始まる惨劇
ケディミナス教国 魔物の領域
昼なお暗い森の中、蠢きだすもの達がいた。
GUOOOOW!!
魔物の領域に人とも魔物とも思えない咆哮をあげる生き物がいた。
魔法陣が光り、周囲の魔素と瘴気を集め収束していく。首輪を付け、魔法陣の真ん中に転がされた騎士らしき人間に変化が起きる。ブチッ、バリバリ、布地が破れる音と共に、うめき声が聞こえる。
「最後の五体目も成功だ。ただ元が人間だからか、聖騎士を素材にした割には、能力がそこまで跳ねあがらんな。まあ、これでも溢れた魔物の後始末は充分だろう」
黒いローブを着た、暗黒教団の団員が次の作業の準備始める。
「上位種覚醒と魔物氾濫まで五日だ、。急ぐんだ」
隷属の首輪を付けた、かつて人であった者を連れて撤収作業に入る者や、次の準備を進める者が忙しく動いてる。
「聖戦後の統治を速やかに実施する為の準備も怠るな」
目指すは聖都、そこまでの街や村を蹂躙しながら聖都へ向かうように、誘導する準備を進める教団員達、彼等の計算ではケディミナス教国の国民の三割は魔物の餌食になるだろうが、彼等からすれば七割も残れば許容範囲の犠牲だった。
犠牲者が出れば瘴気も濃くなり、魔物に殺された住民を材料に、死霊やスケルトンを召喚することも出来る。
彼等にとって、国を手に入れ同時に死を恐れない軍団を手に入れる事になる。
黒いローブに身を包んだ、暗黒教団員達はもう直ぐ始まる、破壊と再生のために準備を粛々と進める。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「ユキトーーーー!!」
大きな声でユキトを呼ぶ声がする。
「なんですか、ドノバンさん」
「おゝ、ユキト。ここにおったか」
ドカドカと足音を立ててドノバンがバルクの愛馬、ゴーレム馬のアルスヴィズを連れて工房へ入ってきた。
「実はなユキト、このバルクのゴーレム馬、確かアルスヴィズと言ったか、その装甲を強化して欲しいと頼まれてな。じゃが、アルスヴィズはユキトが作ったゴーレム馬じゃ、儂が勝手にいじる訳にもいかんし、ただ単に装甲を強化すれば良い訳じゃなかろう。それでユキトに相談しようと思ったんじゃ」
「なんだそんな事か、バルクも僕に直接言えば良いのに」
「ユキトは忙しいから遠慮したんじゃろう」
「わかりました。どうせなら装甲強化だけじゃなくアルスヴィズを色々パワーアップさせましょう。装甲部分の図面が出来ればドノバンさんにお願いします」
「まかせとけ。では儂は準備して待っとるぞ」
そう言うととドノバンはドカドカ足音を立てながら部屋を出て行った。
早速、ユキトはアルスヴィズの骨格と人工筋肉を見直す。骨格の強度を上げて人工筋肉の量も増やす。同時にマナプール用の魔石を追加する。これで装甲を強化して重くなっても、以前よりむしろパワーアップしているだろう。
次は最終的にひと回り大きくなったアルスヴィズの装甲を考える。アルスヴィズのひと回り大きくなった体に合う基本装甲の設計図を描いていく。素材に関してはドノバンにお任せで良いだろう。
脚の動きを阻害しない位置を慎重に見極め、首の付け根辺りに龍の爪を横に付け、体当たりの時に引っ掛けれるようにした。頭には龍の牙を胸には龍の角を付ける。ただでさえアルスヴィズは、大型のゴーレム馬なのだが、さらに大きく重くパワーアップした為、オーガ位なら簡単に跳ね飛ばしそうだ。
「よし、この図面をドノバンさんに持っていくか」
ユキトは設計図を丸めると、ドノバンのもとへ届ける為に工房をあとにした。
やがて完成したアルスヴィズは、より大きくより重厚になった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ケディミナス教国 魔物の領域
魔物の領域内の奥に大型の檻が二つ、魔法陣の上に置かれてある。檻の中には、オークとオーガがそれぞれ入れられている。
魔物の領域内のあちこちには、他にも魔法陣が仕掛けられていた。やがてどんどん魔素が集まりだし、魔力溜まりが領域内に複数出現する。
魔物の領域に住む、魔物達にも魔素の影響が出始める。ワンランク上の上位種に変化していく。
やがて魔力溜まりから魔物が湧き始める。遅れて二つの檻が弾けとび、オーガキングとオークキングが姿を現した。
『『GAAAAAAWWWーー!!』』
二体の支配種の雄叫びで、未曾有の災害が始まった。
それに気付いたのは、魔物の領域から近い街の門を守る兵士だった。魔物の領域側から聞こえる地響き、眼を凝らすと次第に明らかになるその事態に、慌てて門を閉める。
聖都へ魔道具を使って救援を請う。同時に住民の避難が始まるが、魔物が通り抜けた跡には、食い散らかされた人だった残骸が残るのみだった。
ケディミナス教国 教皇執務室
聖騎士が教皇執務室に飛び込んできた。
「教皇様!一大事です!」
「なんだ!うるさい!」
「大変です!魔物の領域が氾濫しました。しかも大氾濫です」
聖騎士の報告に最初何を言ってるのかと、うるさく思っていた教皇は、段々と事の大事を理解すると顔を蒼ざめ震えだす。
「聖騎士団を聖都に集めよ!何としても聖都を護るのだ!」
唾を飛ばし教皇が叫ぶ。
「しっ、しかしそれでは魔物の領域側にある村や街が犠牲になります!」
「何が何でも聖都だけは護らねばならん!聖都が無事ならこの国は立ち上がれる!行け!今すぐ行くんだ!」
聖騎士は、手を握り締めながら駆け出す。
「儂が無事ならこの国は復活出来る……」
教皇は醜く肥った身体を豪華な椅子に預ける。
これで聖都は、安全だろうと安堵する。高い防壁と聖騎士団があれば、大氾濫といえど聖都が落ちる事はないだろうと。




