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セブンス  作者: 三嶋 与夢
元麒麟児の九代目
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聖騎士ライエル

 城壁の上から、ザインの首都に向いた敵を見た。


 正門前に配置されたザインの軍勢は二万という数だ。


 傭兵は参加していない。そればかりか、攻城兵器も数が少なかった。何よりも、敵の士気がとても低い。


「故郷に弓を向けるのは気が引ける、か」


 四日目にしてザインの首都に集まった軍勢を前に、俺は戸惑っている兵士たちを見てそう呟いた。


 こちらも同じだ。奪還は成功したが、味方は数日前まで仲間に弓を向けるのをためらっていた。


 俺は宝玉を触りながら、この結果を予想出来なかったと反省する。


(戦闘を避けて良かった。まともにぶつかれば、ザインの国内で首都と地方の亀裂が深まったな。それに、首都に入っても心情的に納得出来ない兵も多かっただろうし)


 神殿内を掌握し、兵士たちをこちら側につけた。


 聖女が既にいない、という事になっているので比較的楽にこちら側についてくれた。やはり、この国には聖女とは大きな意味があるようだ。


 朝日が昇り、相手が動けずにいるのを見ながら俺は考えた。


「傭兵団に見限られたか。しかも攻城兵器は組み立ててもいないとなると――」


 宝玉内から声がした。


 四代目だ。


『故郷は攻撃したくない、って感じだね。人の国は攻め込んでおいて、笑わせてくれるよ。ついでに資金はこちら側。金の払えない雇い主には傭兵は冷たいからね』


 七代目は。


『大勢は決しましたからな。既に首都は落ちました。敵はこちらの数を正確に把握しておりませんし、それに聖女は彼らを正式に反乱軍と言い切りましたからな』


 アウラさんが正式に聖女を名乗り、俺たち聖騎士団を正規軍と発表した。そして、神聖騎士団に従う者たちは反乱軍と宣言したのだ。


 これが意外に効いており、敵は動揺していたのだ。


(飾りだろうと聖女は聖女、か)


 五代目は。


『まさか六百程度で落とせるとは思わないよな。三千くらいいると思っているんじゃないか? 国内でも反対派がいたわけだし』


 疑心暗鬼。国内に裏切り者がいたと思っているのかも知れない。


(間違いでもないか)


 動けずにいる敵を見ていると、隣に立っていたクラーラが俺に。


「ライエルさん、このままにらみ合いを続けますか? 相手はこのまま崩れていきそうですけど」


 俺は首を横に振った。


「その前に考えがある」


 俺は振り返ると、そこには兵士の家族がいた。クラーラは、俺を見るとジト目で。


「ライエルさん、本当にやるんですか?」


 俺は頷きながら。


「やるさ。その方がいいだろ? 出来るだけ被害は少ない方がいいからな」


 汚い手段を思いついたのは三代目だ。だが、これで隙ができれば良かった。こちらは装備を調えた兵士が五百――。


 突撃の準備をしている。


「さぁ、始めようか」






 ――日が昇り、ザインの城門がハッキリと見えた。


 普段よりも強固に見えるその城門を見ているのは、アルマンだ。鎧を着てテントを出ると、周囲の落ち込んだような姿を見て腹立たしくなった。


「偽物の聖女ごときの戯れ言に惑わされよって!」


 兵士たちの士気の低さは、目に見えて分かるほどだった。命令しても攻城兵器を組み立てようともしない。


 やっても動きに精細さがない。騎士たちも、賊軍扱いを受けて詰め寄る兵士たちの対応に追われていた。


 地方から集まった兵士の多くは、前聖女のセルマに賊軍扱いを受けて今にも逃げ出しそうだ。セルマが首都ではなく地方にも目を向けていた政策をとっていたからだ。


 そして、レミスが討たれたという結果。


 これが痛かった。


 自分たちを認める聖女がいないのだ。アルマンが忌々しそうにしていると、首都の兵士たちの声がした。


「俺、弓なんか向けられないよ。家族がいるんだぞ」

「俺も病弱なお袋が……燃え上がったら逃げられないな」

「なんだよ。楽勝とか言っておいて、騎士たちは何の役にも立たないじゃないか」


 アルマンは焦り始める。地方の兵士だけではなく、首都の兵士たちも士気の下がりが酷かったからだ。


(焦るな。こちらには二万。後方部隊を除いて一万五千はいる。向こうは精々三千から四千……でなければ、我々を避けて首都になど行かないはず。攻城兵器もある。無理矢理働かせて攻め込めば)


 そこまで考えると、城壁の上から声がした。兵士のものではない。


 アルマンが慌てて城壁の上を見ると、そこには住人たちがいた。


「マルコ、帰っておいで! 今ならまだ間に合うよ!」

「アンタ、私たちを攻撃する気かい! 早く戻ってきて謝りな!」

「父ちゃん! 帰って来てくれよ」


 城壁の上には、首都の兵士たちの家族がいた。そして、全身鎧姿の男が出てくると、堂々と宣言する。


「私は聖騎士団副団長のクレートである! 諸君、賊軍に参加した兵士諸君! 君たちが戦うなら止めはしない。だが、君たちの守るべき人がいるこの都市を攻撃するのか! 今なら賊軍に参加した罪は問わない! すぐに武器を捨てて投降せよ! これは地方から参加した兵士たちも同じである! 解散せず戦うというのなら、我々が相手になろう!」


 アルマンが呟いた。


「こ、こいつら、恥ずかしくないのか! 武器を持たない人間を戦場に出すなど! おい、すぐに攻撃の用意を――」


 アルマンが叫ぶが、一人の兵士が武器を捨てている姿があった。


「やってられるか! 俺は逃げるぜ! 家族に武器なんか向けられるかよ! お前らが勝手に戦えば良いだろうが!」


 金色の短髪の男が、目立つように武器を捨てて歩いて行く。それを見て、アルマンが思った――。


(こいつ、もしやセルマたちの仕込み――)


 すると、また一人。そして続々と武器を捨てて同じように本陣から兵士たちが離れていった。


「ま、待て! 逃げるな! 敵前逃亡は死罪だぞ! お前ら逃げるなぁぁぁ!」


 大勢が逃げ始め、そして止めることの出来ない騎士たちがアルマンの下に集まってきた。


「団長! 無理です! もう止めるのは不可能です!」


 逃げ始めた兵士たちを見ながら、アルマンは握り拳から血が流れていた。


「こんな……戦う事もなく……負けるというのか。この二十年……どんな気持ちで耐えてきたと思って……」


 アルマンが神聖騎士団に入団してからしばらくして、聖女がセルマになった。すると、今までと違って他国に攻め込むという事を極端にしなくなった。


 内政に励んでも、自分たちに戦場を用意しなかった。


「卑怯者の臆病者共が! お前らの持つ武器は飾りかぁぁぁ!!」


 城門に向かって叫ぶと、ゆっくりと城門が開き始めた。そこには、馬に乗った騎士たちが突撃の用意をしていた――。






 城門が開いていく。


 馬上の俺は首から宝玉を外し、右手に握っていた。


 目の前には混乱する兵士たち。そして、騎士団がこちらに気が付いて慌てて武器を手に取り、馬に乗っていた。


 兜の中で深呼吸をすると、両脇から声がした。左にはアリアが、赤い鎧を着て俺に声をかけた。


 槍を持って馬に乗り、その姿は騎士そのものだ。


「何、今更緊張しているの?」


 右からはミランダが、緑色の鎧姿で俺に声をかけた。目立つ色を選んだのは、俺たちに意識を集めるためだ。


「変なところで緊張するのね。神殿に乗り込んだ時の方がまだ危険だったわよ」


 他はクレートさんや、元は騎士という冒険者たち――。


 その後ろには完全武装の兵士たちがいた。数日である程度は仕込んだが、出来るのは突撃と後退くらいだ。


 複雑な陣形は組めず、そしてこの戦場では意味がなかった。


 右腕を肩の位置まで水平に上げ、そして真正面に持ってきた。宝玉を握ると、青い光が発生し、銀色のハルバードが出現した。


 六代目が持っていたものに似ており、そして魔力の消費が少ないという利点があった。脇に抱えるように持つと、全員に号令を出す。


「神聖騎士団を狙え! 兵士には目をくれるな! 敵騎士団長の首一つ。それで俺たちの勝ちだ! ――突撃ぃぃぃ!!」


 馬を走らせると、周囲の騎馬たちがそれに続く。敵兵士たちのほとんどが散っており、抵抗のないままに陣形の整わない騎士団に突撃をかけることが出来た。


 馬に乗り先頭を走る俺に槍を構えた相手を、俺はハルバードで槍ごと横一線に斬り裂いた。


 アリアも、馬上から槍を振り回して集まった騎士たちを突き刺していく。


 ミランダは、槍を突き出した騎士の攻撃を右手の短剣で受け止めてそのまま左手から糸を出し、相手を馬から落とした。


 動けなくなった敵に、兵士たちが止めを刺していく。


 クレートさんも馬上で敵と戦っており、押していた。地力が違うのか、やはり冒険者として戦った経験が生きているようだ。


 ただし、やはり連携には難がある。


(こだわり過ぎているな)


 クレートさんに視線を向けていると、俺の死角から一騎が槍を構えて突撃してきた。片腕で持ったハルバードで受け止めると、左手でサーベルを引き抜いて相手の鎧の隙間に差し込む。


 隙間から血が噴き出し、サーベルを引き抜かずそのまま手放した。馬から騎士が落ちると、五代目の声がした。


『上出来だ。初めてにしては、だけどな。ほら、お目当ての総大将――騎士団長様だ』


 言われて激しく戦う周囲から視線を外し、武器を持った神聖騎士団団長――アルマン・ベナールに向き直った。


 聖騎士団の一人が斬り伏せられ、地面に倒れて動かなくなった。武器を見ると、俺は目を見開いた。


 奇しくも、持っている武器は互いにハルバードだった。


 相手がマスクを上げると、俺に叫んできた。それは恨みか、それとも怒りか。血走った目で俺を見て。


「貴様が賊軍の大将か! この私に斬り殺されろ! すぐにあの女も送ってやる!」


 俺は兜を脱がなかった。マスク部分の開閉という機能がついていないからだ。兜を脱いでまで、相手と会話をする気もない。


 すると、三代目が。


『ライエル、名乗りを上げようか。もうこれでおしまいだ』


 俺はハルバードを構えると。


「聖騎士団団長……ライエル・ウォルトだ。神聖騎士団団長だな? 相手になって貰おうか」


「こ、子供……どこまでも馬鹿にしおって!」


 俺の声を聞き、まだ若いと思ったのかアルマンは更に顔を赤くした。マスクを降ろし、兜から見える瞳は俺を射殺すかのように睨み付けてきていた。


 戦場で大将同士の一騎討ち。そんな状況が整うとは思ってもいなかった。何しろ、敵は弓兵もいなければ、周囲を守る兵士たちもいない。


 次々に神聖騎士団の騎士たちが討ち取られていく中、アルマンが足で馬の腹を蹴ると俺も馬を走らせた。


 互いにハルバードをぶつけ合うと、火花が散った。


 七代目が。


『流石に騎士団長だけあって、武器もそれなりの業物ですな。ライエル、存分に打ち合いなさい』


 俺よりも体の大きなアルマンは、ハルバードを力強く振り下ろしてきた。受け止めると、馬が耐えかねて少し屈んでしまった。


 そして、振り上げると縦横無尽に振り回してくる。それを受け止め、流し、俺は火花が散る中で相手を見ていた。


「どうした小僧! この程度で終わりか! この程度で! 二十年だ! 二十年間もただ耐えるしかなかった気持ちが、貴様などに!!」


 相手の攻撃を受け止め、弾き、そして俺は徐々にアルマンの攻撃を受け流し、馬上の体勢を崩させていく。


 相手が距離を取ろうとすると前に出て、その隙を与えない。


 周囲は、俺たちの戦いを見ているためか、静かになっていた。


 相手がどれだけ技を磨いてきたのか、それは理解出来た。だが、振るう理由が酷かった。


「そうまでして奪いたかったか? そんなに戦争に憧れていたのか? なんのために!」


 俺の言葉に、アルマンは。


「それが騎士だ! 貴族だって同じではないか! 戦い、奪い、そして栄誉を得る! 何が違う! 貴様のような戦争も知らないような小僧は黙っていろ! 何も知らない小僧が粋がるな!」


 アルマンはそう思っての発言ではないだろうが、俺は六代目が馬鹿にされたような気がした。奥歯を噛みしめる。


 すると、ハルバードから声がした。いや、斧の部分に青く輝く宝玉から、声がしたのだ。


『違わないね。確かに僕たちは最低の屑野郎だ』


『そうですね。一歩間違えば賊と変わらない。ただの屑ですね』


『でもな、そんな屑にも筋があるんだよ。お前らみたいに暴れるだけの連中と一緒にするな!』


『ふん、騎士でもなければ賊でもない。貴様らは自分が正しいと思っている屑なのだよ。同じにして貰っては困る』


 五代目が、いつもより口調が険しく感じた。


(六代目を想って、怒っているのか……)


 俺は振り下ろされた一撃を、横に強く払った。相手が体勢を崩し、息を切らせているのを見ながら。


「確かに貴族も屑だろうさ! 酷い奴らも大勢いるさ!」


 俺が攻勢に出ると、今度はアルマンが守勢に回った。大きく火花が散り、アルマンは目を見開いていた。


「それでも!」


 ハルバードを振り上げて振り下ろすと、受け止めたアルマンは馬ごと後ろに吹き飛んだ。


「お前のように奪うだけの存在じゃないんだよ! 立派な人だっているんだよ!」


 ハルバードを斜めに振り上げると、アルマンのハルバードが上に弾かれて胴ががら空きになった。


 六代目の姿が見えた気がした。領地を広げるために戦った六代目だが、そこに至るまでには色々な出来事があった。


 アルマンと同じように他領に攻め込んだ。だが、それには理由があった。


(一緒じゃない! 六代目は……お前と一緒じゃない!)


 五代目が耐えて、六代目が攻勢に出た。守るためだ。いつまでも攻め込まれていては、自分の領地を守れないと判断したから――。


「一緒にするな!」


 持ち方を変更するとそのまま横に振り抜いた。


 アルマンの鎧は横に斬り裂かれ、そして血が大量に噴き出した。馬上でハルバードを握ったまま、アルマンは馬の首に倒れ込んだ。


 俺に顔を向けて睨み付けていた。


「こ、小僧……地獄に落ちろ」


 言われて俺が黙っていると、宝玉から声がした。三代目だ。


『ライエル、【マインド】を使ってごらん。見せてあげるんだ。地獄に落ちるのが僕たちだけでない事を』


 俺はアルマンに左手を向けた。


「安心しろ。その覚悟は出来ている。だが、お前は自分が許されると思っているのか?」


 スキル――マインド――それは精神に干渉するスキル。


 揺さぶり、そして相手の心を乱すスキル。だが、使用する時と場所。そして相手を誘導することで――。


「聞こえないか? お前らの名誉のために殺された罪のない人々の声が? 見えないか? お前に絡みついて地獄に引きずり込む腕が?」


 すると、アルマンの顔色が青ざめていく。


 何か思い出したのか、名前を叫んでいた。


「ザウロ! ち、違う! あれは事故だ! 事故だったんだ! う、うわぁぁぁ!! 触るな、俺に触るな!」


 胴から血を噴き出しながら、アルマンはハルバードを投げ捨てて何かを振り払おうとしていた。


 その光景を、周囲の敵味方が見ている。


「仕方なかったんだ! あれは仕方なかった! 命令だったんだ! 俺は悪くない! 止めろ! 俺を引きずり込むなぁぁぁ!! 嫌だ! 地獄は嫌だぁぁぁ!!」


 叫び、恐怖に染まった顔のまま、アルマンは地面に落ちて息を引き取った。すると、神聖騎士団の生き残りたちが、武器を放り投げた。


「ち、違う! 俺は違う!」

「許してくれ! 俺は命令に従っただけなんだ!」

「い、嫌だ! 地獄になんか行きたくない! 嫌だぁぁぁ!!」


 恐慌状態の敵騎士たちが投降を始め、俺たちの戦争は終わろうとしていた。ここから先は、また違う戦争が待っている。


 聖女になったアウラさん。


 補佐をするセルマさんにガストーネさん。


 そして、ロルフィスの戦争だ。それぞれの戦い、そして後始末――。


 俺はハルバードを掲げ、勝鬨を上げた。


「俺たちの勝利だ!」


 周囲の兵士たちが雄叫びを上げる中、敵の騎士たちは地面に座り込んでいた。泣き、そして頭を抱えていた。


 周囲の騎士や兵士たちが、俺を見ている。その瞳には、尊敬、畏怖――色んな感情が込められていた。


 すると、馬に乗ったアリアが近付いて――。


「あんた、もしかして本当に聖騎士か何かなの? い、いや、前からちょっとおかしいところはあったけど、まさか本物とか?」


 ――兜を脱いで、真顔でそんなことを聞いてきた。


(……何を言っているんだ、こいつ?)


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[良い点] たった100の奇襲で国落としこれって歴史残るレベルの凄さ
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