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3 フォンを捜して


「ニゲラ様、お時間をいただいてもよろしいでしょうか」

 プロムが終わって散会した後、ニゲラのそでをつかんだ。

「うむ」

 短く答えたニゲラと、空いている控え室に入る。ミズキとニゲラの付き人も入って控えた。


「フォンのことであろうか」

「はい。プロムには必ず戻るとおっしゃっておりました。ニゲラ様のところには何か知らせがございませんか?」

「残念ながら。欠席理由として知らされた王妃殿下の体調についても拙は聞いておらぬ」

「そうですのね……」


 普通に考えれば、体調が安定しなくて戻れなかったのかもしれない。けれど、フォンなら、それがわかった時点で連絡してくる確信がある。


「ニゲラ様。わたくしと一緒に王宮に行ってくださいませ」

「ふむ。プロムの後には特別休暇があり、休日も続く故。行って戻るのは問題なかろうが」

「お願いいたしますわ!」

「わかった」


 すでに完全に日が暮れている。夜間の移動は危険なため、翌朝早朝の出発だ。

 ただの杞憂きゆうで、朝になったらフォンがひょっこり、帰りが遅くなってごめんと軽く言って帰ってきていたらいい。かすかにそんなことを願って落ち着かない夜を過ごしたが、期待は叶わなかった。


 最低限の荷物で早馬に乗る。馬車で行くより個々に馬を走らせた方が格段に速い。ニゲラの付き人が先頭、ニゲラ、自分と続き、ミズキがしんがりだ。

 自分で馬に乗ると言った時、ニゲラとミズキからは危険だから馬車で行こうと止められた。そんな悠長な気持ちになれなくて、実家で馬術も身につけていると言って押し切った。


 知らせがないのはいい知らせだという考えもある。けれど、知らせがあってからでは遅いこともある。行くだけ行って何もなければ、元気な顔を見られたと安心できる。

(フォン様……!)


 道中でふいにフォンの付き人が馬を止めた。後続の自分たちも慌てて止まる。一見して人相が悪い男たちが道を塞いでいる。


「おいおい上玉じゃねーか」

「女もいいが、男の方も売れるんじゃねーか?」

「おい見ろよ、ありゃあ相当上等な装飾品だぜ」

(なんですの、このベタな方々は)

 急いでいるのに迷惑この上ない。


 思う間に、ニゲラの付き人が馬上から何かを投げ、何人かの首を切り裂いて後ろの木に刺さった。十字のような形の先が尖った武器だ。

 その血しぶきが上がるより早く、ニゲラは剣を抜いて近くの敵を切り伏せた。ミズキはこちらに向かってくる相手に細い棒のようなものを投げて相手の急所を貫き、次々と沈黙させていく。

 全員瞬殺だった。向かってきた方が哀れに見えるほどだ。


「後で衛兵に場所を知らせればよかろう。今は先を急ごう」

「はいっ!」

 ニゲラも付き人たちも頼もしすぎる。


 馬車なら日暮れ時までかかる距離なところ、昼過ぎには王都に入った。城壁を通ったところでニゲラと自分は認識阻害の魔道具を身につける。危なくない範囲で馬を走らせて王城に向かう。


「ニゲラ・R・テオプラストスである」

 城門でニゲラが認識阻害の魔道具を外す。すぐに兵士たちが背筋を伸ばした。

「フォン様に用向きがあって急遽戻った。フォン様は今どちらだ?」

 ニゲラの言葉に、兵士たちが不思議そうな顔をする。


「ニゲラ様、フォン様でしたら、学舎からお戻りになられておりません」

「戻っていない……? そんなはずはない。一週間以上前に学舎を発っているのは間違いないのだ」


「あのっ、王妃様がご病気と伺って。フォン様は顔を見たらすぐに戻ると!」

「いらしていないものはいらしておりません。王妃様はご療養のためにご実家の別邸にて過ごされております」

「オスマンサス公爵家の王都の別邸であるか」

「はっ!」

「場所を教えてくださいませ!」


 兵士から聞き出して向かおうとすると、ニゲラに引き止められる。

「アリサ。拙はオスマンサスの敷居を跨げぬと思う。拙は拙でフォンの捜索に動こうと思うが、異存はなかろうか」

「もちろんですわ。ありがとうございます」


 ニゲラが頷いて、その場の兵士を見渡す。

「皆、よく聞くがよい。彼女はトゥーンベリ公爵令嬢、アリサ・E・トゥーンベリ嬢である。拙の客人故、登城の際には通すように」

「はっ!」

 お城に入るのに顔パスにしてもらえた。ありがたい。

 ニゲラに改めてお礼を言って、再び馬を走らせる。


(フォン様……!)

 道中で出会った狼藉者たちを思いだす。そこで何かあったのかという不安がよぎる。フォンが母方のオスマンサス公爵家にいるのを願って、必死にノッカーを鳴らす。

 扉が内側に開く時間すらもどかしい。


「ご用向きをお伺いいたします」

 フットマンに答える。

「わたくし、トゥーンベリですわ。アリサ・E・トゥーンベリでございます。お約束がないところ申し訳ありません。フォン様、フォン・S・テオプラストス王太子殿下はこちらにいらっしゃっておりますでしょうか」

「申し訳ありません、トゥーンベリ嬢。フォン様は学舎から戻られておりません」

 王宮と同じ答えをもらって、その場に崩れ落ちる。


(フォン様……!!!)

 彼はいったい、どこに消えてしまったのだろうか。

 泣いている場合ではないのはわかっているのに、涙が止まらない。


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― 新着の感想 ―
ここまで一気に読んでしまいましたが… めちゃくちゃ好みのお話でした。 フォン様!続き…続きはまだですか?!
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