第68話 三日後がデットライン
「ーーっ! ーーっ!」
俺はフェイスガードに、手袋にサロペットーー世界的な人気を博す某髭キャラの着ているものとほぼ一緒のものーーで体を完全防護し、エンジン式の長柄の回転の鋸を自在に扱う種田さんの視界に入って、手を振った。
すると俺に気づいた種田さんはエンジンを切り、透明なフェイスガードを上げ、爽やかな笑みを向けてくれる。
「どうかしら? こんな扱い方で問題ない?」
「ええ、上手いです。綺麗に草が刈れてますし、注意点もしっかりと守ってくれてますね!」
俺の感想に種田さんは少々照れつつも「当然よ!」と胸を張ってみせた。
種田さんは本当に地頭がいい人だと思った。
だって、俺が廊下で簡単に刈り払い機の使い方とか、注意点をしっかり理解して、まるでずっと昔から使っていたかのごとく見事な草刈りを見せているのだから。
「あと2台あるから、他の子への指導もお願いできる?」
「わ、わかりました!」
やや緊張な心持ちで、草刈り班の女子生徒たちの前へ立つ。
やっぱりこうして人前に立つのは怖い。しかも相手は花音や樹以外の女子。
だけど……!
「じゃ、じゃあ、刈り払い機の説明をしますね! エンジンだったり、鋸だったりで怖いイメージがあるかと思いますけど、きちんと理解をして扱えばとっても便利な機器ですからね!」
それから俺はエンジンの掛け方、刃の左上が最も切れる箇所なのでそこを扱うこと、チェーンソー同様にキックバック現象には気をつけることなどを教えてゆく。
最初は女子たちも、俺の説明をどう受け取っていいか少々困惑していた。
だけど実際に刈り払い機を使い始めると、その便利さと楽しさに目覚めたらしく、最初の時から一転、嬉々とした様子で草刈り作業に従事し始める。
意外とこういうのって、女子の方が馴染みやすいというのは、経験則である。
「みんな! もしも困ったことがあったら、必ず香月 葵くんに声をかけるのよ! 良いわね!?」
女子たちから次々と了承の声が上がる。
「ってことで、誰かが困ってたらちゃんとフォローしてあげてよね、香月せんせ♩」
「わ、わかりました……」
さすが花音の親友の種田さんだ。なんとなく似ている……
と、その時、ずっと背後から鳴り響いていたチェーンソーの轟音がぷつりと途切れる。
どうやら燃料切れらしい。
「は、花守さーん! 燃料持ってきましたぁー! 俺が補給しまーす!」
すると袴田くんが、レギュラーガソリンの入った赤いタンクを手に花音へ駆け寄っている。
くそ、あのバカ知らないのか!?
「ちょーっと待ったぁー!」
俺は慌てて花音と袴田くんの間に割って入る。
「な、なんだよ香月! 邪魔すんな!」
「もしかしてその燃料を、そのまま入れようとなんてしてないよな!?」
「そうだが?」
「なら邪魔させてもらう! だってそれ"混合ガソリン"じゃないだろ!?」
「へ……? なにそれ……?」
まぁ、こういう機器を扱ったことがなかったり、バイクに馴染みがなかったら"混合ガソリン"なんて知らないよな、普通……。
「気遣ってくれるのはありがたい。でも、良く知らないならまずは俺に声をかけてからやってくれよ! 機器が故障したり、花音が怪我をしたらどうしてくれるつもりなんだ!」
俺は袴田くんからガソリンタンクを奪った。
そして軽トラックへ向かい、エンジンオイルと混合用のタンクを持ってくる。
「良いか、花音も良く聞いてくれ。大体のチェーンソーと刈り払い機は2サイクルエンジンを採用しているから、ただのレギュラーガソリンをいれただけだと、焼きついちゃうんだ。だから、このタンクを使って、エンジオイルとの混和を行なって専用の"混合ガソリン"を作る必要があるんだ」
一応、オンラインにて、今使っているチェーンソーのマニュアルを入手し、正しい混和比率を確認した上で、混合ガソリンを作る。
「ちなみに混合を自分でやる自信がなかったら、ホームセンターに"混合ガソリン"っていう既製品があるから、それを使っても良いんだよ」
刃の摩耗を防ぐためのチェーンオイルも少なくなっていたの同時補給。
ん? チェーンがたるみ気味だな。じゃあ、ちょっと張りを直して……
「ほい、メンテ終了! これでさっきと変わらず使えると思うよ」
「ありがと、葵くんっ! やっぱりそばに葵くんがいてくれると、安心して作業ができるよ!」
もはや袴田くんたちに口を挟む余地は無くなってしまっていた。
彼らは大人しく、花音の補助へ回るのだった。
ーーこうして俺が見守る中、花音や種田さんを中心に、クラスメイトたちは一丸となって、雑木林の開拓を進めてゆく。
そしてーー
「「「「「おわったぁーーーーーー!!!」」」」」
俺を含めたクラスメイト全員は、揃って歓喜の声を響かせる。
「凄いわ! あたしの予定だと整備に三日を予想していたけど、一日で終わっちゃったわ!」
「ありがとう、葵くんっ! やっぱり君にアドバイザーをお願いして大正解だったよ!」
「い、いやぁ……それほどでも……」
他のみんなも花音や種田さん同様に、俺へ良い雰囲気を送ってくれているような気がした。
良かった……変な目で見られなくて……
●●●
たね『今日はお疲れちゃん♩』
たね『改めて、今日はありがとね、香月 葵!』
家に帰ってしばらく経った頃、専用トークルームへ種田さんからのメッセージが舞い込んでくる。
たね『ところで』
たね『森のカフェでお客さんに提供する"おみやげ"のアイディアは固まったかしら?』
うわ……忘れてた……どうしよう……
花音『大丈夫っ!』
花音『葵くんならきっと、みんなが喜ぶものを考えているはずだよ!』
すかさず花音からフォローのレスが。
まずい。なにも考えていないだなんて言えない……
A .KOUDUKI『もう少々お待ちを……』
花音『でたぁー!』
花音『葵くんの決め台詞!』
花音『この言葉のあとね!」
花音『葵くん、いっつもなんとかしちゃうんだらぁ!』
うごっ!? 花音よ、今はそうじゃないんだけど……むむむ……信頼してくれてるのは嬉しいんだけど……
たね『了解よ!』
たね『できれば明日の放課後までがベスト!』
たね『三日後がデットラインだからね』
たね『よろしく!』
三日以内になんとかしろと……なんて無茶な……
さてどうしたものか……いまいちアイディアが浮かんでこないのが現状だった。
本来なら、花音と相談するのがベストなのだが、彼女も俺に期待している節があるし。
ならあと、こういうこと相談できる相手って、俺には1人しかいない。
というわけで、俺は"樹"への連絡を試みることに。
あいつ、やたら俺と映像通話をしたがるから、今回は最初からその設定でっと……
「やっぱ忙しいのかな……」
やはりというべきか、なかなか樹との通話は繋がらず。
そろそろ切った方が良いかなと思っていた、その時、
「ごごごごご、ごめんっ、おいくんっ! はぁ、はぁっ……出るの、遅くなっちゃって!」
「なんか、顔赤いけど風邪か?」
なんだか妙に呼吸も荒いし、目も僅かながら潤んでいるような?
パジャマもちょっと乱れ気味? なにしてたんだろ、樹のやつ……?
「だ、大丈夫っ! じ、じつはさっきまでお風呂入ってて、ちょっと油断してたっていうか……」
「ああ、それは悪いことしたな」
「んーん! 良いの! おいくんの通話嬉しいから!」
「実は今日は雑談じゃなくて、相談があって……」
と言いかけて、ふと樹が腕に嵌めているカラフルなブレスレットのようなものが目に止まった。
「おい、樹」
「なぁに?」
「その腕につけてるブレスレットって、パラコードだよな?」




