ユキト相談する
孤児院の子供達とシスターを転移ゲートで、ロンバルドへ運び、フィリッポスに相談して、保護することになった。
「随分と派手に動いているようですね。まあ我が国は、人の手は幾らでも欲しいですから、村ごと移住して来ても問題はありませんから大丈夫ですよ」
「フィリッポス先生、あの国はおかしいです。小さな村が、幾つ無くなっても平気みたいです」
ユキトは冷静に話しているが、腹の中は怒りで煮えたぎっていた。
「国民をアークデーモン召喚の贄にしていたようですね」
「住人を生け贄にアークデーモンを召喚していました。少なくとも10体目撃したので、それ相応の住人が生け贄にされている筈です」
「馬鹿な国ですね。近隣の国全てで破壊活動をしかけて、ブランデン帝国やパルミナ王国などは、戦力を整えれば、直ぐにでも攻め込むのではないですか」
「そうですね。魔物の大氾濫や上位種を使った災害が人為的なもので、今回のケディミナス教国を手に入れた手口で、自分達が犯人だと間接的に宣言したようなものですもんね」
「ええ、よほどの馬鹿で無い限り分かるでしょうね」
「戦争になりますか?」
ユキトが大陸を巻き込んだ、戦争に発展するのではないかと聞く。
「少なくとも、ブランデン帝国とパルミナ王国は野心家の指導者がトップですから、三国間の戦争になるでしょう。
ただ、旧ケディミナス教国に、上位悪魔族であるアークデーモンが、複数存在する事をそれぞれの国の諜報部が、掴んでいるでしょうから、ブランデン帝国とパルミナ王国は、合同でケディミナス教国に当たるのではないでしょうか」
「アークデーモンってそんなに強いんですか?僕が見た限り、確かに強いでしょうが10体なら、僕とサティス、あとルドラ達なら余裕を持って勝てると思いますけど?」
「ユキト君達は、それだけの力を持っているということを、自覚した方が良いですね。
圧倒的強者に対しては、数の暴力は通用しないという事は、大氾濫を無傷で乗り切った私達が良く分かっている筈です」
フィリッポスの言葉を聞いて、戦争が起きれば、また沢山の人が死ぬ事が予測出来てしまう。
「旧ケディミナス教国は、何が目的なんでしょう?」
ユキトには、旧ケディミナス教国の目的が分からなかった。
国を手に入れるだけではない気がする。
「この大陸を混沌に、落とし入れる事ではないでしょうか。彼等の信仰する神が、邪神の類いなら、高い確率でそうだと思います」
「僕達は積極的に、攻め込むことは出来ないですよね……」
自分達が積極的に介入出来ない事に、ユキトはやるせない気持ちになる。
旧ケディミナス教国 旧教皇執務室
「国境付近の小規模な村から、人が消える事例が幾つか確認されました」
部下の報告を聞いても、教祖の男は興味をしめさない。
「アークデーモンの召喚数は10体か、魔人と合わせると都市のひとつやふたつ落とせそうだな。イオニア王国かパルミナ王国もしくはブランデン帝国か、どこをターゲットにするか……」
教祖の話の中に、最近建国した国の名が無いことに気づいた部下の男が不思議に思い聞く。
「教祖様、トルースタイン共和国の名前が抜けていると思いますが」
教祖が頭を横に振る。まるで分かっていない部下のことを呆れるように。
「トルースタイン共和国は、魔物の大氾濫を無傷で乗り切った国だぞ。しかも奴隷狩りの部隊を送っても一度も成功する事はない。一番にターゲットにする国ではなかろう」
教祖にとってもトルースタイン共和国は、警戒すべき相手だ。英雄の力は今だに侮れない。
「そういえば英雄達の育てた少年が居たな」
魔物の大氾濫で活躍した少年が居たと、未確認の情報は入っている。
「確か、ドラゴンやグリフィンなどの高位の魔物を使役して戦うという報告を受けています」
「確か、幻獣クラスの魔物を使役するのだったな。Sクラス以上の魔物を使役するなど悪夢だな。もう一度その少年の事を徹底的に調べる必要があるな」
「わかりました。もう一度詳しく調べて見ます」
そう言うと部下は、部屋を出て行った。
ブランデン帝国 皇帝執務室
帝都の皇帝が住む豪華な城の一室、皇帝執務室のなかで、皇帝マインバッハ三世と皇帝の右腕、宰相のシイツが、旧ケディミナス教国について対策を話し合っていた。
「諜報部の報告によると、我が帝国に甚大な被害をもたらした支配種ですが、ほぼケディミナス教国を乗っ取った勢力の仕業で間違いないでしょう。我が国だけではなく、イオニア王国やパルミナ王国も被害を受けています。唯一被害を未然に防いだのが旧都市同盟、現在のトルースタイン共和国です」
「まあ、あそこは英雄達が居るからな。比較にならん。それで現在のケディミナス教国の情報は?」
「どうやら自国の住民を贄に、アークデーモンを召喚しているようです。複数体確認しています」
シイツからアークデーモンの名を聞かされ、顔をしかめるマインバッハ三世。
「数で攻め込んでも無駄か」
「傷すら付ける事出来ないでしょう」
マインバッハ三世の疑問をシイツが肯定する。
「研究中の魔剣と魔槍があっただろう。パルミナ王国のヘルムート王に、共同開発を持ちかけろ」
「魔剣と魔槍ですか。現状、使い捨てに近い性能ですが有効ですね。パルミナ王国と共同開発すれば開発費も安く済みます」
「ケディミナス半分でも十分だろう」
「では、ヘルムート王に話を持ち掛けてみます」
シイツはそう言うと、マインバッハ三世の部屋から退出した。
大陸を巻き込んだ、戦火が燃えあがろうとしていた。




