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セブンス  作者: 三嶋 与夢
章タイトルのセンスが欲しいぞ 十七代目
307/345

サークライ

 ――サウスベイムにあるミランダの部屋には、ベッドが二つ用意されている。


 一つはシャノンのベッドであり、夜も遅くなるとシャノンはベッドに潜って眠っていた。人手不足に加え、寄せ集めであるライエル陣営ではシャノンも貴重な人手である。


 その魔眼は魔力の流れを読むため、重宝されているのだ。


 何かしらおかしな行動をする者がいれば、シャノンによって発見されるからだ。


 実に優秀な瞳を持っているシャノンだが、本人の性格や体力不足もあって扱い辛い。そんな妹を持つミランダだが、今は手紙を読んでいた。


 部屋の中に置かれたランタンの明かりを頼りに読んでいるのだが、ミランダの表情は優れない。むしろ、不快感を示していた。


「……よく手紙を出せたわね。色んな意味で」


 差出人はラルフ・サークライ――ミランダの父親だ。ライエルに手紙を出せるルートを持っていたのも驚きだが、内容にも驚きを隠せなかった。


 内容としては、カルタフスに滞在しているサークライ家の者をそちらに送るというものだ。許可が出ないためにカルタフスで待機しているらしく、ミランダの許可が出ればすぐにでも人手を回せると書かれていた。


 同時に、セントラルの近況なども書かれている。


 カルタフスのルドミラではなく、船員が持っていた手紙がミランダに届けられたのだ。


「金か、それとも後ろ暗い繋がりか。どうでもいいけど、格下げされたのに元気な事ね」


 そして、重要なのは最後の方だ。


 ライエルが独自で勢力を拡大し、更にはウォルト家の本隊を吸収すると接触を図ってきたラルフ。ミランダに繋ぎを求めて来たのだ。


「まだフィデルさんの方が可愛げもあるわ。いえ、どっちもどっちね」


 ラルフは貴族。フィデルは商人。どちらも強かだ。


 セントラルの内部情報は、喉から手が出るほどに欲しいのは事実だ。実際、ラウノでも潜入は危険すぎるとライエルが判断し、断念している。


 周辺の状況から、セントラル内部の情報を推測する事にしていた。


「……ライエルに情報を渡しつつ、船の用意までしないといけないわね。ルドミラを頼るのは避けたいところだけど、そうなると頼れるのは商人か」


 ミランダは手紙を折り曲げ、そして微笑んだ。


 ランタンの光でミランダの微笑みが怖いものに見える。


「サークライ家の地位向上を狙って私に支援する判断は褒めてあげるわよ、お父様。でもね……少し遅かったわね」


 現在、続々とルフェンスに反セレス――現バンセイム王国に反旗を翻すため、ライエルの下に各地から兵が集まってきている。


 ウォルト家を返り討ちにしたことで、流れは完全にライエルに傾いていたのだ。セレスという存在を無視すれば、ライエルは明らかな勝ち馬だった。


「接触するのがもう少しだけ早ければ良かったのに。まぁ、こちらに接触するのも命懸けだろうし、頑張った方かしら?」


 ラルフがライエルとセレスを秤にかけ、ライエルに乗り換えた可能性もあった。ただ、ミランダ的には遅れて支援を貰ってもなんのアドバンテージにもならない。


「利用させて貰うわ。まぁ、協力を申し出たのだから、実家の存続だけは認めてあげる」


 シャノンを見るミランダは、手紙にシャノンの事が書かれていなかった事に若干の苛立ちを覚えつつ。


「……セントラルから逃げ出すように言っておくべきね」


 家族の情もあって、安全を確保するように伝えることを決めるのだった――。






 ――サウスベイム。


 職人が集まっている区画には、一つの倉庫があった。


 割と大きなその倉庫の周りには、多くのポーターや部品が積まれていた。


 職人たちがつかれた表情で中に入ると、倉庫に不釣り合いなメイド服を着たモニカが待っていた。


「遅かったですね。それで、例の物は?」


 職人たちが、モニカの依頼で作った部品を箱から取り出す。歯車やバネ、そして何に使うのか分からないが、モニカの要望通りに作らされた部品の数々は職人たちの汗と涙の結晶でもあった。


 モニカはソレを見て。


「……素晴らしい。これでポーターも完成するときが来ました」


 モニカが振り返ると、そこにはライエルたちと供に旅をしてきた中まであるポーターが最終調整を受けていた。


 最終決戦を前にしての最終調整で、ただの荷物運びから始まったポーターはすでに巨大ロボットになっていたのだ。装甲はアラムサースで手に入れたボスの物を使用している。


 内部にはモニカが色々と手を加え、サウスベイムの職人たちを使って部品も揃え完成させた。


 変形する装甲車。自重しないモニカが、ライエルとの共同作業で作りだした事もあり愛情を持ってここまで完成させたのだ。


「素晴らしい! これであのダミアン教授のところにいるポンコツ三体と、私モニカの性能の違いがハッキリしましたね。早速、完成させたらチキン野郎に報告しないと」


 ウキウキしているモニカに、職人たちが。


「あ、あの……報酬の方を」


 モニカは手を叩く。金色のツインテールが手を叩いた拍子にふわりと動いた。


「おっと、報酬でしたね。では、色を付けておきましょう」


 スカートとエプロンの隙間から取り出した革袋には、報酬が用意されていた。そこに、モニカは自身の財布から金貨を取り出して付け足しておく。


 それを受け取った職人たちは、中身を確認して安堵した様子だった。


「金払いは良いんだよな」

「あぁ、金払いは、な!」

「俺、ここ最近は仮眠しかとってない」


 ドワーフにノーム、そして人間の職人たちがこれでゆっくり出来ると安堵していた。モニカがそんな職人たちに。


「おっと、スペアの部品作成の依頼を――」


 そこまで言うと、職人たちは金の入った袋を大事そうに持って倉庫から走り去ろうとする。しかし、無駄にスペックの高いのが売りのモニカだ。


 先回りして、倉庫の入口に立つと笑顔で。


「お待ちなさい。これから交換用のパーツや、整備用の部品を依頼します」


 職人たちは、そんなモニカの笑顔を見て絶望するのだった――。






 ――サウスベイムに来ていたグレイシアは、バンセイムへの対策会議を前にしてラフな恰好で街中を歩いていた。


 母国であるガレリア公国では、弟であるレオルドが今では公王代理であるグレイシアの代わりに政務を行っていた。現在では、権力のほとんどをスムーズにレオルドに移行できており、身軽な立場になっていた。


 銀色の長い髪を束ね、サウスベイムの街を護衛でもある女性騎士たちと歩いていた。ただ、これまでの重責から解放されたこともあって……。


「おぉ、以前よりも規模が大きくなったと思ったが、店も増えているな」


 楽しそうに並んだ屋台を見ており、護衛の女性騎士たちがグレイシアの変わりように驚きつつも。


「グレイシア様、今日は既に昼食を済ませております。屋台で食事などされては困ります」


 公王代理から解放され、レオルドが公王に即位するのも間近となってグレイシアは浮かれていた。


「いいではないか。お前らも食え。因みに、あっちの店は串焼きがとても――」


 グレイシアが指を指した場所には、先客がいた。


「エアハルト、こっちも美味しいよ」

「ちょっと、ベタベタしないでよ。あ、エアハルトの食べているのも美味しそう」

「ねぇ、エアハルト~」


 タンクトップを着て肩身の狭そうな男が、長椅子に座って縮こまっていた。冒険者仲間の女性陣に囲まれてはいるが、そこから少し離れた場所で男たちがエアハルトを見守っていた。


「誰だよ、エアハルトの居場所を教えた奴」

「俺じゃねーよ!」

「見ろよ、今日は休みだからノンビリできると喜んでいたエアハルトが……あんなに落ち込んで……」


 グレイシアたちは、エアハルトを見る。周囲から視線を集めるエアハルトたちだが、サウスベイムではあまり珍しい光景でもないので気に留めている人は少なかった。


 そんなエアハルトを見て、グレイシアは。


「……男は女に囲まれていれば幸せじゃないのか?」


 周りの女性騎士にたずねるが、周囲も武辺者のために返答に困っていた。すると、グレイシアの声が聞こえたのか、エアハルトが顔を上げる。


「そこのあんた、俺が羨ましいように見えるのか? なぁ、見えるのか!」


 泣きそうなエアハルトを見て、グレイシアたちが首を横に振った。すると、エアハルトが言う。


「これというのもライエルの野郎がいけないんだ。俺に色々と押しつけやがった……ちくしょう。あの野郎は何発か殴っても許されるはずだ」


 グレイシアの護衛たちが、エアハルトに鋭い視線を向けた。グレイシアが手で制すと、護衛隊が握った剣の柄から手を離す。


「盟主殿の知り合いか? あまりそういう事を口にしない方がいいと思うが?」


 すると、エアハルトもまずいと思ったのか。


「あぁ、悪いな。冒険者時代からの知り合いだから、つい、な」


「冒険者時代か」


 グレイシアは、ライエルの事を知ろうとエアハルトに声をかけた。


「ふむ、色々と聞いてみたいな。どうだ、少しで良いから話をしてくれないか? そうだな、報酬は……食事代くらい持ってやるぞ」


 すると、近くにいたエアハルトの仲間たちが、一斉にグレイシアに振り返った。十人を軽く超える数に、グレイシアは驚く。


 だが、エアハルトは。


「悪いな。今日は久しぶりの休日なんだ。最近は忙しくて、ノンビリできないからな」


 やんわりと断り、長椅子から立ち上がるエアハルト。


「そうか。悪かったな」


「別に。それに、面白い話でもないからな。冒険者時代に、俺が絡んで返り討ちに遭ったんだ。そこから少し話をする関係でしかない」


 仲間を引き連れ、どこかへと向かうエアハルトたち。そんなエアハルトたちを見ながら、グレイシアは少し考えていた。


「……何故だろうな。あのタンクトップ男の背中が煤けて見える」


 首を傾げるグレイシアだった――。






 ――サウスベイムに主要なメンバーが集まる中。


 シャノンは護衛としてついてきてくれているアリアやヴァルキリーズと共に買い物をしていた。


 正確には、買い物に見せた見回りだ。


 ライエルだけでは発見できないスキル持ちの侵入者――間諜の類いを見つけるために、こうして外に出ているのだ。


 出店に置いてある商品を見ながら、シャノンは座り込んでいる男を見ていた。どこから流れてきたのか、活気のあるサウスベイムに来た浮浪者のような男だ。


 シャノンはその男を見て。


「……アリア、あの人よ」


 すると、護衛としてシャノンの傍にいたアリアは、その男を横目で見た。座り込んでいる物乞いにしか見えないが、シャノンが言うなら何かしらしているのだろう。


 スキルを使用している気配があるようで、アリアはそれをヴァルキリーズに告げる。情報が他のヴァルキリーズに伝わると、対処は他の誰かがする事になっていた。


 アリアは物乞いの男から視線を外し。


「物乞いの男ね。そう言えば、最近になって増えたわね」


 ベイムがバンセイムによって蹂躙されてからというもの、こういった浮浪者が続々とサウスベイムに流れ込んできていた。


 新しい村の開発や、人手を求めているところもある。だが、全員を救うことは出来ていなかった。


 すると、シャノンが男を見ながら。


「あ、盗った」


 アリアも男に視線を向けると、目の前に置いていた小さな箱のようなものにお金が入っていた。男は、それを回収してニヤニヤしていた。


 懐にしまい込むと、また空になった箱を置いてそのまま座っているだけだ。


「スキルでスリをしていた訳だ。まぁ、間諜でなくて良かった、ってところね。それだけの実力があれば、もっと真っ当な仕事も……あれ?」


 アリアは、男を見ながら誰かを思い出そうとしていた。


 すると、シャノンが。


「そう言えば、前にも同じようなスキルを持っていた男がいたわね。見えない手で攻撃してくる……あ、ウォルト家の騎士だった」


 ライエルの兄弟子に当たるアルフレート・バーデンだ。それを聞いて、アリアは思い出した。


「セントラルでセレスと出会った時の? 関係者かしら?」


「さぁ?」


 アリアが判断に困っていると、男は立ち上がってどこかへと向かって行った――。






 ――サウスベイムの裏路地。


 新しい建物が並ぶサウスベイムだが、どうしても人目の届きにくい場所もあった。


 そうした場所に集まるのは、行き場を失った人間や元は兵士という男たちだ。逃げ出したベイムの兵士。村人。バンセイムから駆り出され、流れ着いた兵士たち。


 そうした男たちをまとめるのは、バーデン家の男だった。


 今日の稼ぎを木箱の上に置く。


 銅貨だけではなく、銀貨に金貨までそこにはあった。


「流石兄貴!」

「これでしばらくは大丈夫ですね」


 すると、男は怒鳴る。


「馬鹿野郎! この金で武器を買うんだよ。いいか、これだけの人数が武装して組んで動けば、弱腰になる連中も多い。そしたら賭博を行って、裏からサウスベイムを牛耳るんだ」


 男たちは、そんな事を言う頭であるバーデン家の男に。


「で、でも上手くいきますかね? 賭博はしばらく禁止だ、って兵士が見回りを……」


「金で買収すればいいんだよ。それに、俺の実家はウォルト家の陪臣だ。名前を使って、しばらくすれば盟主のところに仕官する。そうすれば、もっと動きやすくなるぜ」


 かつて、二代目が賭博関係を仕切らせた家があった。それがバーデン家だ。三代目が戦死したどさくさに紛れ、その時に交した書類を回収してからはウォルト家に寄生する形で裏社会で権力を持っていた。


 そうした実家のやり口を知っている男が、今度はサウスベイムで動き出したのだ。


「盟主の野郎と知り合いなんですか!」


 部下の言葉に、頭は言う。


「会った事もない。俺は兄貴のスペアだったからな。だが、ボンクラなウォルト家の息子には変わりない。精々、甘い汁を吸い尽くしてやる。あの野郎が勝てれば、大陸の裏社会を牛耳れる可能性だって――」


 そこまで言うと、部下たちの首が飛んだ。


 頭が驚くと、いつの間にか木箱の上に立つ男を見上げる。


 青い髪を持ち、青い瞳で見下ろす男――ライエルだった。


「バーデン家の者だな。随分とペラペラと喋る」


「ま、まさか……ライエル様で? いや、これはその――」


 言い訳をしようとする男に、ライエルはカタナを振り下ろした。男の首が飛ぶと、残っていた部下たちが逃げるように路地裏を走り出した。しかし。


「はい、駄目~」


 女の声がした。楽しそうで、優しそうな声に反して糸に絡まった男たちは捕まってしまう。


 ミランダは、生き残った全員を捕縛した事を確認するとライエルの側に寄った。


「良かったの?」


 バーデン家の男を見下ろしながら、ミランダがそうライエルにたずねた。ライエルは、刃の血を拭き取って鞘に戻すと歩き出す。


「悪いが慈悲はない。こちらには長年苦労させられたからね」


 ミランダは呆れつつ。


「自分が苦労させられたみたいな言い方ね。ご先祖様たちが、でしょ?」


 ライエルは歩きながら。


「まったく、忙しいときに仕事を増やしてくれる」


 ミランダは、ライエルの隣を歩きながら。


「おかげでノウェムとも会えていないものね」


 クスクスと冗談を言うように言うと、ライエルは黙ってしまった。各国の代表が集まってきており、色々と問題が起きては困る。そのため、ライエル自身が動いたのだ。


 ただ、そこに個人的な理由があるのは明らかだった。


「私に任せてくれれば良かったのに。上手く処理したわよ」


 こういった処理を担当しているのは、主にミランダだ。ただ、それをライエルがあまりよく思っていないのもミランダは知っていた。


 ライエル自身、ミランダを現状の仕事から解放したかった。しかし、代りがいない。そして、ミランダはそういったライエルの気持ちも利用していた。


「……あまり任せっきりも嫌だった。俺の問題でもあるからさ。もう、誰かに任せるしかないよな。こういう後ろ暗い事をして貰う人材も必要ではある」


 ミランダは、そんな事を言うライエルを見ながら。


「そういう、悪い部分も持っているライエルは好きよ。善人より信用できるもの」


 すると、ライエルは複雑そうな表情でミランダに振り返るのだ。


「……色々とあってこうなったんだよ。前は無垢な少年だったんだぞ。気が付けばセレスと同じ大悪党だ」


「アハハハ、良かったじゃない。それに、勝てば大英雄よ。世の中、そんなものよ」


 ミランダは笑い、そしてライエルの後ろをついて歩くのだった――。


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