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飛空船

 カーン!カーン!カーン!

 ガン!ガン!ガン!ガン!


 街の外れに建てられた巨大なドックで、急ピッチで飛空船の建造が進められている。


『ドノバン殿、これはこちらで良いか?』

「あぁ、そこに置いてくれ」


 ジーブルがドノバンの指示に従い、資材を運ぶ。巨大な竜の骨や木材をその巨体と怪力を生かして運搬する。他にもゴーレムが複数体作業している。



 飛空船に使用する魔石を手に入れたユキトは、フィリッポスと相談して、輸送船二艇とユキトの個人的な趣味の塊を一艇製作することになった。


 ドノバン率いる鍛冶職人や魔道具職人、内装や木材加工を担当する大工集と船大工が、巨大なドックの中を忙しく動き回っている。


「僕が浄化した骨だからか、魔力の馴染みがやたらと良いな」


 ユキトは竜の墓場で浄化した、ボーンドラゴンの骨に魔力を流して鍛冶魔法のモデリングを使い、自分で描いた設計図通りに形を変えていく。


 ドックの端で形に成りつつあるユキト専用の飛空船には、大量の荷物や人を載せることは無いので、その形は流線型のスマートなフォルムだ。


 またドックの別の場所では、魔道具職人達が推進装置を製作している。大勢の人がドックを行き来して、三艇の飛空船を造り上げて行く。




「随分はかどっていますね」


 ユキトが製作に没頭していると、背後からフィリッポスが声を掛けてきた。


「あぁ、フィリッポス先生。骨組みはほぼ完成しました。次は機関部ですね」


 ユキトが振り返らずに、作業しながら受け応えする。


「しかし大きいですね、輸送艦は全長150m・全幅30mですか。これで兵士が800名運べるのですから、素材が許せばもう二~三艇欲しいですね~」


 フィリッポスが輸送艦を見てユキトに言う。


「これは僕の分ですから、あげませんよ」


 慌ててユキトがフィリッポスに釘をさす。


「奪らないですよ、しかし飛空船が作れなかったのは、技術的な事より材料に問題がありましたね」


「そうですね、竜の骨もですけど、あれだけの魔石を手に入れる事が出来ないでしょうしね」


 ユキトは、たまたまアグニの助言で手に入れる事が出来たが、普通は成竜クラスの魔石など手に入れる事は出来ない。ユキトならば狩ろうと思えば竜でも狩るだろうが。


「ユキト君の船は一回り小さいのですね。魔石は一番大きかった筈ですが」


 ユキトの造っている船は、全長120m、全幅25m、輸送艦に比べ全体的に流線型の船体は、いかにもスピードがでそうな見た目をしている。


「船の装備は、どうするのですか?」


「戦闘用装備は対空法撃が四門、対地法撃が四門、あと別に高威力の主砲が一門、防御用に船体には魔法障壁位です。あとは仲間用のシャワー付きの個室に食堂と大型キッチン、皆んなで集まれるリビングに大浴場ですかね」


「ユキト君は、飛空船に住むつもりですか?」


 あと何が必要かな~、とユキトが考えながら答えると、フィリッポスが呆れながら言う。


「この大陸のゴタゴタがある程度落ち着いたら、世界を観て周りたいと思いますけどね」


 ユキトはもうすぐ卒業を迎える。不穏な気配が大陸の彼方此方で伺える現在、直ぐに旅に出る事は出来ないだろうが、一度は世界を観て周りたいと思っていた。





 主要部分はユキトが製作し、内装や生活用品などの魔道具設置を、大工や魔道具職人達に手伝って貰い、なんとか卒業前に完成に漕ぎつけた。


「さて、不具合がないかテスト飛行しなきゃな」


 ユキトが独り言を呟くと。


「御供します」


 サティスがユキトに同行を希望する。


「試験飛行だから危ないかもしれないよ」


「私は何時でもユキト様のお傍に居たいのです」


 そう言われるとユキトも反対出来ない。もともとそこまで危険があるとも思っていなかったので、サティスを乗せて試験飛行することにした。



「しゃあ、乗り込もうか」


 ユキトが飛空船に近づき、手をかざして魔力を僅かに流す。すると飛空船からタラップが下りてきた。


「魔力を登録しなきゃタラップが下りない様になってるんだ。後でサティスの魔力も登録しておこうね。さあ、乗って」


 ユキトに促されてサティスが乗り込む。


「さて、ここが操舵室だ。キッチンの使い勝手なんかは、また後で確認しておいて。じゃあ出発するよ」


 操舵室の操縦席に座ったユキトが魔力認証に魔力を流しメインスイッチを入れる。ボーンドラゴンの巨大な魔石を加工した、高性能な魔硝石からの魔力が各装置に流れる。船体を保護する魔力障壁が展開され、浮遊の術式が船体を地面から1メートル程浮かせる。ユキトがフットペダルを僅かに踏み込み、ゆっくり船体を前に進める。


 開け放たれたドックから、白い流線型の美しい船体が滑る様に現れた。やがて徐々に高度を上げていき、水平飛行にうつる。


「サティス、一応ちゃんと椅子に座ってベルトを締めてくれる」


 サティスがベルトを締めたのを確認すると、スピードを上げていく。


 高速航行から急降下や急上昇、急旋回などを繰り返して、挙動におかしな所がないか確認する作業を終えてドックに戻る。


「問題ないね、サティスは何かある?」


「船自体は問題ないと思います。割れにくい食器を用意した方がいいかもしれないですね」


「そうだね、あと大浴場があるからタオルや石鹸なんかの備品も買わなきゃね」


 メインスイッチを切りユキト達が船から降りると、タラップが上がり扉が閉まる。


「さあ、買い物して帰ろうか」


 そう言ってサティスの手をそっと握る。


「ハイ!」


 サティスが嬉しそうに返事すると手を握り返してくる。二人手を繋いで陽が傾く中、市場のある街の中心部へ歩いていく。

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