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ユキト物造りにハマる

 カンパネラでの仕事が終わって、やっと家でゆっくりしようと庭に出ると、アメリアちゃんとユスティアちゃんが遊んでた。


「何して遊んでるの?」

「あっ!ユキトお兄ちゃん!」

「ダンゴムシを転がして遊んでるの!」

「ふ~ん、ダンゴムシかぁ~、あっ!」


 アメリアちゃんとユスティアちゃんが、ダンゴムシを転がして遊んでるのを見ていた僕は、アイデアを閃いてしまった。


「どうしたのユキトお兄ちゃん」


 考え込んだユキトにアメリアが聞く。


「アメリアちゃんとユスティアちゃんのお陰で、良いアイデアが浮かんだんだよ」


 アメリアに微笑み頭を撫でる。


「エヘヘヘッ、アメリアえらい?」

「うん、アメリアちゃんありがとう」

「ねえユスティアは、ユスティアはどうなの!」

「ユスティアちゃんもありがとう」



 ユキトは自室に走り戻り机に向かう。


 ダンゴムシの鎧みたいな蛇腹が転がるとき、滑らないから、あとあの太さもキモだな。


 ブツブツ独り言を言いながら、設計図を描いていく。


コンコン!


「ユキトよ!また何か造るんだって」


 ドノバンさんが、アメリアちゃん達に聞いたのかやって来た。


「ドノバンさん、丁度良かった」


 僕はドノバンさんに、今作ろうと考えている物を説明する。


 「この間のやつも大概だったが、今回のもぶっ飛んどるのう。じゃが面白い本当にユキトとおると退屈せんわい」


 ユキトとドノバンが設計を詰めていく。


 「前の二つを少し小さくして、後ろ4つは大きめで全部をバラバラに動く様にしたいですね」

「うむ、バラバラに動いた方が、運用出来る幅が広がるのう」

「それで一個ずつ魔石を入れると、パワーも上がると思うんですよ」

「制御が複雑になるが、10本の腕に比べれば何てことはないか。そうだ、角を付けねえか?」

「良いですね、それで体当たりすれば破壊力バツグンですね」

「おう、それじゃあノブツナに黒龍の角貰おう。」

「まだあったんだ、黒龍素材」

「重量はある程度あった方が良いな」

「そうですね、その分パワーが必要になりますね」



 ユキトが作ろうとしているのは、ゴーレム馬車の一種と言えるかもしれない。ただ他のゴーレム馬車は馬型のゴーレムが馬車を引くのだが、ユキトの考えたゴーレム馬車は、馬車自体がゴーレムで馬を必要としない。その時点で馬車ではないのだが。


「これが出来上がったら、儂に乗せてくれんか」

「良いよ、ドノバンさん気にいった?」

「儂らドワーフは足が短いからの、速く走るのが苦手じゃし馬に乗るのも大変だからの」




 それから早速、やたらと張り切るドノバンさんと作業に入った。ドノバンさんが外装を作る為に、工房に籠り金属を叩く音が聞こえ始める。僕は6輪のそれぞれを別々に動かし制御する為の術式を組み始める。



 何時もの朝の、鍛錬の時に爺ちゃんに稽古をつけて貰ってたバルクが、僕に馬が欲しいと言って来た。


『主、騎士とは馬があってこその騎士だと思うのです』

「まあ成り立ちから言えば、間違いじゃないね。でもバルク、騎乗してロングソードじゃ戦い辛いんじゃない」

『ご心配なく、ノブツナ様に槍をご指導頂きスキルは獲得済みです』

「そうなんだ、バルクの馬か……普通の馬じゃバルクの身体を支え切れないよな、となると魔物かゴーレムかどっちかだな……そうだ、ルドラは……」


 庭の芝生の上で座ってるルドラを見ると、ルドラがプイッと明後日の方向を向く。


『ルドラは、主しか乗せたくない様です』


 そうだよな、グリフィンは気位が高いから誰彼なしに乗せないよな。


「じゃあ、ゴーレム馬を造ってみるよ」

『有難う御座います。主に変わらぬ忠誠を』


 バルクがとても嬉しそうだ、骸骨だから表情は分からないけど。


「爺ちゃん、バルクに槍を教えてたんだ」

「うむ、戦場ではやっぱり槍の方が有利だろうし、何より槍働きは、戦場の華じゃからの」


 キューー!


 庭の端では、大型犬程に大きく成長したエリンが、アメリアちゃんとユスティアちゃんに乗られて、お馬さんゴッコの最中みたいだ。それをバルクがじっと見ている気がする。まさかこいつアメリアちゃんやユスティアちゃんが羨ましくて、馬を欲しがったんじゃないよな。

 僕がバルクをじっと見ていると、バルクが気づき僕の方を見て直ぐに目を逸らしやがった。

バルクに目は無いけど。


 まあ作るけどね、色々作るの楽しいし。




 ドノバンさんが龍の骨を加工して、フレームに使用して、その上に装甲を組み立てて行く。鋼鉄の装甲の上に龍の鱗を加工して貼り付け、物理耐性と魔法耐性を両立させている。前方には二本の巨大な角が突き出ている。


 僕は大きなダンゴムシの様な車輪のひとつひとつにコアを仕込み車輪自体が動力になる様にした。


「クックックックッ」


 ドノバンさんが、笑いながら組み立てている。


 『気持ち悪いですな、主から注意した方が良いと思いますが』

「ジーブル、そっとしておいてやれ」



 「ユキト!」


 おっと、ドノバンさんが呼んでる。


 「ハイ!何ですか?」

 「法撃用の魔道具を作ってくれ。天井に二門つけたいんじゃ」

 「魔法の種類にリクエストありますか?」

 「そうじゃな……火の魔法は森で使い辛いからサンダージャベリンが良いかの」

 「イヤ、森に入れる大きさじゃないですから。あと雷でも燃えますから」

 「サンダージャベリンが良いかの」

 「……分かりましたよ」



 ドノバンさんの頑張りで、3日程でゴーレム馬車?が出来上がった。


 全長 4m の車体は、漆黒の鋼鉄製の装甲を纏い、長さ1m ある二本の角が前に突き出し威圧感が凄い。まるで魔物を轢き殺す為の様な、頑丈な装甲と物と六本の太い車輪で悪路を物ともせず走る。10人乗りの装甲ゴーレム車が完成した。



 【アスカロン】と名付けられたゴーレム馬車?の試走にロンドバル郊外の草原に来ていた。


 ゴゴゴォーー!!


 「ガッハッハッハッーー!」


 「……40年以上の付き合いじゃが、あんなドノバンは初めて見るのう」

 「……爺ちゃん、止めたほうが良いかな」


 ドノバンさんはただいま暴走中です。


 「……もう少し、このままそっとしておいてやろう」

 「そうだね……」


 アスカロンは、悪路をを物ともせず爆走する。

途中遭遇する魔物を轢き殺しながら………。


 でもアスカロンじゃ街道の幅ギリギリだったな。もう少し小さく造れば良かったかな~。うん、次だ!次はバルクの馬を作らなきゃ。

ドノバンさんが暫く使い物にならないから、自分で全部作らなきゃ。




 ドノバンさんは、爺ちゃんに任せて僕はルドラに乗って馬の魔物を探している。


 馬のゴーレムを作ろうとした時、僕はあまり馬の事を知らない事に気が付いた。骨格のバランスや関節の動きかた、歩きかたや走りかたは実際に馬を観察したけど、骨格や筋肉のつき方を調べる為に解剖したいと思いさすがに馬を解剖する訳にはいかないので馬の魔物を探す事にしたのだ。

 空を飛び探すこと暫し、草原に灰色の馬をひと回り大きくした体躯の生き物を見つけた。鑑定してみると【レイジングホース】と言う魔物だと分かった。


 「おっ!ルドラ、見つけたぞ!」

 「クルルルルゥ!」

 

 ルドラがひと鳴きすると、翼をたたみ急降下して襲いかかる。


 前脚の猛禽類の鋭い爪が魔物の首を掴むと、そのまま踏みつけて押さえ込む。少しの間、暴れていたレイジングホースはやがて動かなくなり息の根を止めた。


「ルドラエライぞ、よくやった!」

「クルルゥ」


 ユキトは、ルドラの背中から跳び降りるとルドラの首を撫でて褒めてあげる。


 ユキトはその場で解体を始める。筋肉のつき方を確認しながら解体を続け肉や内臓はルドラにあげて、やがて骨だけになったレイジングホースを眺める。


「なるほどね、後ろ脚の関節はこうなってるのか」


 一応、全ての骨をアイテムボックスに入れてルドラを見ると、ちょうど食事も終わったみたいだったので帰ることにする。


「ルドラ!今日はゆっくり空を飛んで帰るか」

「クルルゥ!」


 ルドラが嬉しそうにひと鳴きする。

 ユキトがルドラに跳び乗ると、翼を広げてルドラが空へと飛び立つ。


 ルドラに乗って家に帰り、早速ゴーレム馬の製作に掛かる訳ではなかった。ユキトは自警団の騎馬部隊にお願いして様々な馬の動きを観察させて貰った。


 メインのコントロールコアと筋肉制御式を書き込んだ魔石を作り上げる。


 持って帰った骨を参考にして、骨格を少量のミスリルを混ぜた合金で作っていく。関節を特に強化しながら組み上げていく。サンドワームの外皮を使った魔道筋繊維を取り付けて行く。制御式を書き込んだ魔石とメインのコントロールコアをはめ込む。


「よし!後は外装だな」


 ドノバンさんの工房を借りて、馬用の装甲を見本にアレンジした外装を作り上げて組み上げる。


「どうだいバルク、中々良い出来だろう」


 街の外へ出てから、ユキトはバルクを呼び出すと、出来上がったゴーレム馬を見せて感想を聞いた。


『……素晴らしい出来です。感謝します主様』


 バルクに合わせて黒い装甲を纏ったゴーレム馬は、普通の馬よりふた回りは大きいサイズも合わさって威圧感が半端ない。


「名前は、アルスヴィズだ。試乗してみてくれ。」

『喜んで』


 その後、テンションが上がって中々帰って来ないバルクをユキトが待ち続けるという事があったが、バルクが喜んでいるので、まあ良いかと思うユキトだった。

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