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街を造ろう

 魔力を大量に練り込んだウインドカッターが、ユキトから放たれ、目の前の木々を切り裂き大木が倒れていく。


 僕は氾濫を鎮めた次の日、ひたすら木を切り倒していた。爺ちゃん達は昨日の内に帰ってしまった。勿論送ったのは僕だ。サティスは手伝ってくれている。


「ユキト様、何処まで伐採すればいいですか?」

「魔素が薄くなってる今の内に、出来るだけ森を後退させて魔物の領域を縮小、上手く行けば解放出来ればと思ってるみたい。取り敢えずひたすら木を切り倒して行こう」

「……分かりました」


 ユキトの言葉に、流石のサティスも微妙な顔で頷いた。



 ユキトとサティスが、魔法で森の伐採作業をして、休憩を兼ねた昼食を終えた頃、フィリッポス先生が冒険者を連れて帰ってきた。


「やあ、随分はかどりましたね」


 そう、僕はなかば意地になって木を切りまくった。

マナポーションのお世話になる程ウインドカッターをサティスと二人でぶっ放し続けた。

 結果…………


「うん、立派な自然破壊ですね」

「ですよねー」やり過ぎたかな。


 ユキトのレベルが上がった事による増えた魔力量に物を言わせた結果……森の面積は以前半分程になっていた。


「伐採はこの位で良いでしょう。次は手分けして防壁を作りましょう」

「どの位の規模で作るんですか?」

「3キロ四方の防壁を作ります。この場合は城壁と言った方が良いですね。縄張りをマーキングしますから、それにそって作っていきましょう」



 先ずフィリッポス先生が作った、魔道具で城壁を作る。土が盛り上がり高さ10m、奥行 5m、幅 5m の石で出来た城壁が出来る。外側には盛り上がった分が沈み込み、深さ5m、幅10m の堀が出来る。

 城壁の上は通路になっていて矢を射掛ける様に壁が1m 立ち上がっている。流石はフィリッポス先生、仕事が細かい。


「うん、良いですね。堀の下からなら16m あるので十分でしょう。サティスさんはこの魔道具を使って下さい」



 バルクをサティスの護衛に召喚し、後はひたすら手分けして、城壁を土魔法で作る。


 ユキトは出来上がった城壁をイメージする、実際に現物を見てるからイメージが固まりやすい。地面に手を付き魔力を大量に込めて魔法を発動する。


 ゴゴゴゴゴゴーーーー!!!!


 土が盛り上がり、およそ200m の城壁が出来上がる。その後、魔力量の回復待ちの時間に伐採した木材を、アイテムボックスを利用して回収したりしながら、夜までに三人で3キロの城壁を作り上げた。


「お疲れ様でした。私はロンドバルに帰ります。明日、大工を連れて昼前には戻って来ます」

「分かりました。僕達は朝から始めてます」


 フィリッポス先生が、ロンドバルへ転移して行った後、ユキトとサティスもロンドバルだけじゃ家に転移して帰った。


 



 翌朝、サティスと二人で作業を始める。魔力量が厳しくなったらマナポーションを飲んで、魔力量の回復を待ちながら、伐採した木材を回収しつつ城壁を土魔法で作り続ける。


 昼前にフィリッポス先生が、大工を連れて帰ってきた。


「随分とはかどりましたね、大工を連れて来ましたから跳ね橋と門を作って貰います。それとあと3日もすれば追加の自警団が到着するでしょうから自警団も200人規模になります。彼等も工兵として活動して貰います」


 その後、三人に増えた事で更に作業速度が上がりその日は、4キロの城壁が完成する。

焚き火を囲んで夕飯を食べている。


「明日には完成しそうですね。何とか各国に知られる前に第一城壁が出来て良かったです」

「……第一城壁? もしかして第二城壁も有るんですか?」

「勿論、第二城壁の内側に城を築いて、魔物の氾濫を退けた、共和国の象徴にします」

「……そうなんだ。何だか最近土木作業ばかりで、学生なのを忘れそうです」

「まあ、仕方ないですよ。どうせユキト君は今ロンドバルに帰ると大変な事になりますから、丁度良かったですよ」


「えっ!大変な事って何ですか?」

「氾濫の時に冒険者のパーティーが、二組居たのは知ってますね、彼等が街へ帰ってギルドに事の顛末を報告しますし冒険者が酒場で貴方の事を黙ってる訳ないですよね。今やロンドバル中は新たな英雄の誕生に湧いています。当然ですよね、街が滅びる規模の氾濫が起こって、それを六英雄と共に2万の魔物を殲滅した英雄の少年。ロンドバルの酒場では吟遊詩人がユキト君の事を歌っていましたよ」


 ユキトは思わず頭を抱えた。


 恥ずかしい、恥ずかし過ぎる。もう街を歩けない。

いや、家から学校までは転移で通うか。


「学校でもハンス君が、熱心に話してましたよ」


 ユキトは膝から崩れ落ちた。

 ハンス先輩…………。


「ユキト様、流石です」


 サティスは何故か目をキラキラさせていた。


「はぁ……もう寝ます」


 ユキトはサティスの手を取り、ロンドバルの家に転移して帰った。




 次の日一日掛けて、3キロ四方の城壁が出来上がる。

門を取り付ける様に穴を開けた後、城壁内を土魔法で整地する。そこまで作業した所で魔力が無くなり泥の様に眠った。


「さあ!ユキト君!後は1キロ四方の第二城壁を作れば、一旦城壁は完成です」

「……一旦何ですね」

「えぇ、将来的には南東方向に街を広げる予定ですから」


 翌朝、フィリッポス先生に、この先もこき使われる事を宣言されて挫けそうになるが、其れでも第二城壁を仕上げた僕は、褒められても良いと思う。



 次の日、整地作業をしていた僕に、ヴォルフさんが会いに来た。


「ヴォルフさん独りですか?」

「あぁ……ユキトに頼みがあって来たんだ」

「頼みって何ですか?」


 ヴォルフさんが、頼み事なんて珍しいので聞いてみる。


「ブランデン帝国は知ってるな?実は帝国には獣人奴隷部隊と言って、使い捨ての奴隷部隊が有るんだが、出来れば俺の同胞を助けたいんだ。手伝ってくれないか」

「ヴォルフさん水臭いですよ今すぐ行きましょう」


 僕は作業を中断して、フィリッポス先生に出掛ける事を報告する。


「ふむ、良いですね是非この地へ連れ帰って下さい。帝国の戦力を減らして我が陣営には強い味方が出来るのです。良い事ずくめです」

「じゃあ早速行くか、場所は他の同胞から聞いて掴んでる。俺とユキトが本気出せば2日で着くだろう」

「気を付けて下さい。サティスさんは、私が一旦ロンドバルに送ります」

「よろしくお願いします。サティス行ってくる」

「御気を付けて」





 ユキトとヴォルフが帝国へ向けて走る。

 ヴォルフとユキトが競う様に疾走する。昼夜問わず駆け抜け2日目の夜に目的地に着いた。


「ユキトは片っ端から解呪して行ってくれ。獣人は、鼻が良いから気配を絶っても気付く奴が居るかもしれん。俺が説得して回る」

「分かりました」


 闇に紛れ、ヴォルフの後に続いて気配を消して忍び込む。


 監視の目を繰り抜け辿り着くと獣人の奴隷兵達は、狭い部屋の中に20人づつ押し込められていた。


 鍵を開けて中に忍び込み片っ端から解呪して回る。


「しっ!大声をだすなよ。俺の名前はヴォルフだ、同じ獣人の同胞を救う為に来た。俺の弟子が解呪したからお前達はもう奴隷じゃない」

「あなたは、あのヴォルフ様ですか?」

「あのヴォルフがどのヴォルフか解んねえけど、俺がヴォルフだ。お前がここのリーダーか?」

「六英雄のヴォルフ様でしたか、お会い出来て光栄です。私がこの小隊のリーダーをしている、犬獣人のトムです。ヴォルフ様にお願いが有ります。出来れば此処に囚われている他の同胞も助けて頂けませんか」

「あぁそのつもりで来たんだ。トムと言ったかお前も付いて来て説得して回れ」


 残りの部屋を周り総ての獣人を解呪して全員を一箇所に集める。


「これから一旦、俺の弟子のユキトが中心になって作ってる街に来て貰う。その後家族の元へ帰るなり、呼び寄せるなり自由にして良い。ユキト!」


 僕はその場にゲートを開いた。


「さあ、急いでゲートをくぐって下さい」


 200人総ての獣人達がゲートをくぐるのを見届けてからヴォルフとユキトも後を追う。

 全員を新しい街の建設現場へ連れ帰り今後の身の振り方を相談する事にした。


「この中にロンドバル都市同盟以外の場所に家族や同胞が残されているやつは居るか?」

「ヴォルフ様、我等はロンドバル都市同盟出身の者が大半ですが、帝国との国境付近の森にある隠れ里出身の者が数名います」


 犬獣人のトムが代表して答える。


「ふむ、集落ごとこの街に移る気はあるか?」


 ヴォルフが確認する。

 すると一人の獣人が聞いて来る。


「ここは獣人の街になるのですか?」

「いや!この街はユキトの願いで獣人もエルフもドワーフも関係ない、勿論人族も種族間差別無く暮らせる街にするつもりだ」


 一人の狐獣人の男が手を挙げる。


「あの……私はザジと言います。その……家族や同胞を連れて来たいのですが、隠れ里からここまで小さな子供や年寄りは、辿り着けるかどうか」

「それは、心配しないで良いよ」


 ユキトがそう言うと、転移用マーカーの魔石を渡す。


「その魔石を隠れ里に置いてくれれば、僕が転移してゲートを開くから」

「ユキト様、有難う御座います」


 ザジさんが涙を流し僕の手を握る。


「あの……ユキト様、ロンドバル内の獣人の集落もこの街に住めるのでしょうか?」


 トムさんが、聞いてくる。何故種族間差別の比較的ないとされるロンドバル都市同盟で、獣人が集落を作って住まねばならないか、それは獣人族は産まれる子供の種属が完全にランダムで、ティアの様な兎人族などの愛玩用奴隷にしようと攫われる危険性のある種属が、どうしても一定数産まれる可能性がある。現在、比較的治安の良いロンドバル都市同盟内の都市でも、他国へ奴隷を売る犯罪組織が、皆無とは言えない現状だ。結果、獣人族だけで隠れ住むしかないそうだ。現在、ロンドバル内には、五ヶ所の集落があるらしい。


「じゃあ、マーカーを5つ渡すから、集落の皆んなと相談して決めて下さい」

「それで、この街の自警団に参加しても良い奴は居るか?」

「ヴォルフ様!私達全員参加させて頂きます」

「よし、それじゃあザジだったか、帝国との国境付近なら俺が護衛してやる。ユキトは忙しいからな」


 やっぱり忙しいんだ。


「では早速集落へ行って相談して来ます」


 獣人には暗闇の中でも関係ないみたいだ、ヴォルフさん達がまだ夜が明けてないのに、それぞれ闇に消えて行った。




 明けて翌日、残った獣人族の人達には魔物の死骸の後始末を手伝って貰った。その素材の売却代金の一部を報酬にすると言うと喜んで手伝ってくれた。


 僕はと言うと、フィリッポス先生に岩山に連れて来られていた。


「石材は幾らでも欲しいですから、持って来れるだけ持って来て下さい」

「フィリッポス先生は帰るんですね」

「私は、帰って仕事が山ほどありますから。では頼みましたよ」


 僕は魔法で、一定のサイズにクリエイトブロックで作り、アイテムボックスへ入れていく。黙々と作業するけど、こんな時魔力量が多いと作業が終われない。アイテムボックスにも馬鹿みたいに入る。


 結局、僕はお昼ご飯も食べずに夕方まで作業を続け戻った。


 石材を加工して戻ると、フィリッポス先生が次の指示を出す。


「あぁユキト君、戻りましたか。石材はその辺に積んで下さい」


 言われた通り、ドンドン石材をアイテムボックスから出して行く。


「飽きれた容量のアイテムボックスですね。限界が有るのか調べてみたいですね。あっ!それが済んだらこの図面の通りに城の基礎を作って下さい。地下室の壁の位置と壁の厚さは間違えないで下さいね。同じく柱の位置と太さも図面通りにお願いします」

「……はい」


 こうして、考えられない速さで街が出来て行く。

僕の魔力を使って………。

あぁサティスに逢いたい!ティアに逢いたい!

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