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セブンス  作者: 三嶋 与夢
ネタがないなら開き直ればいいじゃない! 十六代目
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初見殺し

 魔法が支配する戦場は、見た目の割に地味な始まりだった。


 互いに魔法を派手に撃ち合っているが、それを防ぎながら地味に距離を詰めてくるウォルト家の陣営。


 激しい爆発音に加え、発生する煙がまるで曇り空でも作ってしまいそうな光景だ。互いにこの魔法合戦で勝敗がつくとは思ってはいない。


 ただ、これで勝敗、あるいは相手が崩れれば儲けもの、とは思っていた。父であるマイゼルが持つスキルはアンチスキル――スキルを使用させない事にある。だが、それは同時に両刃の剣だった。


 味方のスキルすら使用させないのだから。ただし、それは逆を言えば――。


「派手さの割に地味な立ち上がりですね」


 見張り台の上からそう言うのは、今回は出番の少ないであろうモニカだ。俺は戦場で距離を詰めてくるウォルト家を見ながら。


「いきなり派手に攻め込まれても困るけどな。スキルを封じられてしまえば、こんなものだろ? まぁ、そういうふうに相手も見せているんだろうな。俺たちもスキルを使えない、って」


 すると、モニカが俺に伝えてきたのは、敵の配置であった。


「……報告します。敵、騎馬隊を前衛に配置。両翼には歩兵を配置していますが、弓隊も配置されています」


 それを聞いて、近くにいた伝令に言う。


「聞いたな。両翼に騎馬隊を移動させろ」


「はっ!」


 伝令が走り去る姿を見ながら。俺は呟いた。


「……さて、クラーラの頑張りに期待するか」






 ――後方で命令を受けたクラーラは、兵士の移動のためにポーターを利用していた。


 大型のポーターを才能のある魔法使いたちに任せ、戦力の移動を一気に行なう事を可能にしていたのだ。


 ただし、大型のポーターもそこまでの数はない。敵の配置に合わせて部隊の配置換えをするにしても、ある程度までしか対応は出来なかった。


 それでも大量の兵士を一気に移動させられるのは、ライエル陣営の強みだろう。敵であるウォルト家の陣営が旧式のポーターを使っているのに対し、こちらは開発者であるライエルを始めとして、ダミアンやサウスベイムやその他の職人たちが揃っていたのだから。


 伝令からの命令を受け、クラーラは大型ポーターの一台を操作するために乗り込む。


「騎馬隊の移動を開始します。速やかに移動させます。敵が来るまでに間に合わせてください」


 数代の大型ポーターが動き出し始めると、荷台が開いた。そこに次々に馬を連れた騎士たちが乗り込んでいく。


「他のポーターには槍や装備品を積み込むように」


 指示を出すのが苦手なクラーラだが、命令を出さないわけにはいかない。何しろ、クラーラ以上にポーターの操作が上手い者がいない。そして、これまでの冒険者生活で、クラーラはポーターの操作に特化してきた。


 自分がどうすれば役に立つのかを考えれば、答えなどハッキリしている。


(リアーヌさんには感謝しないといけませんね。私の要望が通ったおかげで与えられた仕事もこなせる訳ですし……そう思うと、本当にアデーレは駄目だなぁ)


 何かと馬の合わないアデーレの事を考えつつ、クラーラは周囲の作業が終わるのを確認して移動を開始するのだった――。






 ――右翼。


 敵が突撃の構えを見せているのに対して、防衛に専念する作戦に出たライエル陣営は広く囲むような陣形を取っていた。


 通常なら数もライエル陣営が多く、この陣形で有利に戦えるはず……だった。しかし、右翼に配置されたアリアは、敵が近づくのを見ながら兜の中で愚痴をこぼす。


「スキルなしとか、きついわね」


 馬上で槍を担ぎ、騎馬隊を率いているアリア。周囲には柵が設置され、容易に突破が出来ないようになっている。


 同じように部隊を率いるのは、ガレリアの兵士を連れたグレイシアだ。右翼にはこの二人が中心として配置されていた。


 黒い鎧を装着したグレイシアは、兜のマスク部分を外してアリアに言う。


「悪いが派手に魔法を放てない。後衛系のスキルも駄目になっているようだ」


 グレイシアは魔法に特化したスキル――後衛系のスキルの持ち主だ。炎を自在に操ることができ、かなりの驚異だ。味方であれば頼もしいが、そんなグレイシアのスキルも封じられていた。


「それでも、普通に戦えるなら大歓迎よ。それより、右翼の指揮権を私に渡して良かったの? 立場的には――」


「――立場的に相応しいのが君だった。それだけだ。私は自分のところの兵士がすり潰されないなら、君の指揮下でいい。まぁ、兵士の数やこの軍の流儀をより知っているのは君だからな」


 冷静なグレイシアを見ながら、アリアは思った。


「感謝するわ」


 口ではそう言いながら。


(なんで普段からそうやって落ち着かないのよ。ライエルの前に出てアタフタして変な事をするし……はぁ、今はいいや)


 この冷静さを、戦場以外でも発揮して欲しいと思うアリアだった――。






 ――左翼。


 数千の兵力を与えられたミランダは、左翼本隊を指揮するマクシムの命令で敵の側面を攻撃していた。


 ウォルト家の軍勢も他家の軍勢が加わっており、全てが精強という訳ではない。そのため、敵の弱いところを突くために部隊を率いて回り込んだのだが――。


「こいつら、意外にやるわね」


 馬上で短剣を持つミランダは、敵の騎士が槍を持って突撃してくると左手の短剣で槍の穂先を弾き、そして方向を逸らすとそのまま右手に持った短剣を相手の鎧の隙間――首元に突き刺した。


 馬から落ちた騎士はもがき、馬だけが駆け出してどこかに行ってしまう。


 周囲を見れば、敵の抵抗にあって味方が攻めあぐねていた。奇襲をするのも失敗しており、グズグズとなった部隊をなんとかまとめて下がりたいミランダだが、敵がソレをさせてはくれなかった。


 すると、馬から下りた体の大きな騎士が、ハルバードを持って振り回し始めた。


「賊軍共が! このカスラーデ様の前に出た不幸を呪え!」


 ガハガハと笑い、ハルバードを振り回す騎士が一人。だが、周囲にいた味方はそのハルバードに斬り伏せられていた。大きな体はただの張りぼてではないらしい。


「敵の切り込み隊長かしらね。苦手なタイプ」


 そう言って馬を走らせるミランダは、空いた右手に馬具に取り付けた鞄から弩を取り出して引き金を引いた。


 頭部を目がけて放ったのだが、カスラーデは左手を矢の方向へ向けるとマジックシールドを展開。放たれた矢がマジックシールドを貫通するも、勢いを殺されそのまま鎧に弾かれた。


「このクラスが普通にゴロゴロしているのよね」


 力一辺倒でもない相手を見ながら、ミランダは弩をしまい込んで慣れない短槍を手に取った。


 カスラーデが叫ぶ。


「目立つ鎧。それに線の細さ――貴様、女か! 戦場に出た不幸を呪え!」


 ハルバードを大きく構え、馬ごとミランダを両断しそうな勢いで振り下ろそうとしていたカスラーデ。だが、ミランダは兜の中で笑っていた。


「不幸を呪うのが好きな人ね。でも、呪うのは貴方になりそうよ」


 すると、カスラーデのハルバードが横から現われたメイによって蹴られた。ミランダから見れば、横から急に出現してハルバードを本当に蹴り飛ばしてくれたのだ。


 カスラーデが腕からハルバードを手放すと、体勢を崩す。


 そのまま、ミランダは短槍――ギミックのある短槍の仕掛けを動かすと、短槍の穂先が放たれカスラーデの腹部に突き刺さった。


 メイが地面に着地をすると、その近くではマリーナが敵兵士を殴り飛ばしていた。


「今のは危なかったんじゃないの?」


 そう言うメイに、ミランダは右手に短剣を持つと。


「そうね。だから今後も助けて欲しいわ」


 だが、メイも本調子ではないのか首を横に振った。


「勘弁してよ。なんだかザワザワして力が入らないんだから。それより、敵が動揺しているから下がれば?」


 周囲ではカスラーデが討たれたため、敵兵士たちが動揺していた。ミランダもその動きを見ており。


「後退する! 私に続きなさい!」


 ミランダが後退を宣言すると、味方は敵から離れて行くのだった。ただ、ミランダは内心で。


(もう少し削っておきたいけど、これ以上は無理か)


 退きながら、ウォルト家以外の相手も油断ならないと感じていたのだった――。






 両翼が先に戦闘を開始したのは、ウォルト家の軍勢と違って俺たちの軍勢は中央の軍勢が両翼よりも後ろに配置されているからだ。


 見張り台からは、モニカの声が聞こえてくる。戦場で声を張り上げながら。


「両翼、戦闘を開始しました。敵を十分に押さえています」


 遠くからでは詳しい事は分からないが、上手くやっているようなので安心した。ただ――。


「中央の前衛部隊も敵に接触。派手な魔法の撃ち合いはなくなりましたが……押されています」


 中央の軍勢は、敵の精鋭とぶつかっており押され気味だった。


 俺はそんな味方を見ながら。


「分かってはいたことだが、防戦一方か。先に士気が崩れないといいけどな」


 設置した柵の一つ目が容易に破壊され突破される前、すぐに後退させて味方には防戦するように伝えた。見晴らしの良い場所で俺は本陣がここであると示しており、押し込まれる味方を見ながら。


「そろそろか」


 すると、モニカとの間にラインが回復した。


 モニカが俺に大声で。


「来ます!」


 直後、敵陣の方で戦場に響く鐘の音がなった。父であるマイゼルが得意としているのは、スキルを封じることだけではない。


「分かっていても防ぎようがないな。今は耐えて貰うしかない」


 苦々しく思いながら、今は耐えることに専念させる。それしかなかった。


 敵陣の一部が、急激に突破力を増してまたも柵を突破。そのまま味方の部隊と戦闘に入っていた。その突破力は、明らかになんらかのスキルによるものだった。






 ――ライエルが思い出すのは、七代目との会話だった。


「父上がもっとも得意とする戦術ですか? スキルを封じるだけではないと?」


『そうだ』


 七代目と会話をしている場所は、宝玉内の記憶の部屋。ウォルト家の屋敷の中庭だった。


 そこにはマイゼルが妻である女性クレアと、微笑んで何かを語り合っていた。


 ライエルの母であるクレアは、大きくなったお腹をさすっていた。


『マイゼルが得意としているのは、敵のスキルを封じ、混乱を起こしているところに突撃する戦法だ。だが、スキルを使用不可に出来るという事は――』


 七代目の言葉を理解し、ライエルはその続きを話した。


「逆に使用可能にして、味方だけにその合図を出せると。上手くいきますか? 相手だってスキルの使用ができますが」


 七代目とライエルの視線は、嬉しそうに喜んでいる二人に向けられていた。そんな中で不釣り合いな会話が続く。


『まぁ、相手からすれば封じられたと思い込んでいる。使えたとしても、一時的に使用できるようになるだけで、混乱から立ち直ったとしてもまたすぐに混乱する。初見では一方的な展開になることが多い』


 つまり、マイゼルの軍勢は敵の隙を突いてスキルを使用できる。相手も使えるが、それを知ったところですぐに使えなくするので問題ない、という事だ。知っていたとしても、どうしても慌ててしまう事になる。


 七代目が、若くどこか棘のあるマイゼルが嬉しそうにしている姿を見ながら、少し悲しそうにしていた。


 ライエルはその横顔に気付き、少し俯く。


『銃を選択しなかったマイゼルは正しいのかも知れないな。そんなスキルのオンオフの環境下では、命令も複雑になる。銃を魔具にして運用した場合、下手をすればマイゼルのスキルと干渉して暴発する可能性もあるからな。高い銃を毎回のように破損させたかも知れない』


 苦笑いをする七代目だが、まるで自分に言い聞かせている様子だった。ライエルは顔を上げると。


「相手がスキルを使用した段階で、こちらもスキルを使用させるのは可能ですかね?」


『無理だとは言わないが、混乱するぞ。それならいっそ、スキルを使用しないことにして隊を組んだ方がいい。一部には伝えておいていいだろうが……そこに合わせて行動すれば、マイゼルも当然だが対策を立てるからな』


 ライエルは溜息を吐きながら。


「厄介ですね」


『だが、厄介な事ばかりでもない。何しろ、スキルを使用して突破力を得ても、スキルの使用を許されているのは全体から見て精鋭の一部だけだ。スキルを使用した直後は、その突破力が仇となって孤立する連中が良く出ていた。マイゼルもその事を凄く気にしていたよ』


 七代目のアドバイスを聞き、ライエルは十年以上の歳月でマイゼルがそういった部分の対処が出来ているのか気になるのだった――。






 戦場では、一時的にスキルが使えたことで暴走する部隊が見受けられた。


 防戦一方だった味方が弱気になっていると思い、隊列が乱れ独断で動く者が現われたのだ。主に若い騎士が多く、手柄欲しさに飛び出したのだろう。


 すると、一部の部隊がスキルによる突破力を得たのに後続を待つ、あるいは下がり始めた。


「……対策は立てていたが、完全ではないというところか。父上も暴走気味の若い騎士には困らされている訳だ」


 全てが上手くいくなど戦場では有り得ない。それは俺たちだけではなく、敵にも言えた。そして、またモニカとの間のラインが途切れた。


 モニカが見張り台から叫んだ。


「何度も私とチキン野郎の絆を断ち切りやがって! ちくしょうぉぉぉ!!」


 相変わらずのモニカだが、俺は味方を見ながら少しだけ笑う。


「……流石に精鋭でも、孤立してしまえば後は簡単だな」


 スキルの使用が不可能になると、俺たちの部隊の中で孤立する連中がいた。それを囲んで叩いている。


 指揮官にはそうするように伝えており、父であるマイゼルの初見殺しは完璧に封じた形になった。


 そして、同時に。


「スキルの使用制限を解除して貰って、ありがとうとでも言えば良いのかな? モニカ!」


 見張り台から飛び降りたモニカは、すぐに俺に報告してきた。戦場に配置されたヴァルキリーズから、このタイミングを狙って報告が次々にされたのだ。つまり、情報が一気に俺の手元に集まったという事だ。


「右翼は問題ありません。ただし、左翼では攻めあぐねている様子です。強力な部隊がいる模様です。情報からするにフォクスズ家の部隊でしょうか?」


 俺はモニカを見ながら。


「ノウェムに連絡は?」


「すでにしております」


 俺は左翼の方角を見た。俺の目では流石に細かい事までは分からないが、ノウェムが向かったならそれでいい。いや、本当は駄目なのだろうが。


 そして、モニカは報告を終えると見張り台に戻っていく。


 俺は敵本陣がある場所に視線を向けた。


「五代目譲りの防衛戦――見せて差し上げますよ、父上。……伝令、すぐに予備の部隊を投入する。場所は――」


 伝令に命令を伝え、俺は必要な場所に必要な分だけ援軍を送るのだった。


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