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ユキト、コソコソする

 ユキトはココの村人を丸ごと移住させてから、暫く同じように、このままでは死を待つばかりの村を探して、村人の同意が得られれば、住居や耕作地を用意して、移住を助けて周った。



(小さな村を幾つ救っても解決にならないよな)


 幾つかの小さな村を救う事は出来たかもしれないが、根本的な解決には至っていない。

 魔物により荒らされた畑は、復旧するには時間がかかるだろう。

 それに対しての救済措置を、この国は取っている形跡は見受けられなかった。

 人為的に魔物の氾濫を起こすような奴らが、小さな村々に対して救済するとは思えなかった。



 ユキトは、ある程度の規模の街を調査してみたが、中規模以上の街などには、一応食料の供給などの措置はされているみたいだ。


 あと中規模の村で、不自然に村人が消えている村があった。ユキトが入念に調査すると、僅かに魔力の残滓が確認出来た。


「何の魔法陣だったかわからないけど、碌でもない事だけは確信できるな」


「そうですね、余りいい気の流れを感じません。精霊もほとんど感じませんし」


 ユキトの呟きに、サティスも同意する。


「僕は一度旧聖都を調査しようと思う。サティスは移住した住民のサポートをお願い出来るかな?」


「本音を言えば、ユキト様に着いて行きたいのですが、ココちゃん達の事も心配ですし、今回は大人しく帰ります」


 サティスが少し不満気に言う。


「じゃあ、ルドラ。サティスをお願い」


 ユキトが苦笑いしながら、ルドラの漆黒の体を撫でる。

 その後、サティスを見送ったユキトは、旧聖都へ向けカイザーウルフのヴァイスの背に乗り移動する。





「ヴァイス、ここで大丈夫だ」


『お気をつけて』


 旧聖都を視界に捉える距離まで辿り着くと、ユキトはヴァイスを送還する。


 ユキトは気配を消し、さらに認識阻害のエンチャントを施したフード付きのローブを目深に被り、隠形の限りを尽くし、旧聖都へ忍び込む。


 旧聖都の中に入ったユキトは、街の中をつぶさに調べる。


(人口は少なくない。人々の表情が暗いのは仕方がないか……、しかし、魔人か……、悪趣味だな)


 ユキトが忍び込んだ旧聖都は、一見すると普通に賑やかな首都と、余り変わりがないように見えるかもしれない。ただそこに、人をもとに作り出されたであろう魔人の存在がなければ。


 しかも旧聖都に居るのは、人をベースにした魔人だけではなかった。


(……アークデーモン……)


 ユキトの探知範囲に、魔人を軽く凌駕する反応が複数感知する。

 アークデーモン、上位悪魔族の存在をユキトは確認する。


(あの住民の居なくなった村は、まさか……)


 あの不自然に住民の居なくなった村人は、アークデーモンを召喚する生贄されたのだろうと推測できた。


(全部で十体、なんの為にアークデーモンなんか召喚したんだ?当然、自衛の為じゃないだろう)


 ユキトは旧聖都の貧民街へ向かうと、そこはまるでゴーストタウンのようだった。

 それでも探知には人の反応があるので、無人ではないが、普通スラム街のような貧民街には、人で溢れている筈だった。


 ユキトは人の反応を探して歩き、弱い反応が集まっている場所へ足を向けた。


(……孤児院?)


 みすぼらしい教会跡の様な建物を見つける。

 弱々しい気配が気になったユキトは、意を決して孤児院を訪ねてみる。


「すいません」


 扉を開け、人の気配がある場所へ行くと、二十人程の子供達が、粗末なベッドに横になっていた。

 どの子供も痩せ細り、意識のない子供もいる。既に、亡くなっている子供も何人かいた。


「……どちら様ですか?」


 シスターらしき女性が部屋に入って来て、ユキトを訝しげに見て聞く。

 よく見ると、シスター自身も今にも倒れそうだ。


「子供達に食事を与えても良いですか?」


 ユキトがそう言うと、シスターは泣き崩れる。

 シスターの話では、国が倒れてから、孤児院への寄付金や国からの援助は無くなり、ろくに食べる物もなく、もう何日も耐えられない状態だったそうだ。


 ユキトは魔法やポーションを使い、子供達を回復させていき、消化に良いお粥を作り、皆んなに食べさせた。


「トルースタイン共和国に来ませんか?トルースタイン共和国というのは、以前の商業都市連合の事です。治安も良く種族差別もほとんどないので、子供達が暮らすには良い土地だと思います。孤児院の運営費も国費から出る筈です」


「……この子達を連れて越境することは無理だと思います」


 シスターはそう言って、少し持ち直しはしたが、まだまだ体力のない子供達を見る。


「大丈夫ですよ。ゲートを開けば一瞬ですから、あの子達のお墓も向こうに建ててあげましょう」


 ユキトはそう言って、間に合わずに亡くなっていた子供を見る。


「うぅっ、お、お願いします」


 シスターはそう言うと泣き崩れる。

 ユキトはシスターが落ち着くのを待ち、孤児院の中を必要な荷物を集めて収納していく。


 ユキトは旧聖都の保有する兵力を確認すると、孤児院の子供達を連れて聖都を脱出した。



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