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村丸ごと奪取

 月明かりの光を頼りに、漆黒の翼が北に向け飛ぶ。


 漆黒のグリフィン、ルドラがユキトとココを乗せ、旧ケディミナス教国の辺境に位置する村へと急ぐ。


「怖くないかい?」


 ユキトの前に抱かれる様に、ルドラに乗せられたココに聞く。


「うん、気持ち良いよ」


 ヘリオスの街を出て二時間、そろそろココの村が見えてくる筈だ。


 やがてユキトの広範囲探知が、村らしき反応をとらえる。


「多分あそこだな」


 ユキトはルドラに指示を出す。


「あっ!ココの村です!」


 暗い中、月明かりに照らされた村が見えると、ココが指差して教える。


「ルドラ、静かに村の真ん中に降りてくれ」


 ルドラはゆっくりと降下して行くと、フワリと村の中心部に降り立った。


「さあ、ココの家に案内してくれるかな」


 ココをルドラから抱いて下ろすと、ココの家に案内を頼む。


「うん!ユキトお兄ちゃん、こっちだよ」


 ココが走りだすのをユキトが追いかける。


 ココが一軒のボロボロで今にも倒壊しそうな家に走り込む。ユキトもその後を追って中に入った。


 家は一間で、粗末なベッドが二つ並んでいる。そのひとつにココの母親だろう女性が寝ていた。

 もう一つのベッドには、5歳位の小さな女の子が寝ている。


「お母さん!お母さん!大丈夫?!」


 ココが母親の側で話し掛ける。

 ユキトは、直ぐにハイヒールをかける。すると少し顔色が良くなったので、もう一度ハイヒールをかけると、眠っていたココの母親が瞼を開けた。


「……ココ、ココなのね。良く無事で……」


「お母さん!」


「ココ、もう大丈夫だよ。消化に良い食べ物をサティスが作ってくれてるから、先ず食事にしよう」


 ユキトは、テーブルに鍋ごとスープを取り出すと、お皿に取り分けていく。


 ココの母親がベッドから上半身を起こす。


「あの……、あなたは?」


 部屋でテーブルの上にスープを並べるユキトを見て、ココの母親が聞いてきた。体を起す事が出来ることに驚きながら。


「お母さん!ユキトお兄ちゃんが助けてくれたの。お母さんの病気も治してくれたの!」


 母親が元気になっているのを見たココが、嬉しそうにユキトを紹介する。


「僕はユキトと言います。ヘリオスでココちゃんを保護しました」


「ありがとうございます。私はミレイと言います。この度はココを助けて頂いたばかりか、私の病気まで治療して頂いて、ですが、この家には払えるお金が有りません」


「安心して下さい。治療費なんて頂きませんよ。これは僕の偽善ですから。気にしなくて大丈夫ですよ。それより何かお腹に入れておきましょう」


 そうユキトが言ったとき、ココの妹だろう小さな女の子が目を覚ました。


「……う~ん。……良い匂いがする」


 そう言うと、ガバッと起きてキョロキョロと部屋の中を見渡す。


「あっ!」


 テーブルに置かれたスープを見つけると、ベッドから跳び下り走り寄る。


「ココちゃんの妹だね。お腹すいただろどうぞ。スープはたくさんあるから、おかわりしてね」


「ミミは、ミミなの!スープ食べて良いの!」


「どうぞ、たくさんおあがり」


 ユキトはミレイとココもテーブルに座らせ、食事をとらせる。


 ユキトはココの家を出ると、ココに場所を聞いていた村長の家へ向かう。


 村長と面会したユキトは、村を離れヘリオスへ移住を望む者がいれば受け入れる旨を伝える。

 村長は、村民全員の移住を望んだ。この村は、人口150人にも満たない小さな村で、この間の魔物の氾濫で畑は荒れ、まともに収穫が出来なかったそうだ。村の備蓄も尽き、旧聖都へ支援を要請したが、なしのつぶてで、村民全員が餓死するのを待つばかりだったそうだ。


「わかりました。村長さん、各家を廻って説明したいので、一緒にお願い出来ますか?」


「ええ、勿論。お願いします」


 ユキトと村長は、一軒一軒周り、病人が居ればその度、治癒していった。


 二時間後、村の広場に集まる様にお願いして、一旦ココの家に戻る。



 ユキトが家に入ると、ミミがベッドの上で、食べ過ぎてパンパンになったお腹を、苦しそうにさすっていた。


「ユキトお兄ちゃん!スープ美味しかったよ!」


 ココがユキトの胸に飛び込んでくる。

 ユキトはココを受け止めると、ココに持って行く荷物をまとめるように言う。


「ミレイさんも動けるようになったみたいですね。家具なんかも持って行きたい物が有れば言って下さい」


 収納魔法があるので、遠慮しなくて良いと伝える。

 幾つかの家具ごと収納して行くと、一間の部屋は直ぐにガランとした何もない部屋になった。


「広場にゲートを設置するので、準備が出来たら広場に来て下さい」


「……うぅっ、ミミは動けないの」


 ユキトが広場に行こうとした時、ミミが呻くようにユキトに助けを求める。


「じゃあミミちゃんは僕と行こうか」


 ユキトは苦笑しミミを抱っこする。


 ユキトは、もう一度各家を廻って、持ち出したい家具を収納して行き、全員が広場に集まっている事を確認するとゲートをヘリオスに繋げる。


「では皆さん、順番にゲートをくぐって下さい」


 全員がゲートをくぐったのを確認すると、ユキトはゲートを撤廃する。


「クルルッ」


 ルドラがユキトのもとに近寄る。


「キャ!」


 ミミがルドラに気づき悲鳴をあげる。


「大丈夫だよ、ミミちゃん。この子はルドラ、僕の友達なんだ」


 ユキトに抱きついていたミミが、恐る恐るルドラを見る。


「お友達なの?」


「あゝそうだよ」


 ユキトがにっこり笑ってルドラを撫でると、やっとミミは安心したようだ。


「ルドラちゃん!ミミは、ミミなの!よろしくなの!」


「じゃあ僕達もヘリオスへ行こう」


 ユキトはミミに、そう言うとルドラに触れヘリオスへ転移した。


 この日、旧ケディミナス教国の辺境にある村から住民が消えた。この事が発覚するのは暫く後のことになる。

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