちのスキルに加え、どういった仲間なのか、そして――。


「へぇ……水まであげていたわよね?」


 俺は言う。


「えぇ、プレゼントしておきましたよ。足りないようだったので」


 そう言って俺はまたブスッと不満そうな表情をする。


 ミランダさんは俺の言いたいことを理解したようだが、まだ納得はしていなかった。


 六代目が言う。


『手を下さないのは、精神衛生上のため、ね……過保護すぎるぞ、ライエル』


 俺は溜息を吐いて、ミランダさんに言う。


「……シャノンに俺たちがあいつらを無抵抗の状態で殺すのを見せろと? ま、人質に取られるのを回避できたから良かったですけどね」


 連れてきたことで、シャノンを人質に取られる危険はなかった。


「それを言われると厳しいわね。でも、世の中に絶対なんてないわよ」


 結果的に、今回はポーター狙いの冒険者たちに付け狙われていた。


 俺は何か手段を講じる必要があると感じながら、ミランダさんに言う。


「確かにありませんね。でも……」


 五代目が言う。


『あいつらは絶対に這い上がってこられねーよ』


 そう。


 ちゃんと“魔法”で水を用意してあげたのだから。


 スキルを使用し、ポーターを操作して俺は安全な道を進んでいく。


「どうしたの?」


 ミランダさんが気にしているようだったので、俺は言う。


「なんでもありませんよ。それに、這い上がってきたところで、あいつらに居場所はありませんからね」


 俺は捕えた冒険者を見る。


 薬で体の自由が奪われており、騒ぐこともできずに怯えていた。


「ま、戻れば分かりますよ」


 そう言っておいた。






 そして、ギルドへ戻ると彼らの死亡が確認された。


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― 新着の感想 ―
魔法で作った水を伏線としてここで回収するとは… 腹を壊してまともな水が飲めないまま徐々に衰弱死させるのか。意味不明に 甘ちゃんなんじゃ無くてきっちり殺しとくのは超好感。
[気になる点] なんでこう、どこの作品も敵を殺さないのを美徳や美談にするのかね。正直気持ち悪いんだけど。世界観というかファンタジー作品はギャグ作品とかじゃない限り、敵は殺すのは普通というか殺さないとお…
感想一覧
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