暗黒宗教国家
商業都市ロンバルド
ユキトとノブツナ達が、ケディミナス教国だった場所から帰還して二週間経つ。
その間、救出した人達を都市同盟内の各都市に振り分けたり忙しく動いていた。
漸くひと段落したユキト達は、フィリッポスと話し合いをしていた。
「旧ケディミナス教国が、各国に向け建国を宣言しました。各国にあるケディミナス教団の残された教会関係者や各国の首脳陣も戸惑いを隠せないようです」
「それで何か要求してきたのか?」
フィリッポスの発言に、ノブツナが聞く。
「いえ、今の所は何も。ですが、ここ最近魔物の領域での氾濫が、彼等が人為的に起こした物とハッキリしたいま、各国は戦々恐々としているでしょうね。まあ、魔物の領域の魔素濃度が低くなっているので、直ぐに同じように大規模な氾濫を起こせるとは思えないですけどね」
「それは確かな事なのか?」
フィリッポスの見解にヴォルフが確認する。
「ええ、もし人為的に魔素を集めるとしても、ごく小規模な氾濫しか起こせないでしょう。それよりもユキト君が見た魔人の方が問題かもしれませんね」
フィリッポスが魔人の話を出すと、その場に居る全員が顔をしかめる。
「許せないね、人を魔物に落とすなんて」
バーバラが吐き捨てるように言う。
「隷属の首輪をつけていたそうですから、ある程度コントロールが効くのでしょう。力ある知能の高い魔物を手駒にする方法としては悪くない方法ですね。倫理感を無視すればですが」
フィリッポスの推測に皆が顔をしかめる。
「ユキト君みたいに、召喚魔法を使う術者は居ないからですね」
アイザックがフィリッポスに言う。
「そうです。もし仮に召喚魔法の使い手が居たとしても、召喚魔法の性質からまず使い物にならないでしょうしね」
「確かにな。召喚魔法で召喚した魔物には、術者が実力を示さなければならん。ただでさえ少ない召喚魔法の使い手が、強力な魔物を屈伏させる実力を持つ必要があるわな」
フィリッポスにノブツナが頷き、確かにその通りだと言う。
「暫くは周辺の警戒を密にするしかないですね」
フィリッポスのその言葉で、その場は解散した。
それから10日程たった頃、イオニア王国、パルミナ王国、ブランデン帝国で相次いで小規模な魔物の被害が頻発した。
「これはどれも元教国の仕業だと言うのか?」
ノブツナがフィリッポスに聞く。
再び集まったフィリッポス達が、情報の分析と今後の方針を急遽話し合う事になった。
「間違いないでしょうね」
フィリッポスがテーブルにかた肘をつき、頬杖をついて、片手で報告書を捲りながらノブツナに応える。
「大規模な氾濫を起こせるだけの魔素が溜まった領域は在りません。それ故の小規模な魔物の被害ですが、これは多分時間稼ぎですね」
「今のうちに体制を整える為の時間稼ぎかい?」
バーバラがフィリッポスに聞く。
「バーバラの言う通りでしょうね。ウチを除けば、イオニア王国、パルミナ王国、ブランデン帝国は大規模な氾濫の影響で、元々自国の立て直しに暫く掛かるでしょうし、元教国への干渉をする余裕もないでしょうね。それをより確実にする為のものでしょう」
「あゝ、一応どこの誰が犯人かは、わからねえ様にしてるみたいだからな。まる分かりだけどな」
ヴォルフが面白くなさげに、椅子に背を預け踏ん反り返っている。
「ええ、元教国に周辺国と争えるだけの力は有りませんからね。出来るだけ時間を稼いで、その間に国としての体制を固めたいのでしょう」
「そうだな、ウチなら教国を攻め堕とす事も出来るだろうが、証拠も無いのに攻め込む訳にはいかんだろうな」
フィリッポスの言葉を受け、ノブツナも現状様子見するしか無いと言う。
「私達も建国に向けて、国民台帳の作製に、街の整備に、新規開墾にと忙しいですから、暫く放置するしかないでしょうね」
「取り敢えず、俺とノブツナで、警備部隊の増強を急ぐわ」
ヴォルフがそう言って立ち上がる。
「私は治癒院の開設を急ぎますね」
アイザックも立ち上がって部屋を後にする。
「じゃあ、あたしも帰るとするかね」
バーバラが出て行き、残ったユキトがフィリッポスに話しかける。
「フィリッポス先生、僕にも何か出来ることはありませんか?」
「そうですね。ユキト君には出来れば、魔物除けの魔道具を出来るだけ多く作って貰いたいのですが、出来れば小さな村や町に行き渡る位は欲しいのですが」
「分かりました。それなら魔石もそんなに質を問いませんから、時間さえ貰えれば数を揃えるのは難しくないです」
「では、ユキト君には魔道具の製作をお願いします。各街の工房にも手伝って貰って下さい」
「わかりました」
ユキトはフィリッポスにそう言って部屋を後にした。
教国が瓦解して、周辺国に甚大な被害をだした黒幕が国を乗っ取ったわけだが、フィリッポス達には他国に意味なく侵攻する意思はなく、周辺国は氾濫による被害が大きく侵攻する余裕がない。
結果的にどこの国も様子見するしかない様だった。




