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ユキト土木作業員になる

 ペトラにヘカトンケイルとゴライアスを配備した後、新しくなった防壁と砦を併せて、パルミナ王国への抑えは整ったところで、爺ちゃんとアイザックさんやヴォルフさんも戻って来て、久しぶりにする事が何もない日が訪れた。

 爺ちゃん達が助けたりして連れて来た人達は、ヘリオスに住む場所が与えられそれぞれ好きな仕事に就いている。

 獣人の人達は、北の森で狩りをする人が多いみたいだ。一方、エルフの人達は農業を好んでする人が多いみたいだ。狩人のイメージがあるけど以外だ。




 三年生になって暫く経つのに初めて自分のクラスの教室へやって来た。新鮮な気持ちで席に座ってると教室に入って来た生徒が声を掛けて来た。


「「おはよう、ユキト」」

「やあ、おはよう。マリアにヒルダ、久しぶりだね」


 久しぶりに顔見知りとの会話をしようとした時に僕を呼ぶ声が遮る。


「ユキト君!ここに居ましたか、ちょっと頼みたい事があるので何時もの場所に来て下さい」


フィリッポス先生が呼びに来た。


「……ごめんね、呼ばれてるみたいだから行くね」

「……じゃあ、またね」




 ユキトが何時もの研究室へ行くとフィリッポス先生が待っていた。


「まあ座って下さい」

「頼みたい事ってなんですか?」


 フィリッポス先生の向かいに座りながら尋ねる。


「ユキト君のお陰でペトラの護りは大丈夫でしょう。有難うございます」

「ヘカトンケイルとゴライアスは、半分趣味ですから良いですよ」

「それで北西のヘリオスと北東のペトラ、南西のロンドバル、南東にアイテール、北のホスディーアと五つの都市が五角形にあるわけですが、この五角形の真ん中に小高い岩山が有るのですが、そこに新たな都市を建設して形になった時点で建国へという流れで考えています。議会の承認も全会一致で得られました。それで私は北のホスディーアと南東のアイテールの防壁を整備して行きます。そこでユキト君の出番です」


「なんか怖ろしく嫌な予感がするんですが」

「岩山を中心とした都市を建設して下さい」

「ヘリオスが出来たばかりで新しく街を作って住民が集まりますか?」

「問題有りません。現在、ロンドバル都市同盟は魔物の氾濫を境に未曾有の好景気に沸いています。2万の魔物を撃退出来る戦力を保有する準国家ですから安全が担保されている土地には自然と人が集まるものです。ヘリオスを含め治安には気をつけていますが移住希望者が引っ切り無しですからその辺は問題ありません」

「エルフや獣人をターゲットにした奴隷狩りなんかが入り込む心配はないんですか?」

「ユキト君達がロンドバル都市同盟内の最大組織を壊滅に追い込んでからは、ロンドバル内には犯罪組織は存在しません。ノブツナとヴォルフが小さな組織もシラミ潰しに叩いていきましたから、全部潰せたとは言えませんが暫くは大丈夫だと思います。特に最初の組織を壊滅させた時の苛烈な対応に恐れをなして逃げ出した者も多いでしょう。お陰でロンドバル都市同盟内の治安の向上が人口増加の原因の一つになっています」


はぁ~、やっと普通の学生に戻れると思ったのに。


「分かりました、街の設計図みたいな物はありますか?」

「はい、この縄張りに沿ってお願いします」


もう用意してあるんだ。


「でもこれ、広くないですか?」

「カンパネラは首都になりますから、その位の広さになりました」


 20キロ四方って…………。


「防壁は 高さ10m 厚さ80cm あれば大丈夫ですからヘリオスに比べると大分楽ですよ」


 カンパネラに直接他国の軍隊が攻め寄せる事は想定していないみたいだ。


「楽って……やるしかないですよね」

「防壁が出来るタイミングで大工や自警団を送り出しますから。同時にカンパネラ迄の街道整備が各街から始まります。街道整備の作業員はそのままカンパネラの建設に当たります」




 ルドラの背にサティスと跨り岩山を目指して空を行くユキト。背中に感じるサティスの柔らかい感触に頬が緩みそうになりながら目的地を目指す。


 やがて小高い岩山が見えてきた。


「サティス、見えてきたよそろそろ降下するね」

「ハイ!」

「ルドラ!岩山の麓に降ろして!」


 クルルルル!!


 ルドラが一声鳴くと降下し始める。

 岩山の麓に降りてジーブルとヴァイスを召喚してルドラと周辺の魔物を討伐して貰う。


「ルドラ、ジーブル、ヴァイス!周辺の魔物を撃退してくれ!」

『『承知しました!(クルルル!)』』


 バルクを召喚してサティスの護衛に就いて貰う。

エリンは、今日は家でアメリアとユスティアの遊び相手になっている。


岩山から長い紐を使ってサティスと距離を測る。


「面倒だな、ざっくり10キロで良いよね」


 10キロを南に歩きそこから東へ向けて防壁を作り始める。手を地面につけて防壁の形と規模をしっかりイメージして練りあげた魔力を一気に流し込む。土が持ち上がり硬い石に変わる。高さ5m 幅 50cm の防壁が1キロに亘り出来上がる。防壁の外側に持ち上がった土の分、幅 2m 深さ1m の浅い堀が出来ていた。


 サティスと出来あがった防壁の長さを測りながら歩くと大体 1キロだったので込める魔力の量が分かったので、後は魔力が尽きるまで防壁を作り続ける。


「地味だ、とっても地味だ!もうマナポーションでお腹がタプタプしてる。あぁ、僕もあっちが良い!」


 ジーブル、ヴァイス、ルドラが魔物を狩っているのが見える。


「ユキト様、頑張って下さい」


サティスが側に居て、励ましてくれる。


「うん、サティスが側に居てくれて良かったよ。独りだと挫けていたと思う」


 ジーブル達が時折り斃した魔物をユキトの所へ持って来るのをアイテムボックスに入れながら、ひたすら防壁を作り続ける。


 休憩と食事の時間以外ひたすら作業を続け真っ暗になって作業が続けられなくなってやっと家に転移して帰った。




 「あぁもう嫌だ~、僕は何時まで壁を作れば良いんだぁ~!」

「ユキト様、頑張って下さい。帰ったら一緒にお風呂に入れますよ」

「うお~~!やってやるぞぉ~!」




 ひたすら防壁を作り続ける日々を過ごし何とか7日で20キロ四方の防壁を作り上げた。


「……終わった、やっと終わった何だかまた魔力量が増えた気がする」

「ユキト様、お疲れ様です」

「ユキト君、お疲れ様」

「………………」

「やだなユキト君、そんな目で見ないでよ。そうそう、東西南北に門を作るので10m 開けておいて下さい。それとあの岩山は地上五階、地下二階の建物にしちゃいますから。あっ!これが図面と完成予想図です。イメージしやすい様に色々用意しました」

「………まだ仕事が有るんですね」

「そうそう防壁内の整地もお願いしますね」


 ガックリ膝をつき茫然とするユキトを尻目にフィリッポスは、連れて来た大工や土木作業員に仕事を指示していく。


 フィリッポス先生、絶対どこかで見てたんだ。じゃなきゃこんなタイミングで来るワケない。


 僕がブツブツ言ってたらサティスが背後から抱き締めて励ましてくれる。


「ユキト様、早く終わらせて帰りましょう」

「よし!サッサと終わらせる!」


 マナポーションを飲んで休憩を取り魔力を回復させてから、ユキトはフィリッポス先生から渡された図面と完成予想図を頭に叩き込みイメージを固めて岩山へ向かうと魔力を練りあげ一気に作りあげる。


 ゴゴゴゴゴゴーーーッ!!!


 地響きを立てて岩山が形を変えていく。やがて音が聞こえなくなると其処には、石造りの巨大な建造物が出来あがっていた。



 ユキトがへたり込む。


「もう無理、魔力がスッカラカン」


 ゴロンと寝転がるとサティスが頭の下に膝を置いて、膝枕をしてくれた。


「少し休んでから帰りましょう」

「そうだな、転移する分の魔力が回復するまでゆっくりしようか」


 サティスが髪の毛を撫でる。


「サティスさぁ、そろそろ僕の事呼び捨てで良いんじゃない」

「私の中でユキト様と呼ぶのが一番しっくりくるんです。ユキト様との出会いがなければ私は心が壊れていたでしょう。首輪は取れましたが私はユキト様の物です」

「サティスがそれで良いならいいよ」



 さて、サティスの膝枕はずっとしてもらいたいけど、そろそろ帰るか。


「サティス、そろそろ帰ろう」

「ハイ、ユキト様」



 ユキトは立ち上がりサティスと手を繋ぎ転移して家に帰った。





 翌日、カンパネラに転移すると沢山のテントが張られ数百人の作業員や食べ物を売る屋台が数多く並んでいた。ユキトが唖然としてると。


「まだまだ人は増えていきますよ」


フィリッポス先生に背後から声を掛けられた。


「フィリッポス先生、凄い人ですね」

「まだ第一陣です。此処へ来れば仕事が幾らでもありますから、以前からロンドバルや他の街でも仕事にあぶれたり耕す農地が無い農民がスラムを形成して問題になってたんです。その中でも仕事に意欲があるけど仕事が無かった人達を募集してみた所応募が殺到しましてね」

「なるほど、人が集まるから商人が集まって来てるんですね」

「後は治安を維持する自警団を急遽各街から選抜して送ることが決まりました。最初が肝心ですからね、犯罪行為の取り締まりは厳しくしないと」


 そうだよな、治安が悪くなったら意味がないよな。


「と言うことでユキト君に緊急の仕事です。街の近くを流れる川から用水路を引いて下さい。その後街の中に井戸を掘って下さい。用水路の位置と井戸の位置はこの図面通りにお願いします」

「……水は、必要ですね」



 なんか人が増えてもやる事減ってないな。

 用水路を引いて、井戸を掘りながらユキトはボヤいていたが、カンパネラに集まった人達から熱い視線を受けていたのを気付いていない。彼等にとってユキトは吟遊詩人が歌う英雄譚の主人公なのだから。



 用水路と井戸を終えると図った様なタイミングで声を掛けられる。


「いやぁもう終わりましたか。では最後にこの地図に斜線を引いた部分にする為土を耕して下さい。ユキト君のカンパネラでの仕事はこれで一応終わりです」

「………これが終わったら好き勝手にゴーレム作って良いんですね」

「えぇ、これで一応終わりです」



 ユキトは張り切って農地を耕して行く。大量の魔力を注ぎ広大な土地を農地に変えて行く。



 フラフラになりながらやりきったユキトは達成感で一杯だったが、フィリッポスが言った一応終わりと言う事に気付いてないのはユキトだけだった。


 (ユキト様可愛い!)


 そんなユキトの少し抜けた所をサティスが可愛いと思い指摘しないのも愛ゆえだそうだ。

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