護衛ゴーレム
イリス、アメリア、ティアの護衛用ゴーレムの設計に没頭するユキト。
「アメリアちゃんには、護衛だけじゃなくて、遊び相手にもなる方が良いよな……、イリスとティアには純粋に護衛でいいとして、余り大きくなると狭い場所では困るから……う~ん、大きくても大人一人位の大きさが精一杯かな」
先ずアメリア用のゴーレムは少し大きめのクマのヌイグルミをコンセプトに設計してみた。本物の熊と間違えられない様に、デフォルメして、頭は大きめで手は長く脚は短めにして、可愛い感じの見た目になる様にデザインする。
「骨格は頑丈で、それでいてあまり重くならない様にしないと……」
ブツブツと独り言を呟きながら、ドンドン仕様を詰めていく。
「前脚の爪をアダマンタイト製の伸縮自在な物にしようかな、ヴォルフさんの動きを参考に格闘戦が出来るようにしよう」
ユキトは、アメリア用のゴーレムを先ず作り始める。
骨格をミスリル合金にして、強度を上げる為にアダマンタイトでコーティングする。人工筋肉は、タイタンやギガスと共通の魔物素材を加工した物を流用するので小型のゴーレムとはいえ、その出力は過剰なほどだ。
身体の各所に様々なセンサー用の術式を描き込んだ魔石を仕込み、胸の中央に身体制御用の術式を刻んだ少し大きめの魔石と魔力プール用の魔石を配置する。頭部には、全身のセンサーを統括する術式を刻んだ魔石を配置する。
頭部や胸部の重要部分をミスリル合金製の薄板でカバーして、前腕部も少し厚めのミスリル合金の板で覆い、盾代わりに使えるようにする。
結局、攻撃時に伸縮する爪は、より強度を求めてアダマンタイトにオリハルコン合金をコーティングした25cm程度の爪を作成した。オリハルコンを使用したのは、爪を通して法撃を撃つギミックを組み込んだからだ。
ユキトは、アメリアと同じ位の120cm程のサイズに仕上がった子熊型ゴーレムを起動して、動作チェックすると、一旦停止してサティスを呼ぶ。
「サティスーー!」
「お呼びですか?ユキト様」
直ぐにサティスが工房に入って来る。
「サティスにお願いがあるんだけど、この子熊型ゴーレムの外装を、このバーサクベアーの毛皮でヌイグルミっぽく仕上げてくれない」
ユキトはそう言うと、グレーの魔物の毛皮を取り出す。
「まぁ、可愛いゴーレムですね。大丈夫です。お任せ下さい」
「その毛皮には、色々とエンチャントしてあるから縫いにくいかもしれないけど、お願いするよ。急がなくて大丈夫だから」
ユキトは子熊型ゴーレムを起動すると、サティスの指示に従うように命令する。サティスは毛皮を受取りゴーレムを従えて出て行った。
「さて、イリスのゴーレムに取り掛かるか」
ユキトは続けてイリス用の護衛用ゴーレムを作り始める。
イリス用のゴーレムは、アメリアのゴーレムよりも大型の熊型ゴーレムを作る。
基本設計は同じだが、サイズが大きい為にパワーアップしている。爪のサイズも50cmと見た目の迫力も増している。外装を包む毛皮は、バーサクベアーの上位個体で、毛色が黒い物がユキトのアイテムボックスに死蔵していたので、それを使う事にした。
やがてイリスより少し大きい、170cm位の二足歩行の熊型ゴーレムが出来上がる。
二体のゴーレムは普段は二足歩行で、速く走る際は四足で走るようにした。
「そうだ、前腕の装甲は厚くしてあるけど、一応専用の籠手を作っておこう」
ユキトは子熊型には籠手のみを、大型の熊型には籠手と胸当を製作する。これで間違っても熊型の魔物と勘違いする事はないだろう。
子熊型ゴーレムと同じく、サティスに毛皮を渡して外装のカバーをお願いした。
「さて、後はティア用のゴーレムだな」
ティア用のゴーレムは、サーベルタイガーに似せて作られた。やはり普段は二足歩行で、爪を使い闘う。高速起動時は、変形して四足でティアを乗せて走れるようにした。外装に貼る毛皮は、白色の魔物素材を使い、ティアの雰囲気に合うようにした。
三日かけて三体の護衛用ゴーレムを作り上げたユキトだが、遊びに来てたユスティアにアメリア用ゴーレムが見つかり、子熊型ゴーレムを追加で作る羽目になった。
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「導師様、実験体の用意が完了しました。ケディミナス教国の聖騎士を五人程さらって確保致しました。魔人への変異実験は終えて、隷属の首輪による支配は有効です」
黒いローブ姿の男が、同じく黒いローブ姿で椅子に座る男に跪いて報告する。
「残りの実験体に隷属の首輪を付けるのを忘れるな。細かなコントロール出来るだけの知性が残るかは分からんがな。残りの進捗状況はどうだ」
「はっ、魔の領域を氾濫させると共に、今回はオークとオーガを一体づつ確保し、上位種に変異させる為の魔法陣を準備中です」
導師と呼ばれた男が、部下の報告に満足そうに頷く。
「クックック、ケディミナス教国がこの大陸から消え、我が神の国が出来るのだ。もう直ぐだ、我等が暗黒の女神を信仰する国が出来る。魔物を氾濫させた後、聖騎士団が壊滅したタイミングで、魔人による魔物の討伐を始めろ。教会関係者以外の人間は、我が国の労働力として必要だからな」
「はっ、了解いたしました。これでケディミナス教国もお終いですな、しかも国を護る筈の聖騎士が、魔人になって自国を滅ぼす尖兵となるのですから、教皇の事を思うと笑いが止まりませんな」
部下の男が、嬉しそうに言う。
「あぁ、後はタイミングを待つだけだ。失敗は許されん。準備を怠るな」
「はっ、それと氾濫で溢れた魔物の後始末は、どの程度致しますか?魔人だけに任せると被害は大きいと思われますが」
「うむ、強力な魔物程、魔素の薄い環境では生きられぬ。時期に弱い個体を残して死ぬか魔の領域へ帰るだろう。我等は、魔人を使って上位個体の魔物を中心に処理をすれば後始末も容易いだろう。一応、魔寄せの香を使い、国外へ誘導しておけばいい。イオニア王国へ流れる魔物に関しては、彼方の国で対処するだろう。我等の預かり知らぬ事よ」
「では、我等は準備に戻ります」
そう言うと黒いローブを着た部下の男は、姿を消した。
大陸に嵐が吹き荒れようとしていた。




