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追放令嬢の妹には復讐の才能がない! そして復讐相手は愛が重い  作者: 亞月こも
第2章 姉様の真実と気づいてはいけなかった気持ち
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9 フォンとニゲラを取り巻く影の歴史


 フォンが命を狙われていることを知らないかと母に聞いたら、想定外の話が出た。

 この国の貴族社会の裏にはシノビ(・・・)と呼ばれる者たちがいるという。


「海上移動の魔道具が発達している今とは違い、当時は不可能に近かった大海を超えるという快挙により、はるか遠くからこの国に移住してきた者たちです。

 独自の戦闘術や武器を持ち、人とは思えない身のこなしをすることから恐れられていたところ、当時は傍流だった今の王族が取り込み、その力を借りて王位につきました」


「歴史の授業では出てきませんわよね?」

「ええ。これは王族とそこに近しい者だけが知る影の歴史ですわ」

(影の歴史……)

 公爵家はどこかのタイミングで王家から分かれた傍流だ。公爵家以上でしか知られていないというのと同義だろう。


「時が流れて、先代の国王様の時代に、魔石を燃料とした魔道具技術が飛躍的に発展。海上移動の魔道具や、殺傷力が高い魔法武器などが開発され、この国は一躍世界の覇者となったのです。

 先頭に立って遠征に出ていた第一王子、現国王様は、魔石技術が未発達な国々を次々と属国に加えられました」


 このあたりは歴史の授業で習った。フォンの父、現国王は敬意を持って征服王と呼ばれることがある。


「その属国のうちの一国から、国王様が連れ帰った姫君がニゲラ王子の母君です。国王様は正妻にと望まれましたが、国王様のご母堂を始め国内の多くの貴族が反対し、公爵令嬢だったフォン王子の母君が正妻、異国の姫君が側室となったのです」


 少し前の自分なら、国とはそういうものだろうと思ったと思う。けれど、今ならわかる。きっと国王様が愛したのはその異国の姫君だ。国という檻に囚われて、誰一人幸せになれない関係だったのではないだろうか。


「そしてこれは、内々にしか知られていないことなのですが。側室を迎える条件は、正妻が子を身ごもること、となっていたのです。次代を考えれば当然でしょうが」

「え……」

 それはおかしい。ほんの少しとはいえ、ニゲラの方がフォンより早く生まれている。この条件が守られていたとすれば、フォンの方が上なはずだ。


「お手つきがあった、ということでしょうか」

「いいえ。そうならないよう姫君は軟禁されていました。魔道具によってフォン王子が宿っていることがわかった後に、側室を迎えられたのは間違いありません。

 単純なことですわ。ニゲラ王子は予定日より早く取り出されたのです」

「え……」


「正確には、何者かにより姫君が暗殺されました。命があったお腹の中の子どもを助けた結果、ニゲラ王子とフォン王子の誕生が逆転する形になり、今の状況へと繋がっています」

「本当なら、フォン様が第一王子で王太子になるはずだった……」

「そうですわ。第二王子が王太子に指名されるという、逆転現象は起きないはずだったのです」


 母が紅茶で口を湿らせてから続ける。

「国王様は第一王子のニゲラ様を王太子に据えようとしました。けれど、それは半分、属国にこの国を乗っ取られることになると考える多くの有力貴族が反対し、結果的にフォン様が王太子となりました。

 それに強く異議を唱えたのが、600年ほどこの国の暗部にいたシノビたちです」

(!)

 最初に聞いた過去の話がここに繋がるとは思わなかった。


「単純な話です。姫君の出身国こそ、はるか昔にシノビの祖先が旅立った祖国なのだそうです。その関係性は、特徴的な黒髪・・で一目瞭然でしょう」

(黒髪……)

 武術大会でスペクタと入れ替わっていた相手も黒髪だった。あれがシノビだったのだろうか。


「けれど、シノビはあくまでも影。王太子の指名をひっくり返すには至らず、過激派が実力行使に出ていると考えています。

 捕らえた者がいてもトカゲの尻尾切りとなり、未だに野放しというのが現状です」


「フォン様暗殺未遂の黒幕はシノビの過激派、ということでしょうか」

「私とフォン様の母君、アウラ王妃はそう考えていますわ。フォン様がいなくなるメリットが大きいのはニゲラ様ですから」

「そのニゲラ様の関与は……」

「フォン様が幼かったころにはなかったでしょうね。今はわかりませんが」

「なるほど……」


「もちろんアウラ王妃もただ手をこまねいていたわけではなく、有能な護衛を入れたり、シノビの隠れ里を探させたりと手を尽くしてきているのですが、相手の方が上手うわてなのでしょう。

 ウィステリアとの婚約は、フォン様の王太子としての地盤をより強固にするためのものでしたの。それを裏切られるとは思ってもみませんでしたわ」


(裏切られてはいませんわ)

 そう言ってしまえたらどんなに楽だろう。姉様の件も「相手の方が上手うわて」だったのだろうか。

 アウラ王妃はどこまで知っていて、なぜ母とやりとりしないのかという疑問も浮かぶ。

 すごく多くがわかったようでいて、結局何も進んでいないような気もする。


お読みいただき、ありがとうございます。

第2章完結です。


もし気に入っていただけていましたら、ブクマや反応、感想、★5評価などをいただけると励みになります。


フォンが好きだと気づいたアリサと、アリサを溺愛しているフォンの両片思いはどうなるのか?

その背後で進む陰謀は?

第3章学舎祭編もお楽しみいただけると嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
こんにちは。 第2章読ませていただきました。 帝王学科武術大会の描写は臨場感があってドキドキしながら読み進められ、アリサの心の動きにも自然と寄り添えました。 キャラクターたちの個性や関係性もとても魅力…
Xではありがとうございました! 面白くて夢中になり、一気に最新話まで読んでしまいました(笑) フォンとニゲラの出生が逆転していたなんて……衝撃でした。 本来ならフォンが第一王子になるはずだったんです…
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