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7 2つの大きな誤解


 ニゲラに手を引かれて王宮を歩く。口から心臓が飛び出す寸前だ。


 無事にフォンを救出して、荷物を装ってトゥーンベリの別邸に運んだ。療養してもらう間に、ニゲラとシノビたちに裏で動いてもらった。

 ニゲラの前でフォンとキスをした件は、状況が状況だったからとノーカンにされた。ニゲラがいい人すぎて申し訳ない。


 会うべき人物にニゲラからアポを取ったら、「トゥーンベリ嬢も来ているようだからぜひ共に」と言われたそうだ。こちらから頼みたかったから渡りに船だった。

 が、必要なのはわかっていても、緊張しないわけではない。これから会う人物、話さないといけないことを考えると怖さしかない。


(しっかりするのですわ、アリサ・エマ・トゥーンベリ)

 頬を叩いて気合いを入れたいけれど、それができる場所でもない。


「アリサ」

 ニゲラにゆっくりと呼ばれた。

「拙も最大限フォローする故、ひとりで背負わずともよい」

「はい。ありがとうございます」

 本当にいい人すぎる。


 王宮の使用人に案内されて通されたのは、謁見の間の隣にある執務室だった。重厚な机と椅子があり、書類に印が押されている。

 手前にそれなりの人数が入れそうなスペースがあるのは、ここで話すことも多いからだろうか。

 椅子に深く腰掛けている国王が能面のような顔のまま口を開いた。


「久しいな、トゥーンベリ嬢。姉君と分けるためにアリサ嬢と呼ぶべきか」

「お目にかかれて光栄ですわ、国王陛下」

「ニゲラと懇意にしてもらっているそうだな」

「ニゲラ様にはたいへんよくしていただいていて、ありがたい限りですわ」


 国王が鷹揚おうよううなずいてニゲラに視線を移す。


「ニゲラから我に話があると言われたのは初めてではあらぬか? 予定より早いアリサ嬢を伴っての帰城、吉報を期待しておるよ」

 ニゲラは表情を変えずに国王に答える。

「父上。拙は父上に確かめたきことがあり、この機会を頂戴した。共に話す必要がある者がもう2人いる」


「ほう? 登城の申請は聞いておらんが」

「申請の必要はあらぬ故」

 ニゲラが、入ってきた扉の方を振り返ると、ニゲラの付き人が扉を開く。

 外で控えていたフォンが、母親である王妃の手を取って進み出てくる。


 国王の眉がピクリと動いた。

「アウラ、フォン。我に何用だ?」

 さっきまでより明らかに声がワントーン下がった。


 改めて公爵令嬢として最上級の礼をとって深く頭を下げる。

僭越せんえつながら、国王陛下にアウラ様とフォン様とお話しいただきたいと思い、ニゲラ様にとりなしを願い出たのはわたくしでございます」

「ほう?」


「たいへん失礼ながら、国王陛下は2つ、大きな誤解をされているものと思っております」

「我が誤解? たわむれで口にしてよい言葉ではないと分かっての進言であろうな?」

「はい。わたくしはわたくしの大切な方のために、国王陛下の誤解を解かねばなりません」

「ほう。楽にせよ。進言を許す」

「ご寛容に心より感謝申し上げますわ」


 ここまででやっと、はじめの一歩をクリアだ。怖すぎるけれど、ここからが正念場だ。


「まず、ニゲラ様の母君の暗殺は、正妃であるアウラ様とは一切関係がございません」

「ありえぬ」

「いかがでございますか? アウラ様」

「とんだ濡れ衣もいいところでしてよ。もしわたくし教唆きょうさした犯人であるなら、お腹の子どもを確実に殺させますわ」


 国王がわずかに眉をしかめた。が、否定はしない。アウラの性格ならそうだろうと納得している感じがする。


「ですので、逆説的に、犯人は『お腹の子どもを生かす理由がある者』である可能性がございます。暗殺場所や方法がわずかでも違っていれば、ニゲラ様もこの世にはおりませんでした。それはただの幸運だったのか……。

 結果としてはニゲラ様がフォン様より早くお生まれになり、先に生まれる予定であったフォン様との逆転現象が発生しております。

 アウラ王妃殿下への疑いを手放し、そのあたりの利害を加味してお調べ直しいただくのがよろしいかと存じますわ」


 ここまでは話してもいいと、ニゲラの許可をとってある。

 ニゲラの母の自作自演で、息子を第一王子にするための自殺だということは、他人の自分が口にすべきではない。いつかニゲラが話したくなった時に話すべきことだろう。


 国王が吟味するようにあごひげを撫でる。

「ふむ。全面的に支持はできぬが、ひとつの考え方としてはおもしろい。我の誤解は2つだと言うていたな。して、もうひとつは?」


「フォン様は間違いなく、国王陛下の血にございます」

「ありえぬ」

 国王の即答を受けてアウラ王妃が目を見開く。フォンはわずかに苦笑しただけだ。


(やっぱり……)

 城の近衛兵たちが、国王の命令であっても普通は王太子の監禁に協力するはずがない。

 フォンが正当な王子でない(・・・・・・・・)場合を除いて。


 “マガイモノ”。


 少なくとも国王はそう認識しているのだろう。

 王太子の指名も国王が自主的にしたものではなく、フォンの母親を含めた貴族たちによって飲まされたと聞いている。


「国王陛下。なぜそのように思われていらっしゃるのかをお伺いしてもよろしいでしょうか」


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