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旧ケディミナス教国

旧ケディミナス教国 聖都


 そこはかって宗教国家だった場所。

 そして現在も、ある意味宗教国家である国。


 ケディミナス教国が、暗黒教団によって転覆し、新たな闇の神を信奉する国として生まれて数ヶ月たった。

 多くの国民が、魔物の氾濫と国家転覆に巻き込まれ亡くなり、人口減少による生産力の減少、騎士団の崩壊により国家としての力も疲弊した。

 周辺諸国もこの機会に侵攻を考えた国もひとつではなかったが、各国を襲った魔物の氾濫による被害で、他国への侵攻どころではなかった。それに加え各国の諜報部から、ケディミナス教国の国家転覆時、暗黒教団が魔人や魔物の上位種を使役していた事が報告されるに至ると、迂闊に侵攻する事が出来なくなる。




 旧ケディミナス教国本部の旧教皇執務室で、商業都市連合での奴隷狩り作戦失敗の報告を受けていた。


「ふむ、以外にも商業都市群は堅固だったわけか。さすが英雄達の治める国だ。いやまだ国ではなかったか。まあ、それが分かっただけで良しとするしかないであろうな。……しかし派遣した工作部隊が、なんの成果も出さずに、ほぼ全滅したのは痛いのう」


 部下からの報告書を受け取った男は一人呟く。


 ここは以前、ケディミナス教国の聖都と呼ばれた中心都市。しかし現在、魔人が街を警備し、住民達は極力表に出る事を避け引き籠っている。


 この都市が、他の国の都市と決定的に違う所は、魔素の濃度が他国の街と比べ、普通の街のレベルではありえない程高い事だろう。言うまでもなく、これは教団が使役する魔人の維持に必要な為だ。

 魔人は、その能力の割にそれ程魔素を必要としないが、その能力を十全に発揮するには、やはり魔素が必要になってくる。

 その魔素を生み出す為に、街のいたる場所に魔物由来の魔石から、魔素を発生させる魔道具が設置されていた。


「それで結局、商業都市連合内の全ての都市で失敗したのだな」


「……はい、しかも確認の為の追加部隊も何者かに始末された模様です」


 勝手、教皇室だった部屋で、教皇が座っていた豪華な椅子に座り、黒いローブを着た部下の報告を、同じく黒いローブを着た男が聞いていた。


「暫くは犯罪奴隷の購入で我慢するか、それとも他の国へ仕掛けるか……、いや他国が国内の立て直しに躍起になっている今は力をためる時期か」


「我ら実行部隊の人数にも限りがあります。暫くは犯罪奴隷の購入に留める方が良いかと思われます」


 考えこむリーダー格の男に、部下から実行部隊の人数不足を指摘される。



 国として穀物生産の為に、余り自国民を減らすのは望ましくない。ただでさえこの国を乗っ取るに辺り、多数の村落が壊滅している。

 彼等には、教祖直属の戦闘部隊も有しているが、他国に比べ決して多くはない。少ない故に、魔物を氾濫させたり、魔物の上位種を生み出し、旧ケディミナス教国の神殿騎士団を打倒したのだから。

 そこで魔物と違い、コントロールが効く強力な戦力として、魔人を人工的に生み出す方法がとられたのだから。


「魔人兵は、隷属の首輪でのコントロールは効くが、人であった時と比べると知能が魔物寄りになるのか、常に指揮をとる人材の配置が必要だからな。ふぅ~、これも神の試練か、中々思うようにいかんか。攻めるにしても守るにしても、魔人の能力を底上げはせねばいかんか」


「犯罪奴隷を購入して魔人の補給は続けますが、魔人にする素体の能力で、魔人の能力がかなり左右されます。魔人自体の能力底上げは必須ですが、これは研究班次第です。今は魔人の数を揃える為に、商業都市連合以外の各国に工作を仕掛けますか?」


「いや、現在各国は、国内を必死に固めているであろう。その中でリスクの高い奴隷狩りは止めた方が良いだろうな。軍の存在しない商業都市連合でさえ失敗したのだから。

 あと破壊工作については、我等が仕掛けた数度にわたる大規模な氾濫のせいで各国とも疲弊している。新たな工作を仕掛けるにしても、魔物の領域自体が、数度の氾濫により現在は魔素の濃度が低い状態が続いておるせいで、氾濫による破壊工作は、あと数年は工作自体を仕掛けるのは無理であろう。

 もっとも、あの規模の氾濫を起こそうと思えば、10年はかかるだろうが」


 黒いローブを着た教祖の男は首を横に振りながら、暫くは各国への工作を自重することを指示した。


「もっとも各国とも、我らが仕掛けた度重なる氾濫のお陰で、当分他国の事に首を突っ込む余裕は無いだろうが。唯一マシなのがイオニア王国、無傷なのが商業都市連合か……、商業都市連合が好戦的で無い事が幸いだの」


「商業都市連合にさらなる工作を仕掛けますか?」


 部下の男が教祖に聞く。


「いずれな……、今はまだ英雄達の力が強すぎる。奴等に通用する戦力を整えるには、今しばし時間かかるだろう。なにせ大氾濫をほぼ被害なしで乗りきった奴等だからな。商業都市連合での魔物の大氾濫の監視を怠ったのは失敗だったな。英雄達の力量を測る物差しがない」


 教祖の男が溜息を吐く。


「それでは研究班に魔人の強化及び強力な支配種の召喚など、早急に進めるように指示しておきます」


 そう言うと黒いローブを着た部下は旧教皇室を出て行った。



 ギシッ


 椅子の背もたれに体を預ける教祖の男。


「やはり英雄達の護る商業都市連合がネックになりそうだな。我等の障害になる前に、何か対応が必要か……」




 男は椅子に身を任せ目を瞑る。大陸全土を神へ献げる事を夢見て。


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