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10 姉様の行方が最後の問題


 比較的速く走れる小型の馬車で学舎への帰路につく。


「話を整理すると、王妃様の前でフォン様が危険におちいった魔獣戦と今回の失踪をしくんだのは国王様だったのですわね」


「魔獣戦のあと、ブローチの件で疑ってはいたんだよね。今回、罠の可能性も視野に入れて、母上のお見舞いの名目で帰って探るつもりだったんだけど、向こうが上手で。

 仕掛けてくるにしても裏で動くだろうと思ってて、さすがに王宮の兵士まで巻き込んでる想定はしてなかったから」


「疑っていらっしゃったのですか?」

「うん。王家の紋章のブローチなんて使用人がそう簡単に用意できるものじゃないからね。王族以外には難しくて、当然母上は除外するとして、ニゲラ兄様じゃないなら、父上しかいないでしょ? 『国王様から』って言われたのはウソじゃない可能性が高いかなって」


「なるほど……」

 言われてみればその通りなのに、まったく気づかなかった。


「当時の僕の付き人を決めたのも父上だったからね。父上付きの他のシノビとも共謀してたんだと思うよ。

 ウィステリアが僕に毒を盛ったように見せかけられた去年のプロムも彼らが犯人なら可能だしね。

 父上は母上の前でっていうのが前提にあったみたいだけど、浮気を疑っていたトゥーンベリへの意趣返しを同時に果たせるあの時だけは例外だったのかもね」


「姉様の行方について、国王陛下はご存知ありませんでしたわね……」

 あの後、学舎を出る姉に追っ手を差し向けたのかについても確かめた。答えはノーだった。今更ウソを言う理由はないだろうから、本当なのだろう。


「アリサはウィステリアに会いたい?」

「もちろんですわ! お会いできたら嬉しいですし、もしそれが難しくても無事に生きていることがわかればと思っておりますわ」

「そっか」

 柔らかく受け止めてもらえるのが嬉しい。


「今までフォン様を狙ってきたのは、国王様の指揮下の方々と、ニゲラ様派のシノビの両方で、どちらももう解決したということでよろしいのでしょうか」

「ああ。拙の元のシノビにはよくよく言い聞かせておいた故。強硬手段も辞さない過激派を穏健派が抑えてくれよう。過激派は母上の願いを聞いていた者たちが中心であった」

(願いを聞いていた者たち……)

 その中にニゲラの母親に請われて手を下した人もいるのだろうか。


「子どものころからのものは、その両方が混ざっていた感じかな。どっちがどれかは犯人側の証言からしかわからないだろうけど」


「フォンは本当に、あの程度の条件でよかったのであろうか?」

 ニゲラが心配そうに尋ねる。

「うん。ああ言っておいたら、僕の一番欲しいものが手に入るからね」

「一番欲しいもの、ですの?」

 フォンが国王に出した条件の中にそれらしい感じはなかったと思う。


 フォンが楽しそうに笑う。

「あの条件だったら、僕らが2人で国を治めてアリサを2人の正妻として共有することだってできるでしょ?」

「はい?」

 フォンはまた何を言い出したのか。突拍子もなさすぎる。

「それは……、さすがに冗談であろう?」

「ははは。どうだろうね?」



 学舎に着いてガーベラに戻ったことを知らせたら、みんな心配していたからみんなで状況を聞きたいという。

 フォンを救出したあと、回復を待つのといろいろと準備するのとで予定より1週間帰りが遅くなっている。学舎や生徒会メンバーに、遅れて戻ることは知らせたけれど、事情は「王都で急用ができたため」としか書かなかった。


 ハイドに知らせたフォンたちも同じことを言われたそうだ。生徒会室に集まって、付き人たちにアルピウムとウルヴィも呼んできてもらう。

 と、ウルヴィに飛びつかれた。

「アリサ様っ! ご無事で何よりです!」

「ウルヴィさん、その言葉はフォン様に向けるべきですわ」

「フォン様もご無事で何よりです」

「ははは。気持ちのこもり方が雲泥の差だね」

 何事もなかったかのようにフォンがここで笑っているのが嬉しい。


「フォン様がプロムに戻れなかったのは、アリサ嬢の心配しすぎではなく、本当に緊急事態だったのですね」

 ハイドがメガネをクイッとした。フォンが笑顔で応じる。

「なんでそう思ったの?」


「王都で急用ができたという連絡が来たからです。もしフォン様がここを発たれた理由のまま変わらずなら、少なくともボクたちには王妃様の容体が安定しないから戻りが遅くなると連絡するでしょう?」

 あの文面からそう読まれるとは思っていなかった。さすがだ。


 フォンとニゲラと顔を見合わせ、当事者のフォンが口を開く。

「詳細は言えないんだけど、ちょっと僕が、ずっと僕の命を狙っていた相手に捕まっちゃってね。アリサとニゲラ兄様が助けてくれて、相手に詰めよるところまで済ませてきた感じ。だからたぶんもう安全だよ」


「本当の緊急事態じゃないか!」

 アルピウムが驚きの声をあげる。

「うん。ハイドは正解。まあ、これでみんな解決だから。ウィステリアにも安心して家に帰ってもらったらいいと思ってるよ」

「姉様……」

 フォンの問題は解決したけれど、姉様の行方だけは未だにわからない。最後に残った最大の問題だ。


「いいえ、フォン様。わたくしはアリサの卒業までここにいるつもりですわ」

(え)

 フォンの言葉に進み出て答えた人物がいた。


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