死者の軍団 対 死者の軍団
――ライエルの軍勢。
その本陣では、早急に柵を作って魔法で堀を用意していた。
柵の内側から接近しないように死者の軍団と相手をしているブロア将軍は、戻ってきた軍勢にライエルがいないが動揺はしていない。
セントラル王宮跡で、未だに何か物体が見えて戦闘が起きている。ならば、戦闘が続いている――ライエルの生存の可能性はある、と言うことだ。
「しかし、この数は――」
目の前を埋め尽くす骸骨が鎧を着た軍勢は、セントラルの城壁から次々に出てくる。相対して分かったが、強さはそれ程でもない。しかし、並の攻撃では再生してしまうのだ。
魔法で吹き飛ばしてしまえば再生しないが、永遠と魔法を撃ち続けられる訳もない。
「圧倒的な物量ですか。まぁ、必勝法ではありますが」
冷や汗を流すブロア将軍の下に、バルドアが駆けつけて来た。マクシムやアレットも一緒だ。
「ブロア将軍、ライエル様を救助するために部隊を用意して頂きたい!」
「い、いや、しかしこの状況では――」
アレットがなんとかバルドアを説得しようとしているが、バルドアは聞く耳を持たなかった。
バルドアがそう言うと、マクシムはブロア将軍に向けて首を横に振った。説得したが駄目だったのだろう。
ブロア将軍は髪をかく。
「……ヴァルキリーズが稼働していますし、まだ戦闘は続いています。それと、この状況では突撃して王宮までたどり着けるかどうか。いえ、たどり着くのは不可能ですね」
バルドアの顔を見たブロア将軍は、バルドアが正しい判断をしていないと理解した。気持ちが先走っている。
主君を助けようとする気持ちは正しいが、それで戦争には勝てない。悔しそうにするバルドアが、拳を握りしめ。
「見殺しになど――」
そこまで口にすると、青い光りがいくつも出現する。柵の向こうに突如として出現した光は二つ。
三人や周囲の兵たちがそちらに視線を向けると。
「いかんな。指揮官は常に冷静であらねば。周りが動揺する」
光の中から出現したのは、サーベルを片手に持ったマイゼルだった。左手で髭をなぞり、そして右手に持ったサーベルを振るう。
周囲にいた骸骨の兵士たちが吹き飛び、バラバラになっていく。もう一つの光からは、女性が出て来た。
「そこの女性はもっと堂々としなさい。夫に配慮をするのと、遠慮をするのは違いますよ。言うべき事は言わねば、男は理解しませんからね」
杖を持った女性は――ライエルの母であるクレアだ。杖を掲げ、周囲の骸骨を魔法の風で吹き飛ばしていく。
マイゼルはサーベルの刃に雷を宿し、そして振るいだした。
「ハハハ、言い返せないな。しかし、ちと多い。やはり呼ぶべきだろうな」
クレアはマイゼルの意見に頷いた。
「えぇ、せめて――ライエルの戻る場所は守ってやらねば」
すると、柵の前に大きなドアが出現した。そこから続々と兵士たちが出てくる。
バルドアは、驚いて前に走った。
そこには、馬に乗ったベイルの姿があった。柵越しにバルドアとベイルが再会する。
「お、叔父上――」
死んだはずのマイゼルとベイル、そして多くの兵士や騎士たちの登場にバルドアは理解できなかったが、かつて憧れた叔父の姿を見ていた。
セレスにより狂わされる前の、騎士として立派な姿だった。
「バルドア、元気だったか!」
扉から出てくるのは、ライエルと戦い命を落とした騎士や兵士、そして今までに命を落としてきた者までいた。
マイゼルの周囲に兵士たちが集まると、近付く死兵たちを倒していく。
「ベイル!」
「はっ!」
ベイルが馬に乗ってマイゼルの下に駆けつけると、マイゼルはサーベルを地面に突き刺した。
「……親として会わせる顔がない。だが、せめて役には立ちたい。あの子には苦労をかけた」
「……我々もです、マイゼル様。みな、その思いは変わりません」
クレアが俯いて杖を握りしめた。
「……ライエル、貴方は立派になりましたね。私に言う資格はありません。ですが、ほんの少しだけでも、貴方のためになるのなら」
続々と出現する軍勢が、骸骨の兵士を倒していく。その姿を見て、同じウォルト家の生きた兵士たちが駆けつけた。
涙を流している者が大勢いた。
「父さん、父さん!!」
若い兵士に、中年の兵士が怒鳴る。
「戦場で泣く奴があるか! ここで負けたら、若様になんて言うつもりだ! ……迷惑をかけたなら、その手に持っている槍で返せ! 俺の息子だろうが」
また、友人と再会した騎士は、手を握り合っていた。
そして、マイゼルが声を張り上げる。
「勇猛なるウォルト家の兵士たち。そして、ライエルの兵士諸君。まだ勝負はついていない。恥を忍んで頼みたい。少しで良い……このマイゼル・ウォルトに力を貸して頂けないだろうか! 勝利するために!」
柵を越え、一人、また一人と騎士や兵士たちが飛び出し、かつて共に戦った仲間と並ぶ。落ち込んでいた士気が上がり始めていた。
ブロア将軍がその光景を見ながら。
「これはもう、普通の戦場ではありませんね」
そう呟くと、ブロア将軍は青い光りが隣に出現しているのを見た――。
――ファンバイユが主力となる東部方面軍。
レズノー辺境伯の陣には、息子であるバルフェルドの姿があった。座っていたバウリスが立ち上がって息子に近付く。
「お、お前――生きて」
すると、バルフェルドは少し悲しそうに笑っていた。
「悪い、親父。俺、死んじまった。今は少しだけ時間を貰えたよ。だから、謝りに来たんだ。ごめんな」
涙を流すバウリスは、涙を拭う。
「お前を死地に送った事を後悔していた。ずっと謝りたかった。セレスなんかの下に送って……すまなかった」
崩れ落ちるバウリスに、バルフェルドは肩に手を置いた。
「親父……力を貸してくれ。あいつを放置は出来ない。放置すれば、大陸だけじゃない。世界が終わる。親父の……親父たちの力を貸してくれ」
バウリスが立ち上がる。そして、バルフェルドの視線の先に見える空に浮ぶ人の姿をした何かを見ていた。
「……分かった。任せろ。それと、パルセレーナもブラウベイも元気だ」
それを聞くと、バルフェルド――かつて、レズノー辺境伯からバンセイム王家に人質として送られた跡取り息子が、笑った――。
「そっか。なら、俺も安心できるよ」
――ファンバイユの陣では、王やその側近たちが腰を抜かしていた。
目の前には、かつて自分たちを追い回し、そして領地を切り取った鬼がいたのだ。
名前をブロード・ウォルト。ウォルト家の七代目である。
「久しいな、小僧。随分立派になったものだ。時に聞きたいのだが……どうしてお前の軍勢は逃げ支度をしているのかな?」
七代目の周囲にはウォルト家の兵士たちがいて、周囲に睨みをきかせていた。七代目には必要はないが威圧感が増すから連れてきていた。
「そ、それは――」
震えるファンバイユの王に、七代目は優しく笑いかけた。ただし、目は笑っていない。
「まさか、盟主であるわしの孫を残して逃げるなどと言わないだろうが、一応は伝えておこう。……逃げれば地の果てまで追ってやる。戦場で見せた貴様の逃げ足の速さが、今も健在であるといいな」
そう言って天幕から出て行く七代目は、集まった自分の軍勢を前にして。
「うむ! 壮観ではないか! 流石はわしの軍勢だ」
自ら鍛え、編成してきた軍勢を前に七代目は満足していた。そして、兵士たちを前にして。
「――ウォルト家の精鋭たちよ。この危機に黙っていれば、それは孫、そしてひ孫の命に関わる。死者が出しゃばるのは良くないが、女神を相手に戦う孫――ライエルのために力を貸して欲しい」
全員が一糸乱れぬ動きで、姿勢を正した。七代目は頷くと、馬を引いてきた青年を見た。それは、若い頃のゼル爺さんだった。
馬に跨がる七代目は、ゼルに言う。
「ゼル、孫が世話になった。もう一働きして貰いたい。供をせよ」
「若の大事な戦ですからね。喜んでお供させて頂きます、ブロード様!」
整列した軍勢の中央を馬で進む七代目。兵士たちが回れ右をして七代目に付き従う。その正面には、骸骨の軍勢が迫っていた。
七代目は銃を構え。
「突撃」
ウォルト家の軍勢が動き出すと、その姿を周囲のファンバイユの軍勢が口を開けてみていたのだった。蹴散らされ、吹き飛ぶ骸骨の兵士たち――。
――ファンバイユの王は、七代目がいなくなった天幕で涙ぐんでいた。
「くそっ! くそっ! だからウォルト家に関わりたくなかったんだ! あいつら、死んでもファンバイユを苦しめおって! どこまで追ってくるつもりだ!」
過去に追い回されたトラウマが蘇り、しかも今度は本人が登場したのだ。
周りもそんな王をしかり飛ばせなかった。同じような気持ちだったから。
すると、青い光りが股出現する。
バタバタと床でもがいたファンバイユの王が悲鳴を上げる。
「またか! 今度は誰だ! ファインズか! あの伝説の悪魔か!」
六代目を悪魔と呼ぶファンバイユの王の前には、王の父――先代国王が若い姿で出現した。
ファインズと戦った猛者でもある。
「……なんだ、その姿は」
すると、周囲の重鎮たちも今度は七代目と違った驚きに目を見開いた。ファインズには負けたが、それでも王としては立派だった人だ。重鎮たちが若い頃は憧れた者も多い。
「ち、父上……」
年老いた息子を前に、先代の王は腕を組む。仁王立ちで。
「この大事なときに腰を抜かしおって! その歳ならば子もいよう! 孫はどうした! なぜこの場にいない!」
ファンバイユの王が視線を逸らしつつ。
「い、いえ……息子たちにはそれぞれ用事を」
すると、先代がファンバイユの王に拳骨を落とした。ファンバイユの王が、何か企んでいるのを見抜いたのだ。
「また小狡い手を使ったな! この一大事に何をしているか、馬鹿者! もうよい! すぐに兵をまとめよ。この戦、末代まで語り継がれる伝説となると知れ! おい、そこの小僧!」
白髪交じりで立派な鎧を着た騎士団長を、小僧呼ばわりした先代。騎士団長も姿勢を正した。
「は、はっ!」
「わしが連れてきた兵もいる。すぐにわしの指揮下に組み込め。あのファインズが来ているというのに、わしが黙っていられるか。ファンバイユの意地を見せよ!」
天幕が慌ただしくなる――。
――ライエル本陣。後方。
「ホップ、ステップ、右ストレート!」
ミレイアが繰り出した右拳に吹き飛ばされたのは、セントラルの宮廷貴族をまとめ逃げだそうとしていたラルフだった。
そんなミレイアを、ミランダとシャノンがその後ろで見ていた。
二人ともドン引きしていた。
「き、貴様! 何者だ!」
ミレイアに向かって怒鳴るラルフだが、頬を左手で押さえて足が震えて立ち上がれないでいた。かなりの力で殴っている。
すると、笑顔でミレイアが銃を抜いてラルフの右耳近くを撃つ。
「ひっ!」
「あら? おいたをした時に叱ってくれたミレイアちゃんを忘れるなんて、酷い孫ね。お婆ちゃん、悲しくて今度は手元が狂うかも知れないわ」
ミレイアの持つ銃と、その口調でラルフは目の前の人物が祖母であるミレイアだと思い出した。
「お、お婆様は死んで、それにそんなに若く――ひっ!」
またしても銃弾がラルフの体近くをかすめた。ミレイアは、二丁の銃に弾丸を込めながら。
「娘を利用してのし上がる、大変結構。宮廷貴族なのですから、私はそこは別に怒ってないわ」
「あ、あの……お婆様?」
堂々としていたラルフが、顔色をうかがっていた。その様子を、ミランダもシャノンも互いに抱き合ってみていた。怖かったのだ。
「でもね、結果的に今は何もかも失ったわよね? それって失敗よね? ……それを娘にたかってなかった事にしようとする根性が気に入らないわ。それに、元は領主貴族である私的に許せないの。娘を追い出すとか……お婆ちゃん、悲しいわぁ」
ラルフのこめかみに銃口を向けるミレイア。周囲はそんなミレイアを取り押さえようとするが、牽制されて近づけない。
「お、お許しください、お婆様!」
「いいわよ」
しかし、ケロッと表情を変え笑顔になるミレイア。ただし、次に出て来た言葉は。
「ただし、ここから這い上がるなら覚悟を見せなさい。こんな後ろではなく、最前線で武器を手に持って戦いなさい。大丈夫、お婆ちゃんが手伝ってあげるから。せめて、それくらいしないと、この子たちも許さないわよ。それと……貴族の義務を果たせ、糞野郎共!」
上空に発砲して、逃げだそうとした宮廷貴族たちを威嚇するミレイアだった。
「何もしないで害虫みたいにたかろうと思っていないわよね? 命を張る時は、しっかり張りなさい。タダで甘い汁を吸おうとする奴は、私――殺したいくらい嫌いなの」
全員が慌てて武器を手に持つと、ミレイアはミランダとシャノンに振り返った。
「二人とも、これで将来は少し安泰ね。後はライエルの愛を得るだけで、他に対抗できるわ。それと……お前らは、命懸けでこの子たちに尽くせ。裏切れば殺す。足を引っ張っても殺す。覚えておきなさい。ウォルト家の女は――地獄の果てまで追いかけるから」
ミランダとシャノンには笑顔で、他には眼光鋭く睨み付けて低い声で脅すミレイア。
「……お姉様、曾お婆さまが怖い」
シャノンがミランダに抱きつきながらそう言うと。ミランダも。
「そうね。私も怖いわ」
すると、ミレイアが少し悲しそうに。
「もう、二人とも酷い! せっかく、将来のために味方を増やしてあげたのに!」
プンプン、と擬音が聞こえてきそうな感じで可愛らしく怒るミレイアだった――。
――カルタフス方面。
一人の水色の長髪を持つ男が小柄な少女にも見える女性の前で正座をしていた。
「……遅れて申し訳ありませんでした! こちらも色々と積もる話が」
すると、小柄な女性は用意された椅子に座って左手で指を鳴らした。イライラしているのが周りから見ても分かる。
指を鳴らすと、地面から次々に魔法が噴き出し骸骨の軍団を吹き飛ばしていた。炎、風、水、土、それらが爆発を起こしたように地面から噴き出す。
「ふ~ん、私よりあっちを優先するんだ」
そんな様子を見ていたルドミラは。
(面倒臭い女だなぁ)
などと感想を抱いていた。周囲のカルタフスの兵士たちは、急に出現した小柄な女性が魔法で骸骨の軍勢を吹き飛ばしているので、その間に立て直しを図っている。
「いや、ほら……みんな集合したし」
「……ねぇ、なんでフレドリクスがこっちに来ないの? ファインズたちも顔を見せてもいいと思うの」
またしても指を鳴らすと、今度は更に大きな魔法が地面から噴き出した。
「あ、あいつらも色々と忙しくて……ほ、ほら! 手薄なところとかあるから!」
小柄な女性がゆっくりと立ち上がる。
髪が長く眼鏡をした男性が、跳び上がって後ずさりをした。
「ごめんなさい! すぐに呼んできますから!」
ただ、小柄な女性は溜息を吐く。
「はぁ、もういいわよ。貴方は自分の家臣や部下を率いなさい。目の前の雑魚を片付けたらフレドリクスとファインズたちのところに行くわ。それと、ライエルだったわよね? バンセイムを倒して帝国を建国するなんてやるじゃない。私も微力ながら手伝ってあげるわ」
男性――四代目が胸をなで下ろした。ルドミラは思う。
(微力? これで微力!?)
魔法により吹き飛んでいく不死の軍団は、一発の魔法でも相当な数が吹き飛んでバラバラになりうごかなくなっている。
それを微力という小柄な女性に、ルドミラは戦慄した。
「よ、良かった。王国を打ち倒すのに反対するかと心配で」
「なんでよ? まぁ、私の時代は力がなかったからしない、って言ったわよ。でも……天下にその手が届くなら、何が何でももぎ取るのは当然じゃない! いいわ、積年の恨みをぶつける機会が来たのよ。私の血が天下に手が届く! ……面白いわ」
小柄な女性がその瞳に強い意志を宿し、やる気を見せていた。今度は右手の指を鳴らすと、空から魔法が降り注ぐ。
「アハハハ、盛大に盛り上げてあげるわ! 見てなさいよ、バンセイム――私の血がお前らを終わらせてやるわ!」
ルドミラが、四代目に向かって。
「大変そうですね。その、色々と」
そう言うと、四代目が髪を手で払いながら。
「可愛いだろ」
そう言って笑うのだった。ルドミラは思った。
(まぁ、お似合いなんだろうな。私はこんな夫婦の形は嫌だが)
そう思っていると、ルドミラに小柄な女性が語りかける。
「それと、そこのあんた」
「なにか?」
「……あんた、ウォルト家の嫁になるなら覚悟しなさいよ。私も苦労したんだから」
「……え?」
目の前で魔法を駆使して死兵を吹き飛ばしていく小柄な女性が、苦労するというのがルドミラには理解できなかった。
隣では四代目が首を傾げている。
「そうかな? 割とアットホーム的な感じなんだけど?」
小柄な女性が手で顔を隠した。
「アットホーム? あれが? 私、義母には苦労させられたんだけど? まぁ、いいわ。ウォルト家の嫁に相応しいかチェックしてあげる。ついてきなさい」
「え、あ!」
手を引かれていくルドミラに、後ろからオロオロとしたカルタフスの兵士たちが追随するのだった――。




