16 カレン・デュラの解任理由
「待ってくださいませ、フォン様。カレンさんを解任なさったのは……」
「いくつか理由があるけど、先生方に伝えているのは生徒会メンバーとしてふさわしくない点だね。
ね? 彼氏クン? きみもカレンの部屋に入ってるんでしょ?」
ミズキに捕まっている男から血の気が引く。帝王学科、賢良学科の寮と、庶民出の神学科の寮は別にある。男女間の行き来は同じく禁止されているけれど、神学科のセキュリティに魔道具は使われていないのだったか。
フォンがニコニコと笑みを絶やさないで言い募る。
「前々から証拠はつかんでいたんだ。それを使うほどの必要性を感じてなかっただけで。
カレン・デュラは学生として学内で超えてはいけない一線を超えている。それも、複数の相手と。不純異性交遊での退学を進言したんだけど、神学科の教員も抱き込まれていてね。それが他の学生を紹介してもらえなかった原因なんだけど、生徒会の解任は飲ませたんだ。
それ以上の処分については改めて調査するって言われたけど、この男の背後にカレンがいるなら退学させられるだろうね」
「言いがかりだ! カレンとつきあっているのは、彼女が愛しているのはオレだけだ!」
「はは。本人に聞いてみるのが早いんじゃない?」
どことなく冷めた目でフォンが言ったのと同時に、
「連れてきましたよ」
いつの間にかいなくなっていたハイドとその付き人がカレンを連れてきた。
ガーベラの付き人が呼んできた警備や、騒ぎを聞きつけた教員たちも駆けつけているけれど、王太子が話しているところに割り込む人はいない。
騒ぎの中心に出されたカレンが、こちらには目もくれないでフォンを見つめる。
「フォン様? これは一体……」
「カレン嬢。この男にアリサ嬢を攻撃させたのはきみだよね? 平民が公爵令嬢への障害未遂を働いたんだ。犯罪教唆は重罪なんだけど、どうかな?」
「っ! 知りませんっ! 私はこんな人……、クラスメイトにはいたと思うけど、それ以上の関係はありませんっ!!」
「なっ……」
男の顔に驚愕が浮かんで、それから歯を噛みしめた。
「うん。茶番はここまで。あとは学校に話してね」
フォンが警備の方に視線を向ける。
「連れて行って」
警備と教員が頷いて、ミズキから男子学生を引き受ける。
自分にも後日状況を聞くと軽く声をかけられた。
「フォン様っ! 私はあなたを愛していますっ!」
唐突にカレンが叫ぶ。
(愛っ?!)
公衆の面前でなんてことを言うのか。
驚きとともにフォンの顔を伺うと、その笑みがかつてないほど冷ややかに見えた。
「女を武器にすれば男はみんな言いなりになるって思ってるんだろうけど、そういうところ、僕は本当に気持ち悪い」
一刀両断されたカレンから血の気が引く。
「僕が何も気づいてないと思ってた? そんなに浅慮に見える? バカにしてるのにもほどがあるよね。
きみの失策はね、僕を本気で怒らせたことだよ。きみが誰をコマにしようと、身分を弁えずに僕に近づこうとしようと、別に構わなかったけど。僕の一番大事なものを傷つけたことは絶対に許さない」
(フォン様の一番大事なもの……、何かしら?)
想像がつかない。どうやら自分が知らないところで、フォンとカレンは何かあったらしい。だとすると、解任に自分は関係なかったのだろう。
ふいに、カレンがキッとこちらをニラんできた。
(???)
「アンタだって私と同類じゃない! 次々に男を誘って!」
「え」
まったく身に覚えがない。一瞬そう思ってから、ニゲラやハイド、アルピウムと親睦を深めるためのお茶会のことだろうかと気づく。
男を誘ったつもりはない。女の子たちも同じように誘っているし、当のカレンも誘ったし、なんなら全部にフォンがオマケでついてきていた。
「耳を傾ける必要はないよ、アリサ。警備兵、早く連れて行って。余罪はいろいろあるだろうから、しっかり調べてね」
フォンの指示で警備がカレンの腕を引く。
「アリサ・E・トゥーンベリ! アンタも姉と同じように国外追放になればいいんだわ!! 犯罪者の妹!!!」
音が耳に入るのと同時に呼吸が浅くなる。ガーベラがそっと抱きよせてくれて、背を撫でてくれる。
「黙らせて」
フォンの言葉で、フォンの付き人がカレンにさるぐつわを噛ませる。そのまま警備の兵士に連れて行かれた。
「うちもアリサ様を悪漢から守りたかったです!」
生徒会室に移動してひと息ついたタイミングで、ウルヴィが遅れてやってきた。あらましを共有すると、力いっぱいそう言われた。心意気が嬉しい。
「カレン・デュラは娼婦の娘で、孤児院にもなっている教会育ちなんだよね。母親は亡くなっていて接触はなかったみたい。
後ろ盾になっている貴族は孤児院に多額の寄付をしていて、たびたびカレンにも会っていたみたいだから、たぶん父親だろうね」
「貴族と娼婦の娘……」
想像できない生い立ちだ。そもそも貴族が軽々しく外で男女関係を持つというのがわからない。
「で、カレンを解任できたのはタイミングもよくて。交代要員がいないままだったら困るからね。異例だけど、1年生のウルヴィ嬢を僕の書記に任命させてもらいたい。できるだけサポートするから。いいかな?」
ウルヴィが驚いたようにこちらを見る。満面の笑みで頷く。友だちが評価されるのは嬉しい。
「つっ、謹んでお受けいたしますっ」
ガチガチに緊張して頭を下げたウルヴィがかわいい。
お読みいただき、ありがとうございます。
ここまでで第1章完結です。次の話から第2章に入ります。
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カレンが言っていたことは真実なのか?
アリサ・エマとフォン・シオンの関係はどうなっていくのか?
引き続きお楽しみいただけると嬉しいです。




