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第66話 マウンティング袴田くん

花音『実行アドバイザー就任おめでとう!』


花音『頑張ろうねっ!』


 1人で帰路に着く中、花音からそんなメッセージが舞い込んでくる。

ちなみに花音は部活で、種田さんは部活と生徒会のふたつに顔を出さねばならないらしい。

今でもそんなリア充である人たちと関わっているのが信じられない俺である。


A.KOUDUKI『ご期待に添えられるよう頑張ります』


花音『なんで敬語?』


花音『もっと気楽に行こうよ!』


A.KOUDUKI『わかった』


 これ以上ごねると、花音が寂しそうにするだろうと思ってそう返す俺だった。


花音『あとさ』


花音『今後のことも考えて、タネちゃんが葵くんの連絡先知りたがってるんだ』


花音『教えても大丈夫?』


 ほんと、わざわざこういうことまで断りを入れてくるとかが、花音の優しくて良いところだといつも思う。

 別に問題はないので、了承の旨を伝える。

すると程なくして、"たね"というアカウントからトークルームへの招待が届く。

どうやら種田さんのアカウント名らしい。


たね『このトークルームは幹部の連絡用に作ったものよ』


たね『よろしくね!』


 幹部とは言ってもメンバーは種田さん、花音、そして俺の3人きり。

どうやら俺はがっつり中心人物となってしまったらしい。



たね『じゃあ早速、ファイルを共有するわね』



 種田さんからPDFファイルが共有され、さっそくダウンロードをし内容を確認。


 もうすでに準備品から設置概要、はまたまた実施場所である雑木林の整備計画まできっちり記載されていた。


 これって俺の出る幕はないのでは……? ただしほぼ完璧な計画書にも、一箇所だけ"おみやげ"という項目が空欄のままだった。


花音『このおみやげってなーに?』


たね『来場したお客さんへ何か記念になるものを差し上げたいと思っていてね』


花音『ナイスアイディア!』


たね『これを香月 葵に決めて欲しいのよ』


 は? 俺が……?


たね『あまり予算はかけず、だけど森のカフェに相応しい"おみやげ"の選定をよろしく頼むわ』


 まだ了承した覚えはないが、種田さんの中ではすでに俺が"おみやげ"を用意することで決まっているらしい。


花音『葵くんの考える、おみやげ楽しみっ!」


 メッセージを読んだだけで、花音のキラキラ輝く青い瞳が容易に想像でき、自然と胸が高鳴る俺だった。


 しかたないな……花音が期待してくれてるんだったら……


A.KOUDUKI『了解です』


花音『わー!』


花音『ありがと、葵くんっ!』


花音『すっごく楽しみにしてるぅ!』


 とどめに送られてくる金毛のミニチュアダックスが万歳しているスタンプ。


 ほんと、このスタンプは花音みたいで可愛いと思う。


たね『はい』


たね『イチャ着くのは、2人だけのトークルームでよろ』


花音『イチャついてなんかない!!』


たね『どうみたってイチャつきよ』


たね『ご馳走様』


 それ以降、花音からのレスが途絶える。なんだか、顔を真っ赤に染めて、プルプル震える花音姿が頭に浮かんだ次第である。

当然、俺のそうであって、2人の勢いに押されどう返事をして良いか困っているところであった。


たね『じゃあ、今日の連絡はここまで!』


たね『計画書通り、明日から雑木林の整備と"椅子"の作成を始めるわ!』


たね『頼むわね、2人とも!』


花音『ラジャー!』


A.KOUDUKI『はい』


 ようやくやりとりが終わり、強い徒労感を感じた俺はベッドへ身を投げた。


 未だに自分が、文化祭での中心メンバーになっていることの実感が湧かずにいる。



ーーそして翌日の放課後より、早速"森のカフェ"開業を目指して、学校敷地内にある雑木林の整備が始まるのだった。



「みんな、部活とかの合間を縫って参加してくれてどうもありがとう! 安全にはくれぐれも留意しつつ作業をしてね!」


「任せてくれ、種田さん! 花守さんも!」


 種田さんの訓示へ真っ先に応答したのは、この作業に協力すると志願してくれた、サッカー部のエースで、確かに顔はイケメンな袴田くん。しかも直前の発言の時、奴は何故か俺を横目で見ながらそう言っていた。


「香月くんも期待しててくれ!」


「はい、よろしく」


「てか、キミ表に出るの苦手だろ? なのにアドバイザーなんて大役を引き受けてくれてありがとう!」


「どうも」


「でも、俺たちがいるからもう安心だ! なんてったって、俺たちがキミの代わりに表に出てあげるからな! だから安心して、自分の作業だけに没頭しててくれ!」


「そうっすか。そりゃ助かります」


 明らかに敵視されてるなぁ……たぶん、俺と花音が、名前で呼び合っていることが気に入らないのだろう。

しかもいつもこいつとつるんでる連中の中には、俺の中学の頃の同級生もいるし……ぶっちゃけやり辛い……。


「うん、よろしくね袴田くん。他のみんなも。でもあんまり張り切りすぎないでね。怪我とかされた本当に困るからね!」


 と、笑顔で言う花音に、袴田くんは気をよくしたのか、頬が緩んでいる。

付き従っている連中も、花音に心配されてとても嬉しそうだ。


 でも、俺にはなんとなくわかる。


 今の花音の笑顔は営業スマイルだということを……しかも、この笑顔は店にやってきた特に嫌な客へ向けての、とーっても固いもの。


 かくして俺たちは、既に倒されている立派な丸太を切り分けて椅子を作る班、雑木林の草刈りを行う班に別れて作業を開始する。


 ちなみに俺は草刈り班。本当は椅子を作る班に加わろうと思っていたが、袴田くんとその一派が班を占拠してしまったため、入れなかったのだ。まぁ、他にも思うところがあったので、今は草刈り班に加わってよかったと思っている。


 そしてどうして丸太切り班に、男子が殺到しているかというと、それは当然……


「花守さん! 実は俺、今年の湖上祭で丸太の早切り大会があって、優勝したんだ! だからこんな丸太なんてちょちょいのちょいさ!」


「そうなんだぁ〜凄いねぇ〜頼もしいねぇ〜。でも刃物を使う時は、そっちに集中ねぇ〜」


 花音の言葉を受けて、益々調子に乗った袴田くんは、意気揚々と鋸で丸太を切り始めた。

流石に運動部だけあって、切り方は力強い。筋も悪くはない。


「良いのあれ?」


 と、一緒に地面へ這いつくばって、鎌で草刈りをしている種田さんが、そう言ってきた。


「まぁ、袴田くんたちの切り方、悪くないんで良いんじゃないっすか?」


「そうじゃないわよ! あなたはあっちに行かなくて良いの?」


「あれだけ男子がいるんですから戦力的には問題ありませんよ。むしろ草刈り班の方に俺の力が必要かと思いまして」


 丸太班に男子が集っているのなら、草刈りは種田さんを中心とした女子ばかりで、いざという時男手が少しでも必要だろうという考えに基づいている。


「ふーん、それだけ余裕ってことか。ふふ……」


「まぁ、あれだけ男子がいれば余裕でしょうね」


「いや、その余裕じゃなく……ひゃああぁぁぁ!」


 と突然、種田さんが悲鳴を上げて尻餅を着く。


 彼女の目の前には、ウネウネうねるムカデの姿が。


 どうやら草を刈るために石を退け、そこから現れたものらしい。


「む、虫っ……虫ぃ〜……! いやぁ〜!」


「ここは俺がやりますから、種田さんは別のところをお願いします」


 俺はピッと、指先でムカデを払い除けて、そこの近くにあった草を刈り始めた。


 当然、種田さんは唖然とした様子で俺のことをみている。


「す、凄いわね……香月 葵って……」


「虫はキャンプにつきものですしね、これぐらいは。あと、石を退ける際は気をつけてくださいね。そこにまたムカデがいる可能性があるんで。日当たりの良いところから、そんなに色々と出ては来ないかと」


「わ、わかったわ……ありがと……」


 そう言って種田さんは、俺がアドバイスした通り日当たりの良いところで草刈りをし始める。


 キャンプあるあるだよなぁ……女性が虫を嫌がって、作業が止まってしまうのって。

そういう状況があるだろうと想定し、だから俺は草刈り班に残っていたのである。


 そう言う点で言うと、花音って結構逞しい。

キャンプの時虫が出ても平気だし、むしろ大きな蜘蛛の巣なんかを見つけた時は、写真を撮ったり、わざわざ俺を呼びつけて「凄い! 綺麗!」なんて言ってたりするし。


 だから花音とキャンプするのは楽しいんだろうなぁ。


「はぁ……はぁ……く、くっそぉ……! これでまだ一個めかよぉ……!」


 と、不意に耳へ流れ込んできたのは、袴田くんの苦しくて、悔しそうな声。


 彼はもう汗だくだくで地面にへばってしまっている。それでも丸太を一回は切り分けられて大したものだ。


 他の連中はほとんど刃が進んでいないし。


「けっこう、これきついぃ……!」


 花音も一生懸命、鋸を引いているもの、かなり大変そうだ。


 そうだよな、そうなるよなやっぱし。


 なら、アレを借りてくるしかないかぁ……ついでにこっちのも……


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