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セブンス  作者: 三嶋 与夢
ネタがないよ 十四代目
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ファンバイユの選択

 結論から言って、ファンバイユはバンセイム包囲網の一角を担う事になった。


 破格とも言える条件は、ファンバイユが中心となって周辺国に働きかけ大陸西部をまとめるという事だ。


 やる気になった理由は、レズノー辺境伯が治めている領地――元ファンバイユ領土の返還、それともっとも大きな理由が――。


 髪を振り乱した女性に馬乗りになられ、俺はポーターの荷台の中で床に横になっていた。服も互いに乱れており、互いに息も乱れている。


 ここまで聞けば艶っぽい話にも聞こえなくはないが、馬乗りになられているのが俺という段階でお察しだ。


「ぐ、ぐるじぃ……」


「よくも……よくも私の計画を!」


 鬼気迫る表情。更に、下から見上げる形で見るリアーヌ様の表情はとても怖かった。夢に出て来そうだ。というか、伸ばした腕――手が、俺の首を絞めている。


「ちょっ、ライエルから離れなさいよ!」


 アリアが慌ててリアーヌを引きはがそうとするが、普段から鍛えているアリアが苦戦していた。モニカも持っていた道具をしまいこんで俺の方に飛びかかると、リアーヌと俺を引きはがそうとする。


 だが、爪が首に食い込んで痛い。血が出ていた。


「ち、血が出てるぅ!」


 モニカがシャノンに。


「こんな狭いところで暴れて。薬を出して貰えますか」


 シャノンがポーターのソファーの座る部分を開け、そこから薬を取り出していた。鬼気迫る女の行動を見たレズノー辺境伯の孫であるブラウベイ君が母であるパルセレーナさんに抱きついて怯えている。


 ポーターが急に止まると、クラーラが荷台の方に顔を出して来た。


「あの、騒がしいので……うわぁ」


 クラーラも状況を察したのか、俺やリアーヌの方を見ると近づいて来た。シャノンから薬箱を受け取ると、薬を取り出して布にしみこませると俺の首に当ててきた。傷口がしみる上に、目の前で暴れるリアーヌがこちらに今にも飛びかかってきそうだった。


 ――つまり、だ。ファンバイユは城を乗っ取ったリアーヌを、俺に押しつけられると大喜びで協力を約束したのだ。表向きは色々と理由をつけていたが、あれは絶対にリアーヌから解放されることを喜んでいた。


 リアーヌは、ファンバイユで得ていた権力を俺や家族によって奪われたのだ。


 五代目が怯えているブラウベイ君を心配していた。


『これはトラウマになるな。三代目、マインドで記憶を封印とか――』


 三代目は笑いながら。


『ハハハ、そんなのは駄目。まぁ、僕のスキルはそこまで強いものでもないし、何かの拍子に思い出すことがあるからお勧め出来ないんだよね。将来、大事な場面で思い出したらパニックになるよ。しかしアレだ……想像以上だね』


 確かに、リアーヌは想像以上に問題のある女性だった。そんなリアーヌを受け入れる、というのが最後にらいえるが残した策だ。実際、ファンバイユは協力を約束し、七代目の幻を見せて重鎮や王にまでトラウマを再発させておいた。


 これでしばらくはこちら側に手を出しては来ないだろう。


 クラーラが俺の首に包帯を巻き終わると、俺は首を触った。


「苦しくありませんか?」


「大丈夫、ありがとう。アリアの方も頼む」


 そう言って立ち上がると、モニカに羽交い締めにされたリアーヌが髪を振り乱して暴れていた。アリアも爪で引っかかれたのか、手から血が出ている。


 リアーヌの方も爪が割れ、そこから血が出ていた。それでも俺に飛びかかろうとするリアーヌは、まるで獣のようだった。


 すると、パルセレーナさんがブラウベイ君から離れて立ち上がった。リアーヌの前に出ると、平手打ちをかます。


「……俺はどうしたら」


 アタフタとしていると、宝玉内からはミレイアさんが。そして、パルセレーナさんが俺に言う。


『ライエル、黙ってみていなさい』


「出過ぎた真似をしました。ですが、見ていられません。しばらく見ていてください。ファンバイユの姫、リアーヌ王女殿下ですね? 私はパルセレーナ……パルセレーナ・レズノーです」


 自己紹介をするパルセレーナさんを前に、羽交い締めにされたリアーヌは俯いて乱れた髪が顔を隠していた。


「なんです、先程の行動は。決まった事をいつまでも納得がいかないからと騒いで。その身は王女殿下……国の決定には逆らえないと知りなさい」


 オットリ、そして物静かな女性がリアーヌを前にして堂々としていた。アリアやモニカ、それにシャノンもクラーラも黙っている。


 顔を隠している髪の隙間から、紫色の瞳が見えた。ノウェムと同じ紫色の瞳だが、優しさの欠片もない。


「辺境伯の跡取りの妻が、私にたいして随分と偉そうに――」


 羽交い締めにされておりリアーヌが、右手で指をならそうとしていた。スキルを使用するための行動だ――。


 三代目が俺に言う。


『ライエル、あの手のスキルは少し乱してやれば発動しない。なんでもいいから、ライエルのスキルで干渉させてごらん』


 ――慌てて二代目のスキル――フィールド――を展開し、干渉するとリアーヌのスキルは発動しなかった。


 指が鳴らされただけで、リアーヌは自分の右手を見た。そして、俺の方を見る。


「また私の邪魔を……信じていたのに……同じ復讐する者だと信じていたのに!」


 そんな信用はいらない、などと思いつつスキルを封じて安堵した。パルセレーナさんは、リアーヌに言う。


「王太子殿下との事は聞き及んでおります。レズノー家にとっても重要な事でしたからね。ただ、今の貴方は間違っていますよ」


 リアーヌがパルセレーナさんを睨み付けていた。


「復讐をするなとは言いません。そして私には言う権利もありません。ですが、そこまで執着するのは、まだ愛しているからではありませんか?」


 王太子殿下――ルーファスへの復讐に燃えるリアーヌに、パルセレーナさんはシャノンのような目もなければ、特別なスキルもないのに心の中になにを抱えているのか言い当てた。


 リアーヌが黙り込む。ポタポタと涙をこぼしていた。


「違う。私は……」


 パルセレーナさんは言う。


「貴方は捨てられた訳ではありません。生きている。そして、セレスに魅了されてもいない。……こう考えてはどうですか? 自分は愛されていたからこそ、遠ざけられたのだと」


 リアーヌはなにも言わなかった。納得出来ないという表情をしていた。


 ただ、そのパルセレーナさんの言葉を聞いて、俺は初代の言葉を思い出す。俺の両親がセレスの支配下にありながらも俺が生きてこられたのは、運もあるが両親の必死の抵抗だったのかも知れないと。


 確かめる術などない。ただ、そうであって欲しいとは思った。


 パルセレーナさんは、黙ったままのリアーヌに言葉を贈る。


「幸せになりなさい。復讐するにしても――愛されていたとしても、それが貴方のためになります」


 俺は、まるで自分に言われているように感じるのだった。






 夜。


 ポーターを止めて野営の準備をしていると、メイの反応に気が付いた。


 外に出ると、荷物を持ったメイが登場する。バッグを掲げたメイは。


「お届け物です!」


 そう言って笑っていた。笑顔で近付いてくるメイを見て、俺は昼間の出来事を思い出し――。


「お前はそのままでいろよ。本当にそのままで――」


 すると、メイが首を傾げていた。


 その仕草を見た五代目が、宝玉内で少し笑っている気がした。


『馬鹿、メイは良い子だよ。お前にも……俺にも勿体ないくらい』


 メイはバッグを俺に手渡してきた。


「こっちの手紙はシャノンにも見せるやつ。それと、こっちがジャンペアの手紙で、こっちが……」


 中を見ると、メイが説明してくれた。それらを確認すると、俺はメイに今後の予定を確認した。


「それで、メイはこの後はどうする?」


 メイは背伸びをしながら。


「疲れたから休ませて欲しいかな。一杯食べて数日はノンビリだよ。ノウェムたちはジャンペアからバンセイムに入って、そのまま南部から西部方面? 南西に向かう、って話だったけど」


 すると、七代目が宝玉から声を出した。


『バンセイム南西……ウォルト家の領地か。まぁ、ノウェムたちなら心配ないと思うが……』


 バンセイムで領主としては最大の領地を持つのは、国王の次はウォルト家だ。代々が広げた土地は、今ではバンセイム一の領地になっている。そのため、南西と言えばウォルト家の領地である。周辺も寄子がいる……いや、フォクスズ家の領地もあった。


「元から余裕があれば向かう予定だったからな。ノウェムたちは上手くやっている、って事か」


 メイは笑っていた。


「そうだ。ジャンペアの王がね。ライエルとお酒を飲みたい、って。二人で」


 俺は手紙を開けていたのだが、その話を聞いて手が止まった。ゆっくりと顔を上げると、メイに言うのだ。


「……俺、酒は駄目だぞ」


「だよね! でも、ノウェムがその話を受けたから頑張れ」


 ジャンペアの王との酒盛りに不安を持ちつつ、俺は手紙を広げて中身を確認した。手紙の中にはジャンペアでの成果。そして、どれだけの戦力を出せるかという事が書かれていた。


 ミランダの見解に、エヴァが同族から聞いた情報も書き込まれている。


「……ジャンペアは兵の質に問題はなくとも、平地での戦闘に不安あり、か。元から山や森では強いから、そこをなんとか活かせれば……」


 考え込むと、お腹が鳴る音が聞こえてきた。メイだった。


「お腹空いた」


 俺は笑うと、ポーターに戻ってモニカに食事を用意させる事にしたのだった。






 次の日の朝。


 シャノンがモニカを前にして、手紙を持ちながら難しい表情をしていた。


「え~と、こっちのは、ジャンペアは晴れが続いていた、みたいな事が書かれていて、こっちは果物が美味しかった、みたいな事が……」


 手紙を読みながら曖昧な事をいうシャノンに、モニカがハンマーを振り下ろした。ハンマーだが、素材は鉄ではなく軽いものだ。紙でもないが、当たると「ピコッ!」という音がして面白い。


「これ、欲しいな」


 俺がそう言うと、ブラウベイ君も目を輝かせて柄が黄色でハンマー部分が赤で当たると凹むのにすぐに元通りになるモニカのハンマーを見ていた。


 モニカはシャノンに対して。


「はい、間違いです。適当なことを言わないように。答え合わせは失敗なので、今月のお小遣いは半額決定です。さぁ、このまま失敗が続けばどんどん酷くなりますよ」


「なっ! 頑張ったのよ! というか、もっと大きく綺麗に書くように言ってよ! 字がクネクネして読みにくいのよ!」


 泣き出しそうなシャノンに、クラーラが助け船を出した。


「まぁ、絵本などでは分かりやすく書いていますからね。普通の手紙となるとまだ難易度が高いかも知れません」


 助け船を出されたシャノンは、クラーラに笑顔を向けていた。だが、アリアは言う。


「でも、これが読めないと厳しいわね。頑張れ、シャノン」


 実際、正確に読み取って貰わないと困るのだ。シャノンの教育は今後の作戦に必要になってくる。


 ポーターの荷台。


 隅の方に座っているリアーヌを見て、俺はなんと声をかけようか迷った。シャノンの周りに皆が集まっている中で、リアーヌだけはみんなから離れた位置に座っている。


 すると、パルセレーナさんが俺に言う。


「今はそっとしておいてください。食事もしていますし、見守るだけで十分です。あの子は強い子ですよ。きっと一人で立ち直ります」


 ブラウベイ君の傍にいるパルセレーナさんを見て、俺は少しだけ母というものを感じるのだった。


「分かりました。そうしますよ。……もうじき、レズノー辺境伯の領地に戻ります。しばらくは一緒にいて貰いますが、その後は解放しますので我慢してください」


 パルセレーナさんは少し困った顔をしていた。


「……交渉の材料にしようとしているのに、随分と優しいのですね」


 俺は真面目な顔で。


「交渉の材料になるからこそ、大事に扱っているとも言えます。まぁ、この辺は個人的な考えもありますし、人それぞれですよ」


 ファンバイユの協力を取り付け、俺たちはレズノー辺境伯の領地へ戻る途中だった。


 シャノンは涙目になりつつ、最後の手紙を確認していた。すると、急に手が止まる。そして、モニカの方を見ると。


「……お姉様には分かった、って伝えておいて」


 すると、モニカはそれをヴァルキリーズに伝えたようだ。返ってきたヴァルキリーズの答えは、どうやら問題なかったらしい。


「ミランダも問題ないと言っていたそうです。さて、これで今日の評価は……デザートは二日間禁止。今月のお小遣いは半分、という事になりますね。良かったですね、全て失敗していればデザートも一週間。お小遣いはなしでしたよ」


 モニカの清々しい笑顔に、シャノンは悔しそうにしていた。だが、手紙は大事そうに抱きしめている。


「見てなさい。いつか見返してやるんだから!」


 シャノンの台詞を、モニカは鼻で笑っていた。


「精々足掻くことです。もっとも、残り数ヶ月でどこまでできるか見ものですね」


 メイはモニカとシャノンを横になりながら見ており。


「モニカは素直じゃないよね。というか、ミランダはきっとシャノンに――」


 そこまでメイが言うと、クラーラがメイの発言を止めた。


「言わないで上げてください。まぁ、姉妹の情というものですね」


 ――きっと、ミランダはシャノンに分かりやすい問題を出したのだろう。


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