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兎と書いてアサシンと読む


ロンバルド郊外の森


 黒いローブに身を包んだ5人の男達が、ロンバルドの郊外に広がる森に身を隠していた。


「同朋が消息を絶ったのはロンバルドで間違いないのだな」


 リーダーらしき男が確認するように隣に立つ男に聞く。


「あゝ、間違いない。試しに送り込んだのはロンバルドを含む各商業都市へ1グループづつだけだ」


「まだ国家として成立以前の商業都市群なら警備も甘いと踏んだのだがな」


「確かに他の国は軍が国境を固めているからな」


「しかし、国境の警備がさほど強固でない商業都市全てに潜入していた同朋が帰らないという事は、我らの考えを改めないといけないかもしれん」


 残りの男達がそれぞれ意見をリーダー格の男に言う。


「ふむ、取り敢えずロンバルドの街を探るか。ヘリオスの調査チームが何か掴めれば良いのだが……」


 陽が落ち周りが暗闇に包まれるまでその場で息を潜める。




ヘリオスの街


 少し時間を遡り、ここヘリオスでも暗躍する男達がいた。


「新しい街だけあって活気はあるが、警備が厳しいと言う程でもないな」


「しかし獣人が多いぞ。奴らは感覚が鋭いゆえ侮れんぞ」


 時折通る街の巡回警備の兵は、獣人の割合が高い。他所の国や街ではありえない割合だ。


「作戦の失敗は、それだけでは説明がつかん」


「取り敢えず手分けして ウッ」


 一人の男が崩れ落ちるように倒れる。


「誰だ!」


 ドガッ!


 男の目の前を影が通り過ぎると、もう一人の男が壁まで吹き飛ぶ。


 ボグッ!


 三人目が崩れ落ち、残り二人になった時、男達はやっとその姿を視界に入れる。


「なっ!兎人族だと!」


 愕然とする男達、自分達の仲間をノックアウトした相手が、兎人族の少女だとわかると、これが現実なのか分からなくなる。本来、兎人族など愛玩奴隷にされる弱い種族の代表みたいなものだ。それはこの世界に生きる人間の共通認識。自分達の目で追えないスピードで動き、一撃で訓練を受けた男をノックアウトする兎人族など理解の外だった。


「あなた方は、この間の誘拐犯の仲間ですね。買い物のついでです。お掃除しましょう」


「なにっ!」「ひくぞ!」


 ドガッ! バキッ!


 次の瞬間、兎人族の少女の姿が掻き消えたかと思うと、二人の男は崩れ落ちた。


「ふぅー、衛兵を呼ばないといけませんね」


 そう言って衛兵を呼ぶ兎人族の少女。そう彼女はティアだ。ロンバルドからルドラに乗って買い物に来ていた。

 ユキトのゲートでもよかったのだが、ルドラのお散歩を兼ねてヘリオスまで飛んで来ていた。


「さて!私は帰るので後をお願いしますネ」


 ティアは、衛兵に男達を引き渡すと街の外へ出る。


「ルドラーーー!」


 ティアは街の外へ出ると、大声でルドラの名を呼ぶ。すると直ぐに返事をするように鳴き声が聞こえる。

 やがて大空から漆黒のグリフィンが降り立つ。


「クルゥ!」


「ルドラ、ユキト様のもとに帰りましょう」


「クルゥー!」


 ティアはルドラを撫でるとその背に飛び乗る。

 ルドラは、ティアが背に乗ったのを確認すると、翼を広げ大空へ飛び立つ。






 暮れてゆく空を、ルドラは高速で飛ぶ。


 ロンバルドの街が見えて来る。

 ロンバルド郊外の森の上空に差し掛かった時、ティアとルドラは、森の中に潜む存在に気がつく。


「あれ?こんなところに怪しいですね。ルドラ、気づかれない距離に下ろしてちょうだい」


 ルドラは音をたてないよう静かに森の中に降り立つ。


「ルドラは森の外で逃げられないように見張ってちょうだい」


 ティアはそうルドラに指示すると、気配を消して森の中に溶け込むように姿を消す。





(あれはさっきの人達と同じ誘拐犯の仲間ですね)


 ティアの人族ではとらえられない音を拾う兎人族の耳が、男達の話す声を聴く。

 ティアの顔がどんどん険しくなる。男達は街に潜入後、脱出時に何人か殺して衛兵の目をそっちに集めるなどと相談していた。


(……ギルティ)


 ティアはユキトから貰った腕輪を触ると、ティア専用虎型護衛ゴーレムが出現する。ティアは腰からナイフを抜くと、音も無く男達の背後に迫る。



「そろそろ行くか」


「あゝ」

 

 男達が森を抜け街へ向かおうとしたその時


 ドサッ


 人の倒れた音に、驚き振り返る男達。


「なっ!おい、どうした」


 そこには一番後ろに居た筈の仲間が倒れていた。


「……死んでいる」


 倒れた男を確認した仲間が呟く。


 ドサッ


 死んだ仲間を見ていた男達の反対側で、また人の倒れる音がした。


「なっ!不味い!森を出るぞ!」


 このままこの暗い森の中でとどまるのは、自殺行為でしかないと判断したリーダー格の男が、残った仲間に指示を出し走りだす。


「まっ、待ってくれ」


 遅れまいと二人の男も、森の外へ脱出しようと走りだす。


「ギャッ」


 ドサッ


「ヴッ」


 ドサッ


 続けて人の倒れる音が二度聞こえ、先頭を走る男は恐慌状態に陥りながらも森の外に出ることが出来た。


 グシャ


 一瞬、ホッとした次の瞬間、男の頭が巨大な猛禽類の爪で潰された。


「ルドラご苦労様です。それは森の中に捨てて、早く帰りましょう。遅くなっちゃいましたから、ユキト様が心配しているでしょう」


「クルゥ」


 プンッ ドサッ


 ルドラは、男を森へ投げ捨てるとティアに早く乗るよう促す。


「そうですよね、ルドラも早くユキト様のところに帰りたいですよね」


 虎型護衛ゴーレムを腕輪に戻したティアは、笑顔でルドラに話し掛けるとその背に乗り込む。ルドラは一声鳴くと空へ飛び立った。



 派遣した工作員が悉く帰らぬ現状に、商業都市同盟への工作は、暫く見合わせざるを得なくなる。

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