邪神の欠けら
旧ケディミナス教国の聖都だった場所は、膨れ上がった黒い肉塊がイソギンチャクの様に蠢き、その肉の触手に取り込まれた人々が怨嗟の叫びを上げていた。
ユキトはルドラに跨り上空から、その醜悪な物体を鑑定する。
・邪神の欠けら……瘴気、怨嗟、呪詛、人の命を糧に呼び出された邪神の一部。
碌でもない鑑定結果だった。だからユキト達の対応が変わる訳ではないのだが。
邪神の欠けらに向けて、火魔法の極大魔法が放たれ、それを合図に魔法師団の法撃が放たれる。
「バーバラ婆ちゃん凄いな」
バーバラから放たれる高火力の魔法は、肉塊を焼き、その増殖を阻害しているようだ。
場所は変わって、ケディミナスとトルースタインの国境付近、避難してくる難民の救助に部隊が展開していた。
イリスが熊型ゴーレムを従え、邪神の欠けらの影響を受け、暴れ出した魔物の討伐を行なっていた。
イリスと熊型ゴーレムが次々に魔物を討伐していく。その周りをサポートするように精鋭部隊が展開し魔物を狩って行く。
別の場所では、ティアがメイド達とサーベルタイガー型ゴーレムを従え、魔物を蹂躙している。
驚異的な殲滅速度で魔物を葬り、難民の避難を助ける。
国境付近は順調に推移していた。
イオニア王国側の国境付近でも、イオニア王国軍が、魔物の討伐と避難民の保護に乗り出していた。
これはマリアとヒルダにユキトが連絡を入れ、国に働きかけて貰ったのだ。
マリアとヒルダも前線で魔物の討伐を手伝い、避難民の救助をしていた。
ユキトに鍛えられ、パワーレベリングによりレベルも高いマリアとヒルダは、周りの騎士団とは比べ物にならない速度で魔物を狩って行く。
その様子を周りの騎士団員達は、驚愕の目で見ていた。
「我等も行きますよ」
アイザック率いる部隊が、光魔法を放つ。
ライトアローやライトジャベリンが雨の様に降り注ぐ。
光魔法が降り注ぐと、あきらかに邪神の欠けらの動きが鈍り、膨張が完全に止まり縮小し始める。
邪神の欠けらに対しては、やはり光属性が有効な事が分かった。
また、アイザック達の光魔法とバーバラ達の火魔法が合わさり、聖炎となり邪神の欠けらの肉塊を消滅させる効果が上がっていた。
ここでフィリッポス率いる部隊からも、光魔法や火魔法が放たれ始める。
三方向からの攻撃にさらされ、邪神の欠けらがのたうち回る。
触手が苦しげに振り回され、取り込まれた人々の叫び声が呪詛として放たれるが、聖域結界が浄化していく。
さらに後方上空からドノバンが、飛空船の法撃を加え始める。
消滅と浄化が肉塊が膨張を続ける事を許さず、徐々にその質量を小さくしていく。
ただ欠けらと言えども邪神の一部だけあり、聖域結界とそれだけの攻撃にさらされても、中々にしぶとく抵抗をみせていた。
バーバラやアイザック、フィリッポスもマジックポーションを飲み、魔力を補充しながら法撃を放ち続ける。
上空からルドラに乗ったサティスが、矢に火属性を付与して放ち、肉塊を削る。
ユキトは光属性の極大魔法を大威力広範囲で放つ為に、魔力を貯めながら時を待っていた。
やがて、聖都全域を覆っていた肉塊は、炎に焼かれ、光に消滅させられ、浄化にさらされ続け、どんどん小さくなっていった。
バーバラ、アイザック、フィリッポス達も魔力涸渇とマジックポーションでの補充を繰り返し、疲労が溜まり始めた頃、邪神の欠けらは直径200メートルほどの大きさまで小さく削られていた。
ここでユキトが満を持して、光の極大魔法【ホーリー】を放つ。
高威力広範囲に展開された術式が発動すると、光の柱が地面から天へ立ち昇る。
邪神の欠けらは光の柱に呑み込まれ、肉塊が強力な光に焼かれ消滅していく。
邪神の欠けらに取り込まれ、肉塊の触手に囚われ怨嗟の叫びをあげていた人々が、強力な浄化の光にさらされ、光の粒となって天へ昇って行く。
その間も休みなく行われるバーバラやアイザック、フィリッポス達の攻撃に、邪神の欠けらの肉塊は、加速度的に小さく消滅していく。
浄化の光と全てを焼き尽くす光にさらされ、断末魔の叫びをあげて、触手がのたうち回る。
やがて怨嗟の叫びが消え、呪詛や瘴気が浄化され尽くされ、邪神の欠けらは消滅し浄化された。
「魔法障壁はるよ!」
バーバラの号令で魔法師団が魔法障壁をはる。
「浄化結界を重ねます!」
アイザック率いる神官達が結界を重ねる。
「補助魔法を重ね掛けしますよ!」
フィリッポス達もデバフを重ね掛けする。
邪神の欠けらが消滅し浄化されたその場には、邪神の欠けらを召喚する為に、自ら核となった男のなれの果てがいた。
「グレーターデーモン!」
誰かが叫ぶ。
邪神の欠けらを召喚する核となった男は、高濃度の瘴気にさらされ、呪詛や怨嗟をその身に受け、ヒトならざるものへと変貌を遂げていた。




