卒業
飛空船のテスト飛行が一応成功を収め、細かな手直しを経て、完成に漕ぎ着けたころ。
ロンバルド高等学院の卒業式が行われた。
商業都市ロンバルドに来て三年、やっと卒業だ。
卒業式が終わり、式場を出て学院を振り返る。
目を瞑れば、三年間の学園生活が・・・・ダメだ、フィリッポス先生の研究室しか思い出さない。三年間で友達と呼べそうなのは、マリアとヒルダしか居ない。
僕がガックリ肩を落としていると、僕の事を呼ぶ声がする。
「「ユキトーー!」」
声の方を見ると、人混みを掻き分けて、マリアとヒルダが走り寄るのが見えた。
「やあ、マリア、ヒルダ、ご両親は良いの?」
ロンバルド高等学院には、大陸各地から生徒が通学する為、普段保護者が学院に来る事はないが、流石に卒業式には遠路はるばる各国から、保護者が卒業式に出席している。
イオニア王国の貴族令嬢である、マリアとヒルダの両親も卒業式に出席しているはずだった。
「ユキトに挨拶したかったから、チョット待ってて貰ってるの」
「そうよ、私達来週には、国へ帰るからね」
「そう、ユキトのお陰で少しは強くなれたと思うから」
「そうか、来週帰るんだね。そうだ、時間が無いから防具は無理だけど、マジックアイテムのアクセサリーをプレゼントするよ」
マリアは、一応弟子みたいなものだからな、もしもの時の保険くらいにはなるだろう。
「当然、私の分も有るのよね」
ヒルダにも渡さなきゃいけないよな。
「あぁ、同じのを創るよ」
「そうこなくちゃ、あっ、お父様達が呼んでるわ。マリア、行くわよ!」
「じゃあユキト、プレゼント楽しみにしてるわね。良かったら、私達の家に遊びに来てね。じゃあね」
それだけ言うと、マリアとヒルダは両親の元へ帰って行った。
「ユキト!そろそろ帰るよ!」
バーバラ婆ちゃんが呼んでる。婆ちゃんの背後には、爺ちゃんやヴォルフさんにアイザックさん、ドノバンさんと、僕の卒業式だという事で久しぶりに勢ぞろいしている。
「うん!わかった!」
これから家で僕の卒業を祝ってくれる。朝からサティスとイリスが中心になってティアとニケさん親子も手伝い、料理などの準備をしてくれている。
皆んなの後を追い学院の外に出て振り返る。
「三年前かぁ、なんか研究室に籠もりっぱなしだったけど、……楽しかったかな。さぁて、帰ろう。サティス達が待ってる」
ユキトは、踵を返すと皆んなの元に走る。
家で盛大に祝ってもらった次の日。
僕は工房に籠り、マリアとヒルダにプレゼントする魔道具を作っている。
ユキトが、学院での数少ない友人の二人だから、もしもの時の保険に、身を守る助けになる物を作ろうと思ったのだ。
「さて、マリアとヒルダにはこれでいいとして……」
「ユキト様、お茶をどうぞ」
ユキトの作業がひと段落した時、サティスがお茶を淹れてくれた。
「そうだ、今後のことを考えると、イリスやティア、出来ればアメリアちゃんもレベルを上げておいた方が良いと思うんだけど、どんな装備が良いかな」
「……やっぱり、遠距離から攻撃出来る武器を持たせる方が安全ですね。ただ、弓は直ぐに上達するものではありませんし……、ティアは獣人ですから魔法は難しいですし……」
サティスは、そう言うと考えこんだ。
「そうだよな、……法撃用の魔道具を作るか。うん、それが一番安全にレベルアップ出来そうだな。ありがとうサティス、参考になったよ」
ユキトはサティスに礼を言うと、早速アメリアにも使える魔道具の開発に没頭していく。
ユキトは、マリアとヒルダを見送りに来ていた。
「「ユキト、ワザワザ見送りありがとう」」
マリアとヒルダが握手を求め、ユキトもそれに応える。
「マリアとヒルダに、プレゼントを用意したんだ」
ユキトは、マリアとヒルダそれぞれに、ペンダント型の魔道具を渡した。
「それは、もしもの時に防御結界を張れる魔道具になっているんだ。それと、魔力を流すと僕に連絡が取れるから、困った事があれば力になるよ。使う状況にならない方が良いんだけどね」
「ありがとう、ユキト。ユキトに鍛えてもらったから、大抵のことは大丈夫だと思うけどね」
マリアが感激してハグする。
「そうよね、私までヒドイ目にあったんだから」
ヒルダも、魔石を取りに行った時の事を思い出して、ユキトを皮肉る。
「一度私達の国にも遊びに来てね。もう行かなきゃ、さよなら!」
「さよなら、またね!」
マリアとヒルダが、豪華な馬車に乗り込みドアが閉まる。馬車の窓から手を振る二人が、遠ざかって行くのを見届けて、ユキトも街に戻った。
ユキトは、家に帰って早速、法撃用魔道具を作成する。
今回、ユキトが作ろうと思っているのは、バレット系の魔法を放てる魔道具。土属性のロックバレットと、氷属性のアイスバレットを切り替えて撃てる魔道具を作ろうと思っている。
「手元で、ロックバレットの魔法陣を描き込んだ部品と、アイスバレットを描き込んだ物を、ワンタッチで切り替えれる様にして、石の弾と氷の弾を加速させる術式を筒に描き込むか」
アメリアにも使える様に、考えながら数種類の試作品を作っていく。
ユキトは、ここの所、色々な場所で起る魔物の被害に、漠然とした危機感を感じていた。不測の事態があった時、アメリア達のレベルを上げて、少しでも生き延びる確率を上げておいた方が良いと、ユキトの感が告げている。
「偽善かもしれないけど、手の届く範囲は護りたいもんな」
ユキトは、魔道具の開発に没頭していく。自分の大切な者を護る為。




