1 王都での建国祭への誘い
「建国祭で王都へ?」
「うむ。5月頭の建国記念週は1週ほど休みになろう? 父上より、アリサ嬢と共に戻るなら歓迎すると連絡があった」
「国王様から……」
それはつまり、ニゲラから国王陛下に今の自分たちの関係を報告しているということだろう。外堀を埋められた形か。
建国記念週の連休を過ぎると、学舎は学年終わりのプロム、卒業や進級に向かって本格的に動きだす。学舎祭の片づけがひと段落した今のこの時期に比べて、また一気に忙しくなるだろう。
建国祭自体は、行けば楽しいイベントだと思う。けれど、今の関係性上、国王陛下への謁見を含めて考えるとどうなのだろうか。
まだニゲラにトゥーンベリに降ってほしいという話はできていない。そんな雰囲気にならないのだ。ラブラブとかメロメロとか、そうなるにはどうすればいいのかがわからない。
今も生徒会の執務室で、お互いに以前と変わらない感じで話している。
「……フォン様は王都に戻られるのですか?」
なんとなく尋ねてしまう。もしフォンに知られたくないならニゲラは2人だけの時に話していただろうから、構わないだろう。
学舎祭の後から、ニゲラと2人でのお茶会にフォンは来なくなっている。それだけでなく、以前のように気安く絡んでくることもなくなった。フォンと2人のお茶会もなくなって、そう思ってはいけないのに、正直さみしい。
「僕は戻るつもりはなかったけど……、兄様たちの邪魔にならないなら、一緒に行くのもいいかもね」
さらりと返された答えに、胸の奥がズキッとする。『兄の彼女との距離』を明確に保たれている感じだ。それはどこまでも正しい距離感なのに、喪失感がある自分がおかしいのだろう。
「うちも建国祭に行ってみたいですが、邪魔ですよね」
「ええ、ウルヴィさん。こういう時は私たちは身を引くものですわよ」
「いやいやガーベラ嬢。僕らは僕らで遊びに行けば、別に問題ないんじゃないですか?」
「ハイドは今、5人彼女がいるんでしょ? 誰を連れて行くの?」
(いつの間に増えておりましたの?!)
入学したころは3人で、その後全員と別れたと言っていた。学舎祭の時にはまだ気配がなかったはずだ。増えるスピードが早すぎる。
「彼女たちは学舎の中限定での、お試しのおつきあいですから。もちろん、学友である皆さんと行きたいですね」
フォンの問いかけにハイドが答え、アルピウムが話に続く。
「俺は騎士団の公開演習を見に行きたいと思っている。その時間さえ確保できるなら、このメンバーで行くのも楽しそうだ」
「なら、そうしましょうか。王都にあるマクロフィア家の別宅に招待しますよ。ニゲラ様とアリサ嬢は合流したい時だけ、ボクらと一緒に行動すればいいのではないですか?」
ハイドがぐいぐいと話を進めていく。
(まだニゲラ様と行くとも言っておりませんのに……)
「アリサ嬢は気乗りしないだろうか?」
ニゲラがどこか申し訳なさそうに声をかけてくる。顔に出ていたなら申し訳ない。
言葉を探しながら答える。
「例年は領地で行われる建国祭に行っていたので、この機会に王都に行くのも楽しそうだと思うのですが」
去年は姉様が帰ってきていた。その時が姉様に会った最後だった。
「その、公爵令嬢としてたいへんお恥ずかしいのですが、国王様に呼ばれているというのが、光栄を通り越して心の準備ができないと申しますか……」
正直に白状すると、ニゲラがホッと息をついた。
「それは、拙の誘い方が悪かった。父上への謁見はまだ先で構わない。拙の主旨としては……」
ニゲラがどこか恥ずかしげに顔を伏せる。
「……アリサをデートに誘いたかっただけなのだが」
(え……)
予想外すぎるし、こんなにかわいい感じの人だっただろうか。
ニゲラは、フォンの命を守ってほしいという自分の頼みに誠実に答えてくれた。フォンの付き人だった男は取り調べられ、カリプトラサスケルを学舎に持ち込んだ咎で拘留されている。ニゲラと繋がりがあるシノビたちには、改めて、自分にはフォンが必要だと話を通してくれたそうだ。
今度はこちらが、ちゃんと向き合わないといけない。ニゲラの望みを叶えるという約束のために。なぜ王位を望むようになったのか、その経緯を本人から聞くのが最初だろう。そのためにも、ラブラブメロメロ作戦のためにも、ありがたい話だ。
「そのお誘いでしたら……、喜んでお受けさせていただきますわ」
誘ってきたニゲラ、話を進めていたハイド、流れを見ていたフォンが、みんなどこか驚いたように見えたのは気のせいだろうか。
ガーベラだけが目を輝かせている。




