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セブンス  作者: 三嶋 与夢
元麒麟児の九代目
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裏側

 ――ノイニール砦の中。


 石で出来た壁に囲まれた部屋には、家具が揃っていた。小さな窓からは光が差し込んでいる。

そんな部屋の中で、シャノンはかぶっていた白い装束を脱ぎ捨ててベッドに叩き付けていた。


「あの鬼畜野郎! 私を囮にしやがって! 絶対に殴ってやる!」


 それはモニカが作った聖女のための衣装であり、部屋の中には他にクラーラが読書をしていた。


「確かに囮にしましたが、私たちの中では一番それらしい替え玉がシャノンさんだけですからね。それに、今回は色々と役に立ったじゃないですか。空からメイさんが見張り、そしてシャノンさんの目で調べる……ライエルさん、それを普段から一人でやるとか凄いですよね」


 今回、別働隊として聖騎士団の本隊を指揮したのは、シャノンやクラーラだけではない。アリアにエヴァ、そしてメイにモニカとほとんどを砦側に差し向けたのだった。


 戦力があまりないのは知っており、そしてそこを目指すルートはメイが確認した。相手の注意を引き付けたのもメイだ。


 ポーターに取り付けられた『パイルバンカー』は、モニカが作った使い捨ての攻城戦用の兵器である。


 門をぶち破ったが、一度の使用で壊れてしまっていた。二つ用意しており、残りは一つしかない。モニカ曰く「欠陥品……ですが、そこには浪漫があります」だそうだ。


 今、モニカはポーターの整備や食事の用意をしており、聖騎士団も次の準備に取りかかっていた。


 アリアとエヴァは見張りを行ない、メイはロルフィスへと向かっている。計画通りなら、ライエルたちを回収してくるだろう。


 そんな中で、シャノンは暴れ回っていた。クラーラはシャノンの護衛と見張りである。


「外に出ると偽物だとすぐにバレるから、部屋の中で閉じこもっていろ? あの野郎、絶対に殴ってやる!」


 クラーラは、呆れつつも。


「まぁ、酷いですけどね。でも、おかげでなんとかなりそうですよ。砦にいた四十名近い兵士たちは協力を申し出てきましたし。驚いたのは騎士たちですよね。わざと逃げられるようにしたのに、結局一人だけしか逃げませんでしたし」


 シャノンも元は法衣貴族の娘だ。その辺の事情に詳しい。


「辺境に飛ばされたから、出世出来ない騎士なんじゃない? ここで私たちにかけて、出世したいとか思っているのよ。後は裏切りとか?」


 兵士たちを吸収し、今では百五十人規模になっていた。


 だが、これではまだ足りない。


 クラーラは、眼鏡を指先で押し上げて位置を正した。


「ここからが本番ですね。さて、ライエルさんたちが無事に戻ってこられるといいんですけど」


 シャノンは。


「お姉様がいるから大丈夫よ。というか、そろそろ戻ってくるんじゃない。ほら、もう戻ってきた。麒麟は便利よね。空が飛べるし」


 シャノンが外を見ると、クラーラも部屋の窓から外を見た。小さな点がどんどん大きくなり、その姿が麒麟だと気付くのに少し時間を要したのだった――。






 ――ノイニール砦に到着したのは、アウラとセルマだった。


 アウラは、麒麟の背中――メイから降りると、地面に足がつく喜びを感じるのだった。


 ローブをドレスの上から着て、寒そうにしている。


「……もう、二度と空なんか飛ばないわ」


 アウラが青い表情でそう言うと、セルマも同じなのか額を手で押さえていた。顔色が悪く、二人して大変な思いをしたようだ。


 メイは人の姿に戻ると、二人に対して。


「……二人が騒ぐから遅れたんだからね。騒ぎすぎ」


 流石にメイも疲れたのか、砦の中に置いてあった木箱の上に座り込んだ。鎧を着たアリアが駆けつけると、三人に声をかける。


「ライエルたちは?」


 メイは首を横に振って。


「まだ。先に二人を送って兵士の説得をさせる、って。それと、次はガストーネさんとノウェムが来るよ。ノウェムがいないと、色々と不安みたい」


 アリアはそれを聞いて。


「ライエルがすぐに来ると思ったのに」


 少し不安そうにしているアリアを見て、メイは伝言を思い出した。


 ライエルに言われていたのだ。


「そう言えば、ライエルがしばらくはアリアが指示を出すように言っていたよ。良い経験だから、ってさ」


 アリアはそれを聞いて、最初は少し嬉しそうにしたがすぐに表情が引き締まる。


「……分かっているわよ。しっかりやれ、って事でしょ」


 メイはそれを聞いて。


「そうだと思うならそうなんじゃない? あ、食事をよろしく。それと、しばらく休むよ。また向こうに行かないといけないから」


 木箱の上で横になるメイを見て、アリアは呆れつつもアウラとセルマに声をかけた。


「お疲れ様でした。すぐに部屋に案内しますね」


 それを聞いたアウラは、砦内を見渡して。


「……本当に落としたのね」


 未だに信じられないように呟く。セルマも同じようだが、こちらは少し顔色が良くなっていた。


「ここまで来たら信じるしかありません。アウラ、今は自分の出来ることをしましょう。少し休み、兵士たちに演説をします」


 アリアは、セルマに砦の状況を説明する。


「あの、今は兵士たちが協力的で。説得する必要もなくこちら側についてくれました」


 すると、セルマは頷くが。


「それでも必要です。それと、アウラには護衛をつけてください。よからぬ事を考える者たちもいるでしょうし」


 アリアは頷くと、メイを残して二人を砦の中に案内するのだった――。






 ロルフィスに滞在している宿で、俺はノウェムとミランダと壁際に立っていた。


 部屋は広くもないが狭くもない。


 毎日のように移動して滞在しており、時には二つの宿を借りて無駄に出費をしていた。


 目の前では、ガストーネさんとロンボルトさんが話をしている。


 俺では理解出来ない、ザインとロルフィスの今後の話だ。


「あそこを返せと? ですが、こちらとて――」


「それは理解しています。ただ、どうしても国力を回復しなければ今後が――」


 二人で今後の対応を話し合っているのは、ザインを奪還した後に必要になるからだ。


 俺は二人の密談を見ながら、宝玉を握った。


 声を出すのは六代目だ。


『なんだ、落ち着かないのか? ライエルに出来る事はない。ここで口を出すにしても、お前は事情を知らんから、あの二人には迷惑になる』


 三代目も声をかけてくる。


『長年の事情、そこに住んでないと理解出来ない事情もあるし、ここは二人が納得する形に持っていくしかないよ』


 三代目は、国のことは二人に任せるつもりのようだ。


 そうして二人は、ザイン奪還後の事まで話し合った。


 ロンボルトさんは、額や頭部をハンカチで拭いていた。二人とも、相当熱が入っていたのは見て理解出来た。


 ガストーネさんも、頭部をハンカチで拭いて握手をしていた。


 ロンボルトさんは笑顔で。


「では、ザイン奪還後はそのような流れで」


 ガストーネさんは。


「お互い、良い結果に持って行きましょう」


 二人は笑顔でお互いの無事を祈るが、部屋を出て行くときのロンボルトさんの表情は真剣なものだった。


(ザインが奪還出来なくても、損害を最小限にするように動くのか)


 話し合いの中で決まったのは、ザイン奪還後の協力に関するものだった。俺も深く関わっているが、今回はガストーネさんに任せている。


 外を見ると、暗くなり始めていた。


 ガストーネさんが、俺たちに振り返って事情を説明してきた。


「……ロルフィスは奪還にも協力は出来ないそうです。それと、奪還後には、兵を貸せと言ってきました。これを飲み、なんとかザインの国力は保ちます」


 俺は頷きながら。


「分かりました。奪還後は俺が直接動きます。ロルフィスの思う通りに動きますよ」


「ありがとうございます。それと……申し訳ありません。今のザインには、ライエル殿に報いる術がない。これだけして頂いて、それに見合う報酬が出せないのが現状です」


 俺は笑顔で。


「いえ、俺にも大きなメリットがありますので。例の件はよろしくお願いしますね」


 例の件というと、ガストーネさんは頷いた。


「もちろんです。我々にも大きなメリットですので。だが、可能ですかな?」


 俺はガストーネさんに「できますよ」と言った。すると、窓をコンコンと叩く音が聞こえてくる。


 メイだ。


 ミランダに視線を送った。ミランダが窓を開けてメイを部屋に入れた。


 メイは少し疲れた表情をしている。


「はぁ、本当に忙しいよ。ライエル、砦の方は順調だよ。二人が兵士の説得をすると、周囲の村とかに人手を出して志願者を集めているみたい。騎士も何人か参加しているんだけど、辺境の神官たちも参加する、って。それと、なんか周りに動きがなかったよ。敵が攻めてこないんだ」


 少し驚いてガストーネさんを見ると、頷いていた。どうやら、こちらに味方をする理由があるらしい。


 聞けば。


「辺境に送られた者の中には、こちら側の派閥の者も多いですからな。だが、よからぬ事を考えている者もいるはずです。敵が動かないのは……申し訳ない、軍事関係はそれなりに知っているのですが、理由が分かりません」


 俺はアゴに手を当てて思案した。


(砦の周囲にも兵がいる場所はあるよな? 何かあったのか? というか、味方が多いのか……俺が直接行って敵味方を判別するか?)


 自分が動きたい衝動に動かされると、宝玉から五代目の声がした。


『……ライエル、ここは送った連中に任せろ。ここまで準備してやったんだ。これで失敗するようならそこまでの連中という事だ。それに、少しは信じてやれ。お前の周りは凄い奴ばかりなんだぜ』


 五代目の意見を聞いて『らしくない』と思って笑いそうになった。我慢して、ガストーネさんとノウェムに視線を送った。


「予定通り、ガストーネさんとノウェムを先に戻します。ミランダは俺と残って貰う」


 ノウェムは少しだけためらっていた。


「ライエル様、危険ではないですか? ここはライエル様が先に戻る方が――」


 俺はノウェムに笑顔で。


「大丈夫だ。向こうも上手くやるさ。それに、ここに残ってもミランダがいるから」


 すると、ミランダが肩を上下させて少し嬉しそうに。


「そう言われると断れないわね。大丈夫、ライエルを守ってあげるわよ」


 俺は頷きながら。


(本当に頼りになるな。俺が守る必要はないし)


 ミランダの実力はパーティー内でも上位だ。アリアとは違った強さを持ち、普段から落ち着いているので頼りになる。


 俺はノウェムに。


「行け。敵が動いたらお前の力がいる」


 すると、ノウェムは頷いた。メイは部屋の中で麒麟の姿に変わり、そして外に出ると窓の外で二人を背に乗せて暗くなったロルフィスの空に消えていった。






 ――夜。


 俺は、宝玉内で久しぶりに六代目の手解きを受けていた。


 ハルバードを持ち、向かい合って実践的な指導を受けている。


 背が高く筋骨隆々の六代目の重い一撃を、ハルバードで受け流すと棒の部分で六代目の足を払う動きを見せた。


 六代目と体格が違い、同じように振り回していても勝てないのは分かりきっていた。


 後ろに六代目が飛び退くと、俺は追撃するために踏み込む。


 すると、六代目はニヤリと笑っていた。


 左手を広げて俺に突きだしていた。


『ほれ、避けて見せろ! ファイヤーカノン!』


 大きな火球が俺に飛んでくると、俺は左手を横に払った。


「アイスウォール!」


 火球とぶつかり、出現した氷の壁が吹き飛んで溶けていく。俺はそのまま横に移動して六代目に斬りかかった。


 六代目は楽しそうだ。


『いいぞ! いつでも落ち着け! 慌てれば勝率は落ちる!』


 ハルバードを器用に振り回し、六代目は俺の一撃を受け流して蹴りを入れてきた。次に地面を蹴って土を俺の顔にかけてくる。


「何度も同じ手は!」


 二代目のスキル――フィールドで、目を閉じても周囲の反応は理解出来ていた。六代目が突きを放ってくるので、俺はそのまま踏み込んでハルバードを突きだした。


 六代目の顔が数十センチ先にあり、俺は口から血を吐いた。


 腹部にハルバードが突き刺さっていたのだ。


 対して、六代目は脇を少しだけかすっている程度。


 ニヤリと笑った六代目が、ハルバードを引き抜いた。地面にうつぶせに倒れる俺は、転がって仰向けになった。


 呼吸の乱れが収まり、腹部の痛みが消えていくと立ち上がろうとする。


 すると、六代目が手を差し伸べてきた。


 手を取って立ち上がると、六代目の持っていたハルバードが消えていた。そして、俺に拍手をしてくる。


『よくやった。合格だ』


「あれで合格ですか?」


 俺が不満そうにすると、六代目は苦笑いをして頭をかく。


『馬鹿。俺がどれだけ自分の得物を振り回してきたと思っているんだ? 本気で勝つなら数年はかかる。だが、あれだけできれば安心だな』


 そう言って笑顔になる六代目は、俺の顔を見て。


『さて……ライエル、一つ面白いものを見せてやる』


「面白いものですか?」


『まぁ、俺はスカッとしたからな。お前、俺がどうして五代目に下手に出るのか分かっているか?』


 そう言われ、俺は首をかしげた。言われてみれば、記憶の中の六代目は五代目に乱暴な口の利き方をしていた。


 今のような関係ではなかった。


「言われてみると不思議ですね」


『ま、その理由だな。俺が歴代の中で一番あれだ……なんというか……うん、失敗ばかりだった』


 笑う六代目は、俺に記憶を見せた。


 そこは屋敷の中。周囲の景色が、庭から室内に変わると、そこに一人の女性が座り込んで涙していた。


 服はボロボロだ。


『妹だ』


 六代目がそう言うと、俺は改めて女性を見た。


 服は村娘が来ているような服装で、手はボロボロ。そして、髪も酷い状態だった。服から見える手足には、痣も見えた。


 灰色で止まっていた光景が、次第に色を取り戻して動き始めた。


 六代目が、俺に説明してくれた。


『腹違いの妹でな。元は敵対していた領主――寄子の家に送られた。一番不憫だったな』


 悲しそうにする六代目の言葉の後に、六代目の母とは違う女性が女性の前で涙していた。


 時間が動き出すと、女性の母親が娘に抱きついて抱きしめた。


 女性は。


『私は奴隷じゃない! もう嫌よ、あんな家! 絶対に帰りたくない!』


 必死になく女性を、ファインズはオロオロと見ていた。


 六代目が説明する。


『どうしても押さえておきたい場所の領主だった。だが、事あるごとに敵対し、そして他の領主……男爵家とか子爵家だな。寄親をコロコロと変える家だった。そんなところに、嫁に出された妹だ。血筋は良いから子供が生まれると、奴隷のようにこき使われたらしい』


 六代目が握り拳を作っていた。


(でもそんな事をすれば……)


 そう思っていると、部屋にフレドリクス――壮年の五代目が入ってきたのだった。


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