第67話 暴れなさい、香月 葵!
「……」
「たーねださぁーん!」
「ひゃっ!? な、なによ、香月 葵!?」
何か考え事もでしていたのか、草刈り作業に没頭していたのか、種田さんはむちゃくちゃ驚いた様子でこちらへ振り返る。
「付き合ってもらえません?」
「つ、付き合うっっっ!?」
「職員室まで」
「あ、そ、そう職員室ね……良いけどどうしかしたのかしら?」
「借りたものがありまして。俺だけゆくより、種田さんが一緒の方が良いかと」
「わかったわ。みんな! ちょっとあたし、香月 葵くんと、職員室へ行ってくるわ! 悪いけど少しの間よろしくね!」
種田さんは律儀にそう宣言して、俺と一緒に現場を離れる。
種田さんがみんなに信頼されているのって、こういう真面目なところがあるからなんだろうな。
「チェーンソーと、草刈機を貸してほしい? だめだ、危ないから」
職員室へ向かい、そう担任へお願いしたところ、予想通りの回答が返ってきた。
もし頼んだのが俺だけだったら、もっと強めの語気で言われていた気がする。
さすがの種田さんも、先生に一蹴されてしまったので、困った表情を浮かべている。
そんな中、俺はお財布を開いて、
「先生、実は俺、有資格者なんですが」
俺は免許証のように顔写真入りの2枚の証書を先生へ渡す。
「これは?」
「チェーンソーと草刈り機の特別教育の修了証です。中学の頃、取りまして」
この特別教育は年齢や学歴に関係なく誰でも受講できるものだ。
チェーンソーや草刈り機を"個人"で使う分には、取得する必要はない。
しかし事業で使用する場合は取得が必要であり、中学時代のアシスタント時、キャンプの師匠である高橋さんに言われて取ったものだ。
キャンプ場で場内の整備や、お客さん向けの薪を採集するのに必要なためだった。
「なので許可してもらえませんか? 安全には十分配慮をしますので」
「しかしだな、むぅ……」
「先生! 私も香月 葵くんと一緒に気をつけますので、どうかご許可願います!」
さすがの先生も、信頼が厚くて、しっかり者の種田さんには弱いらしい。
この後、種田さんと俺がしっかり監督指導することを条件にチェーンソーと草刈機の使用許可が降りた。
しかも装備一式を、先生が軽トラックで運んできてくれるといった豪華特典付き。
やはり種田さんに付き合ってもらって大正解である。
「やっぱり香月 葵って、超絶最強のスーパーお助けマンよね!」
職員室から花音たちのいる雑木林で戻る道すがら、種田さんはそう言ってきた。
ぶっちゃけセンスが小学生並みだと思ったが、種田さんなりに俺のことを褒めてくているらしい。
「そんなに凄い資格持ってるんだったら、さっさと言えば良かったんじゃないかしら?」
「それは……あはは……」
丸太を切ったり、草刈りをすると聞いた時、真っ先に自分の資格は思い浮かんだ。
でも俺はあくまでアドバイザーという立場で、種田さんと花音が森のカフェの立案者であるわけで……
「ひょっとすると、中学の時の影響?」
種田さんから確信を突く一言。
もはやここまで指摘されて、誤魔化し笑いをするのは失礼だと思い首肯を返す。
「調子に乗るのは良くないかと……」
「別に構わないじゃない。乗りなさいよ、調子に」
「え……?」
意外な言葉におどいた俺はその場に立ち止まり、種田さんへ視線を向ける。
律儀に立ち止まってくれた種田さんは、すごく真剣な眼差しで俺のことを見上げている。
「もし本当にやばいと思ったら、かのとあたしで止めると約束するわ。もちろん、その際も変なことにならなよう最大限配慮することもね! まぁでも、今の香月 葵なら大丈夫よ、きっと!」
どうやら俺のことに関して、種田さんは細かいところまで把握しているらしい。
でも、その上で、今のような頼もしい言葉を送ってくれている。
「存分に暴れなさい! そしてあたしたちを楽しませなさい、香月 葵!」
「了解です、種田さん! じゃあ早速!」
俺は草刈り班の班長である種田さんへ、この場で草刈機の使い方や注意点を説明する。
成績も、そして地頭もいい彼女は、すんなり理解をしてくれた。
「そっちは頼んだわよ!」
「了解ですっ!」
俺は新たな決意と共に、種田さんと校舎を出て、みなのいる雑木林へ向かってゆく。
するとちょうどいいタイミングで、必要なものを乗せた軽トラックが横付けされる。
「な、なんだよ、これ……?」
2個目の丸太切りでヘロヘロな袴田くんは怪訝そうな表情をし、
「これって、もしかしてっ!」
「今準備するんで、少々お待ちを!」
花音の期待の視線を受けつつ、俺はトラックの荷台から、刃を鋭く光らせる"チェーンソー"を取り出す。
そして周囲に人がいないことを確認した俺は、スターターグリップを思い切り引き上げる。
するとチェーンソーはすぐさま爆音と唸りを上げ始める。
俺はフェイスガードを装着し、ずっと花音が苦慮していた、半端に切った丸太のところへ向かって行き、
「ーーっ!」
ものの数秒で丸太がスパッと切れて、綺麗な断面が現れる。
刃の鋭さ、エンジンの調子に目立った問題は感じられない。
「わぁ! 凄いっ!」
そして相変わらず、青い瞳をキラキラと輝かせた花音の、自己肯定感爆上がりなリアクション。
「いや、凄いのは俺じゃなくて、チェーンソーだって」
「でもでも、チェーンソーを易々と扱っちゃう葵くんも凄いよ! とってもかっこいい!」
「ありがとう! じゃあ使い方とかを説明するぞ」
「ラジャー!」
チェーンソーを扱う上で、最も気をつけなければいけないのは"キックバック現象"
これは切断中に刃が木材に挟まってしまい、進行方向とは逆に吹っ飛ぶ現象のことだ。
「チェーンソーを扱うときは、刃の外側に身を置くこと。決して体の中心に刃を添えちゃダメ」
俺は花音の肩を抱き、正しい位置を教える。ちょっと肩がプルプル震えているのは、やっぱりチェーンソーを初めて持ったためだろうか?
「バトニングの時みたく肩から力を抜いて。チェーンソーは正しく扱えば、危なくないからな」
「はわわわ……!」
「ちゃんと聞いてる?」
「はっ!? ご、ごめんっ! き、聞いてますぅ!!」
「チェーンソーは両手でしっかり固定すること。良いね?」
「ラ、ラジャーっ!」
「では、早速始動を!」
俺の指示に従って、花音はスターターグリップを引き上げ、エンジンを始動させた。
チェーンソーがバイクのような唸りをあげ、ブルブルと震え出す。
それを手にしたフェースガードを装着した花音は、早速丸太の切断を開始した。
その姿勢は忖度なしで上手いと言えた。初めてチェーンソーを触った俺の時以上だ。
「わぁ! 切れたぁ! 楽ちん!」
「うまいうまい!」
「えへへ! ありがとっ!」
「でも……」
「道具や刃物を扱う時はそっちに集中でしょ? 葵せんせ♩」
「お、おう……じゃあ、"あっち"見てくるから、頼む!」
「ラジャー!」
「おーい、袴田くんたち! 花音がチェーンソーで木を切るから、君たちは彼女の補助を頼んだよ〜!」
唖然としている袴田くんたち、男子へ指示を出す。
さすがの彼らも、状況がわかっているようで、花音が切り終えた切り株を運んだり、次の切断準備をしたりと動き出す。
じゃあこっちはもう大丈夫そうだから、次は種田さんの方か!




