9 建国記念式典
今年は、今日、建国祭3日目が建国記念日にあたる。夜には花火が上がる予定だ。
自分たちが王都に滞在して建国祭に参加するのは今日までで、明日の朝には学舎への帰路につく。
「学舎に行っている2年間は、建国記念式典で王子として顔見せをするのを免除されてるんだけど。行かなくてもいいだけで、行っちゃいけないわけじゃないから、ちょっと行ってこようかと思ってるんだよね」
朝集まったところで、フォンが急にそう言いだした。昨日まではそんな予定は入っていなかったはずだ。
「ニゲラ兄様はどうする?」
「フォンが行くのであれば、拙も行った方がよかろう」
「うん。じゃあ、二人で行こうか。昼前には終わるから、終わったらみんなと合流できたらって思うんだけど、どう?」
「わかりました。ボクはそれで構いません」
「王子としてのお勤め、お疲れ様ですわ。貴族席で応援申し上げますわね」
「アリサ様やみなさんが貴族席に行かれるなら、うちだけ別行動でしょうか」
「ウルヴィさんがおイヤでなければ、わたくしの付き人としていらっしゃいますか? 1人で2人まで連れられますので」
「ありがとうございます! ぜひ!!」
話が決まって、目的地までは認識阻害の魔道具を身につけていく。王子二人が急に現れたことに驚いた城門の兵士たちの様子にみんなで小さく笑って、貴族席に入った。貴族席は王宮の庭に用意されていて、市民は王宮前の広場までしか入れない。
学舎の学友や、他で会っている顔もいくらか来ていて、開会までは挨拶で忙しくなった。完全に社交の場だ。
(貴族とはこういうものでしたわね……)
最近は気心が知れた仲間としか話していなかったから、外行きの顔をするのが新鮮だ。
内務大臣が拡声の魔道具で開式を宣言する。国王、王妃に続いてフォンが王宮のバルコニーに出て、国王と王妃の間に立つ。フォンの後に続いたニゲラは国王を挟んでフォンの反対側に立った。
王族が軽く手を振ると、広場の民衆から歓声が上がる。
(カッコイイ……!)
一緒に叫びたくなるのを飲み込んで、公爵令嬢として正しい礼をとる。
(フォン様は……、自分が王太子であることを示すためにこの場に来ることにしたのかしら)
ニゲラとの入場順も2人の立ち位置も、明らかにそういうことだろう。式典用の服もランクが違う気がする。事情を知らない国外の人などが見れば、フォンが第一王子の王太子にしか見えない。
(わたくしが王になることを支持したから……?)
そんなふうに感じるのは自惚れだろうか。
全体に向いているような視線なのに、時々目が合う気がする。細かい表情まではわからない距離でも、笑顔を向けてくれているという確信が持てる。
目が合う気がするのはニゲラも同じだ。そばに立って希望を叶えるという約束を守れていないことには申し訳なさしかない。
(正直に話すしかありませんわよね……)
自分の思いがどこにあるのか。どうあってもそれを動かせないのだから、せめて誠実であるべきだろう。嫌われたり恨まれたりするとしても。
国王の長い話を聞きながらそんなことを考えて、どこかでまたニゲラに時間をもらおうと決意する。
式典が終わり、貴族用の馬車を停めている場所でフォンとニゲラが戻るのを待っていると、知っているような知らないような感じがする青年から声をかけられた。
「待ち合わせですか? お嬢様方」
「ええ、そうですわ」
答えたら、アルピウムとハイドが警戒して、腰の剣に手を添えた。
「ナイトがついていましたか。こんなステキなお嬢様を待たせる者がいるなら、来る前に攫ってしまおうかと思ったのですが」
「ふふ。お戯れはおよしになってくださいませ、フォン様」
当たり前のように呼んだら、周りのメンバーの顔が驚きに変わった。
「あはは。やっぱりアリサには認識阻害の魔道具が通じないんだね。なんでかな」
フォンが笑いながらブローチ付きのマントを外す。と、フォンがフォンに見えるようになった。今回魔道具を身につけたのは自分たちの前ではなくて、効果自体は間違いなく発動していた。
「なんとなく、としか申し上げようがないのですが」
答えるうちに、フォンの斜め後ろをついてきていたニゲラも認識阻害の魔道具を外す。
「おふたりとも、お疲れ様ですわ」
「うん。じゃあ、行こうか」
「うむ」
フォンとニゲラが目の前で認識阻害の魔道具を付け直してから、自分の右と左に立った。当たり前のように両方から手を取られる。
(え……)
公につきあっていることになっているニゲラはまだしも、フォンはどういうつもりなのだろうか。そのフォンをニゲラが咎めないのも意味不明だ。
何が起きているのかがさっぱりわからない。




