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溢れだす魔物

 季節が進み冬休みが近づく頃、二年Sクラスの少女がロンドバル高等学院の廊下を走ってくる。走って来た少女、ヒルダ・フォン・モントローが廊下を歩いていた友達の少女を呼び止める。


「マリア!ねぇ!マリアったら!」

「ヒルダ廊下を走っては駄目よ」


 落ち着いた様子でイオニア王国伯爵家の三女、マリア・フォン・ロアールがヒルダを注意する。


「落ち着いてる場合じゃないわよ!早く鞄取ってきて直ぐに帰るわよ!」

「今さっき来たばかりよ」


 突然、意味がわからないマリアは、ヒルダに理由を説明するように言う。


 ヒルダがマリアを引き摺って、人目のつかない場所へ連れて行く。


「よく聞いて、今朝実家から早馬で連絡が来たの、一月もしない内に魔物の氾濫が起きるって。ロンドバルに居ると危ないから直ぐ帰れって。今頃マリアの所にも連絡が入ってると思うわ」

「……本当なの」


 ヒルダから突然聞かされた情報に、思考停止してしまうマリア。


「えぇ、ロンドバルとブランデン帝国の間に、前回の大氾濫で亡びた小国の王都があった場所が、今は魔物の領域になっているらしいの、今回そこの魔物の領域が氾濫するらしいわ。ゲルトの奴なんて慌てて今朝帰国したみたい」

「……魔物の氾濫って、どの位の規模なの?」

「2万はいるらしいわよ。しかも溢れ出る魔物の進行方向にロンドバルがあるから、一刻も早く街を離れろって」


 たしかに、2万の魔物が溢れては、ロンドバルだけじゃなく、近郊の村も無事では済まないだろう。


「でも、ロンドバルに来る事が、どうして分かったの?」

「それわね、西には湖と川があるから帝国側には行かないし、北には山があるの、流れて来るならロンドバル方面って訳」


 マリアは葛藤する。自分達だけ逃げだして良いのか。


「マリア、酷いようだけど所詮自分の国じゃないのよ。避難を呼び掛けても不確かな情報で、ロンドバルの住人を煽動したとか言われるのが関の山よ。私達はイオニア王国の貴族なんだから、他国のために命は掛けられないわ。今はロンドバルの被害が少ない事を祈りましょう」

「……分かったわ」


 その時、廊下の向こうに黒髪の少年が歩いていた。

思わず少年に駆け寄ろうとするマリアをヒルダが止める。


「駄目よ、私達に出来る事は無いの。イタズラに情報が漏れればパニックになるわ。ユキトともそこまで親しいわけじゃないでしょう。後はロンドバルの問題でしょ、私達には、彼の無事を祈る位しか出来ないのよ」


 マリアは今日も研究室へ行くのであろう、彼の背中を見ていた。







 ユキトが今日も研究室へと入ると、フィリッポス学院長が先に来ていた。


「やあ、ユキト君。丁度いい所に来ました」

「フィリッポス先生おはようございます」

「えぇおはようございます。それで早速なんですが、氾濫が始まりそうです」

「なんかいきなりですね」

「そう言う貴方も落ち着いてますね」

「まあ、出来る事はやりましたから」


 ユキトには【ルドラ・バルク・ジーブル・エリン・ヴァイス・アグニ・タイタン・ギガス】と頼もしい仲間が居る。


「きっと氾濫を乗り切ってみせますよ」


 ユキトは、力強く言った。


「そうですね、氾濫の時期ですが多分一ヶ月後位だと思います」

「何処で迎撃します?」

「魔物の領域の境界で迎撃しましょう。離れると魔物がバラけて、他に被害がでる可能性がありますからね」

「分かりました。僕は何時でも大丈夫です」

「今晩ユキト君の家にお邪魔します。少し打ち合わせをしておきましょう」

「爺ちゃん達に伝えておきます」







 その日の午後、研究室で集まったメンバーで、打ち合わせをしていた。


「アタシ達後衛組に、護衛を付けてくれるんだね」

「そうだよ、婆ちゃんにはタイタンを付けるよ。サティスには何時ものようにバルクを付けるね。あと、ドノバンさんは婆ちゃんとサティスを状況を判断しながらの護衛のフォローをお願いします」

「儂に任せとけ」


 ドノバンさんが力強くこたえる。


「バルクさん、よろしくお願いしますね」


 サティスがバルクに声をかける。


『お任せ下さい』

「アイザックさんにギガスを付けて、フィリッポス先生の護衛はハンス先輩に頼もうと思います。アイザックさんとフィリッポス先生は出来るだけ側に居て下さい。ギガスとハンス先輩で連携して護衛します」

「儂等は好きにやって構わんのだな」


 爺ちゃんが張り切ってる。


「爺ちゃんとヴォルフさんは自由に動いて良いけど、初撃に僕と婆ちゃんとサティスにフィリッポスで広範囲殲滅魔法を放ちます。先ず僕がデカイのを放ちます。その後皆んなで範囲をズラして魔法を放ちます」

「ユキトあんたひとりで何の魔法を使うんだい」

「最初に全力のメテオを使おうと思ってる」

「地面をボコボコにした後始末は、自分でするんだよ」

「手つだってよ婆ちゃん」

「年寄りをこき使うんじゃないよ」


 はぁ~、まあ良いか、話が進まないからな。


「で、俺たちが暴れりゃ良いんだな」

「そうだよ、ヴォルフさん、爺ちゃん、ルドラ、ジーブル、アグニは自由に暴れて良いけど単独で前に出過ぎないでね。ヴァイスはエリンを乗せて遊撃に徹して貰いたいんだ」

『問題有りません』


 ヴァイスがエリンを頭に乗せながらこたえる。


「アグニってなんですか?新しい召喚獣ですか?」

「そうだな俺も知らねえぞ」


 フィリッポス先生とヴォルフさんが聞いて来るけど、あまり言いたくない。アグニは呼びだすと疲れるんだよ、精神的に。


「まあ、それはその時になれば分かるから」

「後はロンドバルに残る者の事ですね」


 アイザックさんが、家の事を心配して言った。


「一応地下室を土魔法で作りました。イリスとアメリアとティアには地下室に避難して貰ってダンさんとニケさんで護衛して貰います」


「それが良いですね。まあロンドバルに魔物を入れる積りは有りませんが」

「自警団には街の護りを任せるのかい」

「えぇ、北と西の門を護って貰います」


 婆ちゃんの問いに、フィリッポス先生がこたえる。


「ただ、一個中隊ほど魔物に抜けられた時の為に配置しますが。……と言うのは方便で早い話が目撃者ですね、ユキト君と六英雄がロンドバルを魔物の氾濫から護った事を目撃させて広めて貰わないといけませんから。そうすれば新しく街を造った時に人が集まりやすいですから」

「まあ、必要な事だな。新しく出来た街に人を集めるのに俺たちがいる事で安全な場所って思って貰えるからな」


 そこでフィリッポス先生が、立ち上がる。


「さて、私は帰りますがハンス君にはユキト君から声を掛けておいて下さい。私は調査目的で部隊を率いて先に出発します」

「準備を済ませて僕も向かいます。フィリッポス先生お気を付けて」

「では、現地で会いましょう」



 ユキトは研究室を出て、ハンス先輩に声を掛けてから街の道具屋を周り、マナポーションとライフポーションを買い漁った。併せて食料を調達して帰った。



「ただいま、皆んな揃ってるね」

「おかえりなさいませ。今お茶を淹れますね」

「おかえりなさいませ。上着を預ります」


 イリスとティアが出迎えてくれる。

 リビングへ行くと全員揃っていた。


「フィリッポス先生が、自警団の一個中隊を率いて調査目的って言う名目で出発したよ」

「アタシ達も準備が済んだら出発だね」

「ライフポーションとマナポーションは、買えるだけ買っといたよ」

「気が効くじゃないかユキト、後衛組にマナポーションを多めに配っておくれ」


 僕と婆ちゃんが話していると、爺ちゃんが話しに入ってくる。


「ユキト、食料は用意したのか?」

「大丈夫、調達して置いたよ爺ちゃん」

「じゃあ現地までゆっくり魔物を狩りながら行くか」

「あぁ、もう少しづつ魔物が流れて来てるだろうからね」


「ティア!イリス!」

「「ハイ、ユキト様」」

「アメリアと一緒に地下室へ避難するんだよ」

「「分かりました」」

「ダンさん、ニケさん後はお願いしますね」

「任せて下さい!」

「アメリアも、お姉さんの言うことを良く聞いて、良い子にしてるんだよ」


 アメリアが、ユキトに抱きつく。


「アメリア良い子だから大丈夫だよ」


 ユキトがアメリアを抱きあげて言う。





 翌朝早くに、ロンドバルの門でハンス先輩と落ち合うと、僕等のメンバーを見て驚いた顔で聞いてきた。


「ユキト!魔物の調査に六英雄の方々全員が行くのか」

「まあ爺ちゃん達も暇なんだよ」

「お前、暇って……まあいい、それで俺は先に出発している、フィリッポス学院長の護衛をすれば良いんだな」

「えぇ現地では、フィリッポス先生の側を離れないで下さいね」


 ユキトは、魔物の領域へ向けて歩き出す。


「ユキトが装備を付けているのを見るのは初めてだが、威圧感か凄いんだがやっぱり凄い素材を使っているのか?」

「えぇ、メインは黒龍素材です」

「……なっ!いや、六英雄ならその位の素材は当たり前に持っているのか」

「ユキト!パラパラと居るみたいだからヴァイスとエリン辺りで露払いしておいてくれ」


 ヴォルフさんの言う通り魔物の気配がする。


「分かった!……ヴァイス!エリン!」


 召喚陣から巨大な銀狼と青龍の子が現れる。


「ヴァイス!エリンを連れて適当に狩って来てくれる」

『承知した』


 ヴァイスが専用装備、氷牙と氷爪を装備してエリンを乗せて走りだす。


「……ユキト、あの狼の魔物はお前の従魔なのか?いや良い。いちいち驚いていたらきりが無い」


 ハンス先輩が、あきれながら言った


 その後、野営を繰り返し途中の魔物は、ヴァイスとジーブルに任せて進むこと7日、フィリッポス先生と合流することができた。


 フィリッポス先生は、少し高くなっている丘の上に布陣していた。ただ自警団の他に、冒険者のパーティーが12人混ざってる。


「やあ、ユキト君丁度良いタイミングだったよ。それとハンス君、私の護衛よろしくお願いしますね」

「冒険者の方が居るようですが?」

「あぁ、気にしないで下さい。冒険者ギルドから調査依頼を受けたそうで、合同のパーティーが調査に訪れたみたいです。一応邪魔をしない様に言ってありますから」

「調査依頼を出したのは、フィリッポス先生なんでしょう」

「これから起こる事の目撃者は、色々な立場の人がいたほうが良いですから」


 1キロ程先に見える魔物の領域にある森から、数えるのが億劫になりそうな位の魔物の気配がする。


 ユキトはバルクとルドラを召喚して、先に召喚していたジーブルとヴァイス&エリンを配置に付かせる。続けてアイテムボックスからタイタンとギガスを取り出すと、バーバラの所へタイタンをアイザックの所へギガスを配置する。


「ノブツナ!久しぶりの戦場の空気だなぁ」

「ヴォルフ!張り切り過ぎてやらかすなよ!」

「やれやれ、年寄りが張り切ってますね。ユキト君、先ず私が魔法を撃って魔物を釣りますから、距離が500mになったら打ち合わせ通りにお願いします」


 ノブツナとヴォルフの会話を聞いていたフィリッポスがユキトに指示を出す。


「了解です」

「では、行きますよ」


 フィリッポスの周りに炎の槍が10本出現する。


「ファイヤージャベリン!」


 10本の炎の槍が広がり飛んで行く。


 ドドドォーーーーン!!!!


 森から魔物が溢れ出す。

 ユキトは、ゆっくりと魔力を練り始める。


 フィリッポスの魔法を呼び水に、魔物の殆どがこちらに動き出す。一斉に動き出した魔物が波のように迫り来る。足の速い魔物と空を飛ぶ魔物が 500mに差し掛かった時、ユキトが魔法を解き放つ。


「メテオ!」

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