二国間同盟
パルミナ王国のヘルムート王とブランデン帝国の皇帝マインバッハ三世が、秘密裏に会談を行った。
二国間の会談は、トルースタイン共和国の首都カンパネラで行われた。
パルミナ王国とブランデン帝国との間に、トルースタイン共和国が位置するということが、理由の一つである。潜在敵国の二国にとって、第三国での会談が望ましかった。
お互いに、最低限の護衛を連れて、秘密裏に行われた会談であった。
カンパネラに着いた、ヘルムート王は驚愕していた。
「……これが、つい最近出来たばかりの街だと?」
もともとは都市同盟だったものが、最近建国を宣言した、新しい国トルースタイン共和国。
その首都として造られたカンパネラ。僅かな期間で、ここまでの街が出来上がっているとは、想像だにしなかった。
「これは……、簡単には攻めれませんな」
護衛の親衛隊長が呟く。
ヘルムート王も、まったく同感だった。街の中には、巡回する警備兵は、一目見るだけで精鋭と分かる。街の防壁も分厚く高い。門を良く分からないゴーレムが護っている。
途中に寄った、パルミナ王国国境に近い街、ペトラにも、巨大な異形のゴーレムが二体、門を護っていた。
街も昔訪れた時と違い、防壁や堀が強化されていた。同時にどの兵士も、精鋭と言っていいレベルである。
「こんな短期間にどうして……」
トルースタイン共和国は、農産物の輸入などの繋がりはあるが、大陸統一には避けて通れない国である。以前の商業都市同盟なら、一つ一つ潰して行くのも容易いと思っていた。しかし、現在のこの都市の防衛能力はどういう事だ。
おまけに各都市が、広く整備された街道で結ばれている。都市間の移動もスムーズだろう。
「最近、トルースタインに放った、間諜が戻らず、報告も入らなかったのですが、間諜対策も万全なのでしょう」
「……あぁ、商人からの噂程度には、街の整備が進み、栄えていると知ってはいたが、予想の遥か上をいっていたな」
ここにもヘルムート王と、同じ驚きを感じている人物がいた。
「この都市を堕とすのに、何万いる?」
そう側近に聞いたのは、ブランデン帝国皇帝、マインバッハ三世その人だった。
「はっ、陛下。このカンパネラの前に、我が国の国境近くにある、ヘリオスを堕とさねばなりますまい」
皇帝の親衛隊とも言える、金竜騎士団団長が指摘する。
「では、そのヘリオスを堕とすのに、何万の兵がいる?」
そのマインバッハ三世の問いに、騎士団長は首を横に振る。
「陛下、事は単純では御座いません。ヘリオス自体は、強固な防壁と堀で護られていますが、大軍で囲み、時間と軍の損耗を気にしなければ、堕とす事も可能でしょう」
騎士団長の、持ってまわった言いまわしを、訝しんだマインバッハ三世が眉根を寄せる。
「陛下、陛下もお気づきとは思われますが、このカンパネラまでの道程で、都市間を結ぶ街道を」
「ほとんど馬車が揺れなかったな」
「そうです。前に強固な防壁に囲まれた城塞都市、背後からは各都市からの援軍が、広く整備された街道を使い、駆けつけるのです。もう一つ、ヘリオスを護るのが、獣人部隊が主体だという事が最悪です」
「獣人部隊?我が国にあった様な、獣人奴隷部隊か?」
「陛下、お忘れですか?我が国には、もう獣人奴隷部隊は存在しません。今やヘリオス防衛の中核となっています。しかも以前とは比べ物にならない位の精鋭部隊として」
「どういう事だ。奴隷契約はどうした。そう言えば獣人奴隷部隊が壊滅したという報告があったな。我らの国の奴隷なら、トルースタインに返還を要求すれば良かろう」
横で聞いていた宰相が首を横に振る。
「陛下、もとはと言えば、奴隷狩りで、獣人の違法奴隷を集めていたのですぞ。トルースタインに返還など要求すれば、いい笑い者です。むしろ奴隷狩りの事実を認めることになります。それに獣人供は既に奴隷では御座いません」
「我が国が、獣人奴隷部隊として、運用していた時ですら精強な部隊でしたが、現在の奴らは並の騎士団では、歯が立たぬほどの精鋭部隊になっています。
我が国の騎士団の一部隊が、奴隷狩りに越境した際、奴等と戦闘になったらしいのですが、一瞬だったそうです。一人だけ生かされて帰って来た騎士は、いまだに使い物になりません。
恐らく、我が国の奴隷狩りに対しての警告だったのでしょう」
マインバッハ三世の頬がピクピクと震えている。
「現在の我が国には、獣人奴隷は存在しません。ひとり残らず消えました。それを成したのがトルースタインだとしても、文句のひとつも言えませんな」
宰相からの駄目押しに、盛大に溜息を吐くマインバッハ三世。
「我が国の送り出した、間諜も一人も帰って来ません。諜報部が人が足りずに、瓦解しそうです」
「早急にパルミナ王国と同盟を結び、旧ケディミナス教国を呑み込んで、トルースタイン共和国に対抗しなければならないな」
パルミナ王国とブランデン帝国の話し合いは、スムーズに進められた。
その席で同盟も結ばれ、おおまかな取り決めも成された。
ここまでスピーディに話が纏まった、その理由は、トルースタイン共和国の各都市を観て、両首脳が危機感を持ったためだった。
両国は、トルースタイン滞在中に少しでも、ゴーレム技術を手に入れようと暗躍するが、ゴーレムの基幹技術は、ユキトが握っていて、万が一にもゴーレムの盗まれても、所定の方法で分解しなければ、ゴーレム制御術式が破壊される様に、仕組まれている。
結局、両国はトルースタイン共和国に、目を付けられて帰国する事になる。




