アメリアの冒険
商業都市ロンバルドに子熊にまたがり、歌をうたいながら街を散策する幼女がいた。もちろんそんな幼女は、ロンバルドにはアメリアしかいない。
そんなアメリアは、ロンバルドのアイドルになっていた。
「コロちゃん、その道を右ね」
「ガゥ!」
アメリアの指示に、返事を返す子熊型ゴーレム。言葉は話せないが、鳴き声でコミュニケーションがとれるように造られていた。
「おっ!アメリアちゃん!今日も可愛いネ!ホラッ、これ持っていきな」
散歩するアメリアに、屋台の親父が串焼きを手渡す。
「おじちゃん、ありがとうなの!でも、お姉ちゃんにはナイショなの」
「あゝ、イリスちゃんには内緒だな」
アメリアは串焼きを受け取ると、早速噛り付き頬張りながら散歩を再開する。
黒いローブを着込んだ5人の男達が、ロンバルドの街の寂れた宿屋で息を潜め潜伏していた。
「都市同盟の街は、どこも警備が厳重で動きずらいな。まさか我らの転移魔法陣が使えないとは、どういう仕組みかもわからん」
「あゝ、これなら他の国を狙った方が良かった」
「まだ国家として纏まる前なら、活動しやすいと思ったが、失敗だったな」
「しかし手ぶらで帰る訳にはいかんだろう」
「馬車で運ぶとなると、子供を何人か拐うくらいしか出来んが、今回は仕方あるまい。サッサと仕事を終われせて他の国を狙うぞ」
黒いローブを目深に被る5人の男達は、宿をあとにした。
「コロちゃん、次はどこ行こうか?」
「ガゥ!」
「うん?どうしたのコロちゃん」
子熊型ゴーレムのコロが、いつもと違う反応を示したのを見て、アメリアがどうしたのかコロに聞く。そこでアメリアが周囲を探ると、黒いローブを着込んだ5人の男達が、それぞれ大きな袋を担いで路地裏に消えるのを見つけた。袋から明らかに人の気配を感じたアメリア。ユキトに護衛の為に鍛えられたアメリアは、レベルが上がり戦闘能力が向上しただけでなく、索敵や気配を消すことも普通に出来る様になっていた。
「なんか怪しい感じなの!コロちゃん後を追うの!」
人目につきにくい裏道を抜けた広場で、黒いローブの男達が馬車に大きな麻袋を積んでいた。そこに背後から声をかけられる。
「怪しいおじちゃん達!何してるの!」
男達が一斉に声の方へ振り向くと、そこには子熊に乗った幼女が、睨んでいた。
「なっ!……なんだガキか、脅かしやがって。おい、あのガキもついでに拐っていくぞ!」
アメリアの事を普通の子供と侮った黒いローブ男達のうち、二人がアメリアを捉えようと走り寄る。
アメリアは、コロちゃんから跳び下りると一瞬で距離をつめ、目にも留まらぬ速さで二人の男の顎を蹴りぬいた。
「ぐぅぇ!」「あがっ!」
「なっ!」
幼女に一瞬で二人が倒されたのを見て、馬車に袋を積み込んでいた残りの三人が絶句する。
「このガキ、ただじゃ済まさんぞ!」
三人が懐からナイフを取り出し構える。
「コロちゃん!行くの!」
「ガゥ!」
アメリアと子熊型ゴーレムのコロが走りだす。
男達も三方向からアメリアを囲う様に位置取り迎えうつ。
「えい!」
「ガゥ!」
アメリアとコロが、交差して左右の男達に襲いかかる。
右の黒ローブの男は、アメリアの速さに対応出来ないまま、アメリアの跳び蹴りを受けて吹き飛ぶ。
左の男がコロにナイフを振り下ろす。
キンッ!
「なっ!」
コロが伸ばした爪に、ナイフが抵抗無くバラバラにされ、次の瞬間、コロの強烈な頭突きを受けて吹き飛ぶ。
有り得ない状況に焦りを見せるが、残された真ん中の男が、アメリアが着地する瞬間に合わせて襲いかかる。
「ギャァーー!!」
アメリアに襲いかかろうとした男に、アメリアの影から漆黒の梟が飛び出し、男の顔を鋭い爪でえぐる。
「グホッ!」
そこへアメリアとコロの追撃で、馬車の側まで跳ばされた。
「ゼッちゃんありがとうなの!」
アメリアが、コロのうえにとまった漆黒の梟を撫でながらお礼を言う。
アメリアの影から飛び出した漆黒の梟は、ユキトがアメリアの為につけた闇梟の〈絶影〉。普段はアメリアの影に潜み、陰ながらアメリアの護衛をしている。
アメリアは、黒ローブ男達が全員気絶しているのを確認すると少し考えて。
「うん!やっぱりお姉ちゃんを呼ぶの。コロちゃん、お姉ちゃんを呼んで欲しいの」
アメリアがコロにそう言うとコロは頷く。
暫くその場で待つと、イリスが熊型ゴーレムと10人程の自警団を連れて現場に駆けつけた。
アメリアやイリスとティアのゴーレムは、それぞれの間で連絡が取れる様になっていた。
アメリアの子熊型ゴーレムからの救援信号を受取ったイリスは、慌てて自警団を連れて現場に駆けつけたのだった。
「こら!アメリア!危ない事しちゃダメじゃない。先にお姉ちゃんを呼びなさい」
「む~、ごめんないなの……」
「イリスさん、アメリアちゃんお手柄ですよ。馬車に15人の子供達が乗せられていました。人攫いでしょう」
黒ローブの男達を拘束し終えた自警団のひとりが、馬車の中の麻袋に入れられた子供達を確認してアメリアをほめる。
イリスもアメリアがお手柄なのは分かっているので、お説教は程々にしてアメリアの頭を撫でる。
「アメリア帰ろう」
「うん!」
「後はお任せ下さい」
「では、子供達のことお願いします」
後始末を自警団に任せ、イリスはアメリアと手を繋ぎ帰路に着いた。
暗黒教団による誘拐事件は、ひとりの幼女アメリアの活躍で事なきをえたのだった。




