4 フォンの母、王妃アウラとの面会
フォンの母、オスマンサス公爵家出身の王妃、アウラ・T・テオプラストスの元に通された。
ベッドに横たわっている彼女は最後に建国祭で見た時より明らかにやつれていて、病み上がりなのが伝わってくる。
フォンに届いた早馬の知らせ自体はウソではなかったようだ。
「ご無沙汰しておりますわ、アウラ様。アウラ様のお屋敷の前でとんだ醜態をさらしてしまい、たいへん申し訳ございませんでした」
「かしこまったお話は不要です、アリサ嬢。フォンが行方不明なのですか?」
単刀直入に尋ねられた言葉でまた泣き出しそうになったのを、必死にこらえる。
「はい。はい、アウラ様。アウラ様のお見舞いに行かれると言って学舎を発たれていらっしゃるのに、王宮でもこちらでもいらしていないと言われましたの」
「そうですの」
王妃アウラが深くため息をつく。
「一刻も早くニゲラを始末しておくべきでしたわね。フォン自身がなんとかするから手を出さないでほしいと言われたのを聞き入れるべきではありませんでした」
ゾワッとした。フォンが、王妃がニゲラの命を狙っていて、それをやめさせたと言っていた。真実だったようだ。
「アウラ様はニゲラ様が犯人だとお思いなのでしょうか?」
「あのニゲラにそのような度胸はないでしょうね」
あっさりと言い切られる。言葉は悪いが、考えには同意できる。
「ただ、フォンが唯一の王子となればすべて解決でしょう? 何者であれ、フォンを狙うのはニゲラを王に立てる以外の目的が存在し得ないのですから」
それはその通りだろう。本気で王家を滅ぼすつもりでないなら、どちらかの王子には生きていてもらう必要がある。そして本気で王家を滅ぼすつもりであれば、クーデターで王の首をとった方が早い。
「トゥーンベリとは行き違いがあったようで、改めてフォンからも話を聞いておりますわ。ウィステリア嬢が行方不明になっていることには心からお見舞いを申し上げ、どうぞアリサ嬢にはフォンを支えていただきたいと思っておりますの。
次代の子をトゥーンベリに送れば、公爵家の存続も可能でしょう?」
その抜け道についてはニゲラも言っていた。あまり一般的ではないし、一世代抜けることで父母世代への負担は大きくなるが、不可能ではない。
王妃が再び深くため息をつく。
「それもフォンが無事に戻れば、ですが。私も全力をあげて捜索させましょう」
「はい。どうぞよろしくお願い申し上げますわ」
「ええ。フォンの不在にあんなにも取り乱して泣いてくれる未来のお嫁さんのためにも」
貴族としては恥ずかしいが、いくらか表情を緩めてそう言ってもらえることは嬉しい。
「ありがとうございます。アウラ様には捜索先の心当たりがございまして?」
「心当たりというほどではございませんが。今回私が倒れたのは一服盛られたからだというのは、ほぼ確信を持っておりますわ」
「え……」
「ついに殺されるほどに憎まれたかと思いましたが。致死量ではなく、目を覚ましたのと同時に居室をこちらへ移させましたの」
「心からお見舞い申し上げますわ」
「ありがとうございますわ、アリサ嬢。その際には単純な暗殺の失敗だと思っておりましたが……、フォンを誘き出すために仕組んだのだとしたら、犯人は王宮の中にいる可能性があると考えております」
「王宮の中……」
もし王妃の推測が正しいとすれば、王宮に到着したフォンを到着していないことにするのも可能だろう。
「アウラ様、もしよろしければ教えていただきたいのですが」
「何ですの?」
「アウラ様が、『ついに殺されるほどに憎まれたかと』思われた時に浮かんだのはどなたですの?」
王妃が目を見開いて、それからゆっくりと閉じる。考えるような間を置いてから、顔を寄せるように手で示された。王妃の口元に耳を運ぶと、かすかな声である人物が告げられた。
その相手に、ゾッとした。




