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セブンス  作者: 三嶋 与夢
最終章 ここまで来たぞ 十八代目
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二刀

 ――黄金のドラゴンに残像が出来るくらいの速さで斬りかかる四代目は、興奮していた。


「こいつ、鱗まで再生するぞ!」


 銀色の短剣で刻み続けているのは、はがれ落ちた鱗まで再生していたからだ。そんな四代目を、妻が見ていた。握り拳を作り。


「最高ね! そのまま鱗をどんどん確保しましょう!」


 はがれ落ちた鱗に飛びついた四代目の妻は、その鱗を確認する。触り、そして拳で軽く叩くなどして鱗の価値を確認している様子だった。


「フレドリクス! 見て、見て! この鱗はきっと貴重な素材よ!」


 無邪気に笑う母親の姿を見て、フレドリクスは蛇腹剣を落としそうになった。


「……うん、そうだね、ママ」


 近くでは息子や娘たちが、ドラゴンに向かって攻撃を仕掛けていた。魔法を撃ち込み、スキルを使用してドラゴンに何もさせていない。


 そんな光景を見ていたゼノアは、赤い扇子を閉じてレジェンドドラゴンに向けた。咆吼し、翼を広げよじ登った連中や近付いた連中を吹き飛ばそうとしていたのだ。


 そんなレジェンドドラゴンが、半透明な八面体に閉じ込められた。ゼノアのスキルである。


「五月蝿いわね。少し黙っていてくれる?」


 そして、八面体の中のレジェンドドラゴンが急に炎に包まれた。八面体の中で燃え上がるドラゴンを見て、七代目が叫ぶ。


「おいぃぃぃ!! 剥製にするんじゃないのかぁぁぁ!! せめて中身を吹き飛ばして!」


 表面が焼け焦げるなど、七代目には許せないようだ。ただ、中身は中身で、吹き飛ばされると困る奴がいた。


 初代の妻だ。


「ふざけんな! 中身がグチャグチャになったら料理するのが大変だろうが! あんた!」


 初代の妻が料理するため、旦那である初代を見た。綺麗に確保しろという事だろう。初代が背筋を伸ばし。


「は、はい! ……え? あれ、食えるの? あいつ明らかに不味そうなんだが。金ぴかだぞ。金ぴか。俺の勘ではアレは不味い、って……」


「食ってみないと分からないだろうが! あんたが試食すればいいんだよ!」


「俺で試すのかよぉぉぉ!!」


 叫びながら大剣を担ぐ初代。


 金色のドラゴン。角は巨大で真っ赤である。どちらかと言えば、美味しそうには見えなかった。


 四代目の妻が、初代の妻に。


「中身も売るに決まっているじゃない! ドラゴンの肉とか絶対に高価よ! 綺麗な状態で確保して! 食べるとか意味が分からない!」


 八面体の拘束から解放されたレジェンドドラゴンは、地面に四つん這いに倒れ込むと苦しそうに呼吸をしていた。焼け焦げた表面が再生されていく。


 二代目の妻が、金属の輪を高速回転させながらレジェンドドラゴンを見て。


「こいつ、その気になれば翼とか角も再生しそうね。あと、尻尾も」


 全員の視線が、レジェンドドラゴンに向けられた。


 周囲では。


「角は貰った!」

「尻尾! 尻尾だ! きっと美味いぞ!」

「翼を確保するのよ!」


 レジェンドドラゴンに夢中なウォルト家の面々。ライエルの事など放置して、目の前のドラゴンにかかりきりだった。ノウェムの目的は、思惑とは違うが達成されていたのだった――。






 くそっ! あいつらドラゴンに夢中で俺の事は無視かよ!


 少し離れた場所で騒ぎまくっている一団に腹が立つが、流石に目の前にいるノウェムは俺の問題である。


 ここは俺がどうにかするしかない。


 だが……。


「武器もない状態で、これはきついな」


 息を切らしながら、ノウェムの大鎌による斬撃を避けた。瓦礫の一部に当たると、スッパリと斬れる。断面が綺麗な状態だった。


 斬られると致命傷は確実だ。鎧などノウェムの前では紙と同じだろう。いや、紙以下かも知れない。


 重い金属の鎧を脱ぎながら逃げると、近くではアリアたちがランドドラゴンの亜種と戦っていた。アリアたちにとって苦手な相手であり、苦戦しているようだ。


 こちらの救援は望めないだろう。


 ノウェムは俺を追いかけながら。


「武具を捨てる判断はいいですが、隙が多いですね。待てと言われれば待ちますよ」


 俺は本気で「なら、少し待ってください」と言いそうになった。言っていいのだろうか? 怒られないだろうか?


 しかし、そんな事を頼むのも何か嫌だった。


「余裕を見せすぎだ!」


 拾った手頃な瓦礫をノウェムに投げつけると、ノウェムはスピードを落とさないまま大鎌でそれを斬り伏せた。もう一度拾って投げると。


「またですか――」


 また斬り伏せる。しかし、その中には俺が持っていた道具があり、筒に入った道具が斬られるとそこから煙が出た。


 目くらまし用の道具だ。


「ほら、引っかか――った」


 ノウェムは、煙からすぐに脱出すると俺に向かって大鎌を振り下ろした。微妙に急所から外れている。ただし、深々と突き刺さった大鎌。ソレを見て、ノウェムは微笑む。


「……素晴らしいですよ、ライエル様」


 俺の幻が消えると、隠れていた俺にノウェムが顔を向けてきた。三代目のスキルで幻を見せていたが、時間稼ぎにもならない。


 武器をどこかで拾いたかったが、周りには武器になりそうなものがない。下手に剣を拾ったとしても、ノウェムの大鎌の前では簡単に斬り捨てられてしまう。


 ぶつかり合わず、避けて一撃を入れるか? ただ、並の武器ではノウェムに傷一つ付けられない気がする。


 俺は呼吸の乱れが酷くなった。そんな俺の状態を見て、ノウェムは瓦礫が敷き詰められたような地面から少し浮いた状態で待機していた。


「何の真似だ」


「フフフ、私も疲れたので休憩です」


 笑っているノウェムを見て、俺は「嘘を吐け」と内心で呟く。汗一つ、呼吸一つ乱れていない今のノウェムは、俺の準備が出来るのを待っていた。ニコニコしている。殺されるのを待っているのに、どうして笑っていられるのか。


 俺は、宝玉を握りしめた。


 いつからだろう――この行動が癖になったのは。握りしめれば、きっとアドバイスが貰えると思うようになったのは。


 今は近くでドラゴンに群がり、こちらを見向きもしない歴代当主と愉快な仲間たち――お前ら、もう少しは役に立てと言いたかった。


 ノウェムが俺を見ながら。


「助けは来ないようですね。みなさん――随分と楽しそうですよ」


 少し言葉に間があったが、ノウェムの予定通りなのだろう。邪魔が入らず、俺の実力を試しつつ俺に殺されるという状況。


 悔しいが、打開策が出てこない。これなら、まだ成長後のテンションが高い俺の方が良かったのだろうか? 俺では駄目なのだろうか?


 宝玉を強く握りしめた。銀色の細工部分がだいぶ少なくなっていた。俺は、呼吸が整い始めると、覚悟を決めようとしていた。


 すると。


『まったく駄目だね。はぁ、どうしてそうネガティブになるのかな? もっと、強く自分を信じてみようよ』


 声が聞こえた。それは幼い声――消えてしまった、らいえるの声だった。


「まさか」


 ノウェムの目が細くなる。苛立っていた。


「――まだ出て来ますか。それにしても、相手が貴方だとは」


 青い光が俺の目の前に出現すると、そこには十歳頃の俺の姿をした『らいえる』が出て来た。手には誕生日に貰った宝物のサーベルが握られている。


 それを手に、らいえるはノウェムの前に立った。そして、笑いながらノウェムに対して。


「ちょっとどうかと思うよ、ノウェム。僕でも軽く引いちゃった。みんなの母親宣言とか、殺されたらライエルが完成するとか、狂っているね」


 笑顔のらいえるを前にして、ノウェムが大鎌を振るう。


「邪魔をしないで貰いましょうか。私にとって、優先するべきは貴方より、後ろにいる本物のライエルですから――ッ!」


 サーベルで大鎌を受け流し、ノウェムを蹴り飛ばすらいえる。俺はその光景を見て、驚きを隠せなかった。


「お前、勝てるのか!」


 俺の言葉に、らいえるが振り返りながらノウェムの斬撃を避けた。


「は? 馬鹿を言わないでくれるかな。絶対に無理だよ。僕のスペックは十歳止まりだからね。まぁ、時間稼ぎは出来るかな。それに、元からそのつもりだし」


 時間稼ぎのために出て来たらいえる。いったい何をするつもりなのか。すると、ノウェムの相手をしながら、らいえるは言う。


「……握りしめている物はなんだい? それと、もっと視野を広げようよ。そして、自分を信じないとね。ライエルが成長後に力を発揮しているのは、絶対的に自分を信じているからだ。今のライエルは心のどこかで諦めているよ」


 らいえるの言葉に、俺はセレスの顔が思い浮かんだ。絶対に勝てないと思い、そして仲間を得る事でセレスに勝利した。それは、俺自身が勝てないのを認めたから――。


 ノウェムがらいえるに斬りかかる。


「――邪魔をするな!」


 左腕を犠牲に、らいえるは魔法をノウェムに当てた。血は出ないが、左腕が青い光の粒になって弾け飛ぶように消える。


 魔法の爆発で吹き飛ぶのを利用して、らいえるは俺の前に立った。俺の方を向いて。


「ライエルには可能性がある。そして、それは君の手の中にある。思い出してごらん――歴代当主の武器は、どれも特徴的だったよね? 彼らの愛用した武器に、それぞれの特徴があった。それはつまり――」


 すると、らいえるの体に一閃。ノウェムの大鎌による斬撃が、らいえるの体に線を作る。


 消えていくらいえるは、俺を見て。


「三つ目のスキルは発動した。ライエル、君にもその資格がある。さぁ、願え。そうすれば、宝玉は応えてくれるから――」


 光の粒になって消えたらいえる。それを言うためにだけに、わざわざ俺の前に。


「お前、なんでそんなにお節介なんだよ」


 宝玉を握りしめると、ノウェムが少し焦った様子だった。いや、これ以上のイレギュラーが嫌なのかも知れない。


「ライエル、決着を――」


 すると、更に青い光が三つ。そこから飛び出して来たのは、まだダリオンにいた頃に仲良くなった、ロンド、レイチェル、ラーフの三人組みだった。セレスに殺された、三人だった。


「させないよ!」

「ノウェム、いい加減にしなよ!」

「おら、いくぜぇ!」


 三人がノウェムに攻撃を加える。しかし、三人の実力は、ノウェムにしてみれば雑魚と変りがない。これから強くなろうとしていた三人だ。強くなる前に、彼らは命を落とした。


「なんで三人が!」


 ラーフさんが、ノウェムに斬られながら笑っていた。


「……馬鹿、目立ちたいだろうが。俺たちも、こんな冒険を――」


 返す刃でレイチェルさんも斬られる。


「ライエル、私たちは途中で夢が叶わなかった。だから、生きているなら――」


 消えていくレイチェルさん。そして、ロンドさんが剣ごとノウェムに両断され。


「――生きているなら、諦めないでくれ。それが、言いたかった」


 知り合いだった。いや、友達だった。外に出て出来た友達を、ノウェムはいとも容易く斬り伏せる。


 宝玉を強く握りしめた。


「邪魔ばかりして。ですがもう」


 ノウェムが俺を見る。宝玉が青い光を強め、銀色の細工が俺の願いに応えて姿を変えていく。銀色の反りのある刃には波紋があった。綺麗な刀身はまるで鏡のようだ。柄に宝玉が埋め込まれ、俺の銀色の武器であるカタナが姿を現す。


 そして、右手に持つカタナよりも、半分程度の長さである二本目も出現した。


「分かる。これがどんな武器なのか」


 ノウェムが俺に斬りかかると、銀色の武器同士がぶつかった。


「――良い武器を得られたようで。私も嬉しいですよ。その刃で私を斬りなさい、ライエル!」


 俺はニヤリと笑うと。


「なら、遠慮なく斬らせて貰おうか」


 両手に持ったカタナを振るう。重さに、握ったときの感触。どれもが俺に合わせてあり、振りやすかった。二本のカタナでノウェムに連続で斬りかかると、ノウェムが防戦に回る。


 もっと速く!


「くっ!」


 ノウェムが大鎌では捌ききれなくなる。俺は跳び上がった。ノウェムの真上に移動すると、回転をした勢いをつける。回避しようとするノウェムを見て、左手に持った『ワキザシ』を投げつけた。


 弾き飛ばされるワキザシ。だが、次の瞬間には俺はノウェムが弾き飛ばしたワキザシを握りしめていた。


 ノウェムの近くで、だ。


「ノイズが酷くても、ある程度ならスキルが使えるな」


 カタナでノウェムの背中――首筋から斜めに斬る。深々と刃がノウェムの体を通り抜けたのを感じた。


 ノウェムは、笑っていた。


「お見事です。スキルの補助がその武器の特徴ですか。ライエル様らしい良い武器ですね」


 笑っているノウェムだが、俺も笑う。スキルを使いこなすための武器――確かに、歴代当主のスキルに頼ってきた俺には相応しい。


 ただし、誰もそれだけなどと言ってはいない。


「残念だったな、ノウェム……俺が斬ったのは」


 ノウェムは、目を見開くと俺と距離を取った。一瞬で移動すると、自分の体を触って確認していた。


 斬られたはずなのに、斬った跡がない。


「そんな。体の再生は行わないように……それに、確かに私は」


「あぁ、斬ったよ」


 俺は二刀のカタナを横に振ってから構えた。


「女神、そして邪神であるノウェムの方を、な」


 カタナをノウェムに向けると、ノウェムが信じられないと言った顔をしていた。俺の銀色の武器――二刀のカタナは、斬りたい物だけを斬るカタナ。スキルの補助などオマケでしかない。


「全部斬り伏せて、全部はぎ取って……ノウェム、お前を丸裸にしてやるよ」


 ノウェムが、俺を睨むと斬りかかってきた。俺の武器を破壊しようとしているようだ。


 ただ、ノウェムの狙いが分かると、後は簡単だ。斬撃を予測して、またもノウェムを斬る。


 心の中で、俺は唱える。出来る――俺になら出来る。ノウェムを救える。俺なら――俺だから出来る。


 テンションが高い時のように、自分を信じる。最大限に、自分の力を発揮するために。そのために、まずは――。


「どうした。これで二撃目だぞ。この調子で斬られ続ければ、丸裸になるのも早いだろうな」


 ――煽ってみた。


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― 新着の感想 ―
らいある兄貴、かっこいい、丸裸のセリフはやばいですが、いつれくる修羅場と比べれば軽い方かな。
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