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異世界転生予備校  作者: ずんだらもち子
7時間目

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65/76

7時間目  LHR ①

「走れ走れー!」

「早くしろおらー!」

「おかーさん、おとーさああああん!」



 兵士も平民もその別なく、互いに叫び合っていた。

 阿鼻叫喚の中、人々は兵士の誘導に従い、王都という囲いの向こう側に飛び出していく。


 エスポフィリア王国の平穏は、先の争乱以来、再び一夜にして崩壊した。


 月明りに青く染まる平原。立ち昇る炎に朱く塗られていく王都の空。

 半壊したエスポフィリア城は、黒煙に包まれその姿を隠している。

 城壁の外側に広がる平原に人々は避難し、途方に暮れていた。


 大多数の住民避難は終えたらしい。そのことを誰かが言わなくても、人々の息遣いで伝播していく。

街路ストリートごとに集まれ! 逃げ遅れたものがいないか確認しろ」

 兵士の指示が飛び交う。すでに集まっている所もあれば、「どこだどこだ」と慌てて移動し始める人たちもいる。

「う、うちの子を見なかったか!?」

「私の父がいないんです! どなたか知りませんか?」

「どうしてアタクシたちがこんな目に遭わなくちゃいけないザンス!」

「いてぇーな! どこ見て歩いてんだ!」

「うわああああああああああん!」

 人々の心に余裕はない。


「――ルペス先生! あちらにもケガをしたものが!」

「先生! こっちは火傷です!」

「あっちでは右上腕の骨が折れたとのことです」


 避難していたルペス医師の元には次々と衛生兵や女給たちから怪我人の報告がやってくる。念のために医療材料を持ち出していたことが功を奏したのだろう。

 禿げ上がった額に汗を大量に流しながら、ルペス医師は指示を手早く出し続けた。

「衛生兵共は怪我した箇所を言わんか! それとほら、なんじゃ? アイサ君が教えてくれたあれがあるじゃろ、あのお……と、とま、とりゃれ?」

「先生、トリアージですか?」

「そうじゃった。異国の言葉は難しいのお。とにかくあの色のついた布を貼っておいてくれ! 軽症の者は君たちの手で治療してくれてかまわん」

「はいっ」


 王都の崩壊だけではなく、聖域と呼ばれる王城の北側に生じた異変も人々の心に影響を与えていた。


 聖域――大層な名称をつけられているのに、王家以外立入禁止の場所。


 王都に住む人たちも、階級の上下なく、誰もその中を知らない。


「せいいきでなにかがあったんだ!」

 子どもたちはどこかお祭り気分で騒いでいた。

「おい、いってみようぜ!」

「ダメだよ、兵士さんにおこられるし……それに、バレッタのお兄ちゃんみたいになるよ」

「なんだそれ?」

「知らないの? バレッタのお兄ちゃん、せいいきにしのびこんでやるって出かけて、それからユクエフメイなんだよ」


「こら! 子どもたち、ふらふら遊んでるな! さっさと集合場所に行け」


 兵士に一喝され、子どもたちはうわーいと逃げ出した。


「まったく……」

「ですが少佐、あれは一体何だったんでしょうか?」

 怒鳴りつけた少佐を出迎えた兵士も、蒼い顔をして尋ねた。

「さぁな、わからないよ。一体王都に何が起こってるのかなんて。俺たち一般の兵士にはな」

「せ、聖域で何かあったのですか?」

「バカ、聖域のことは口にするな……」

 軽口を叩いていた少佐の表情が一変する。

「な、なんです? そんな怖い顔しなくても……」

「聖域に関わった物は、文字通り消されるとの噂だ」

「ま、またまたぁ。そんなの子どもくらいしか信じませんよ。それに建設した連中はどうなるんです? まさかあれを王様がお一人で造ったわけでもないし」

「駆り出されたのは主に重罪人と南東のサポーロカ国の人たちだ」

「サポーロカって確か先の争乱の際にどさくさ紛れに攻め込んできた国……でもすぐにイノス様や新旧の師団長たちが出向いて征服したんでしたっけ?」

「……」

 少佐は苦々しく王都と、その向こう側にあるはずの聖域を睨む。「建造に関わった者たちに出会ったことがあるか?」

「へ……?」

「王城内でなくとも、街の酒場で『俺はあの聖域造りに関わったんだ』と豪語する男なんかを見たことがあるか?」

 そこでようやく兵士は言葉の意味を理解したようだ。

 固唾を飲み、

「……いいえ」

 細くなった喉の奥から声を絞り出した。

 兵士が睨んだ空は、元通りの暗い夜空で、炎が赤く染めていた。

 そして、先の光景を思い出す。


 聖域方面より一瞬だけ現れたのは紫苑の雷鳴を纏った光の柱。

 世界を瞬く間に真っ白に染めた。


 王都――エスポフィリア王国に異変が起きていることは王都の誰もが分かり始めていた。

「とにかく、イノス様の指示に従うのだ。今は王都の民の避難を優先しろ!」

 少佐は改めて兵士たちに指示を出す。城から逃げ出していた者だけでなく、謎の伝染病から復帰した者も合流していた。

「はっ! 現在南門と東門からの避難はほぼ完了しております」

「西門近辺は火災が酷く近づけません!」

「避難が遅れてる者がいないか、三人一組で捜索に向かえ!」

「少佐! 不審な人物を三名、目撃したとの情報もあります!」

「なに? どこでだ!」

「炎が盛る大通りをエスポフィリア城の方へと……」

「まさか、その三人がこの騒動の……?」

「いかがしましょうか?」

「……と、とにかく、警戒を怠るな。まずは逃げ遅れた者の避難を最優先だ!」





「――ぐあああああああああああああああああ!」



 静けさ募る祭殿の中、カージョン王の断末魔がイサミの背後で轟く。

 空を駆り、イサミに突撃した王は、その剣ごとすれ違いざまに斬られた。



「はぁはぁはぁ……!」

 肩で大きく息をするイサミの瞳孔は開きっぱなしだ。

 頭が真っ白になっている。行動以上に脂汗が噴き出していたが、それを拭うことさえ忘れていた。


 王の体は左大腿の付け根から右肩に掛けて逆袈裟斬りされて、赤い血が噴き出した。

 イサミが振り下ろした刀の先から血のりがぼたりと垂れた。


「あああああああああああぁぁぁぁぁぁ……………………」


 王の体がぐらりと体が前によろめく。

 もはや一歩でも左右どちらかの足を前に出せば、そのまま体が半分に断たれてしまうだろう。

 イサミはゆっくりと振り返る。

 荒い息のまま、刀を強く握っていた。脂の多い赤黒い血で手が柄に貼り付いたように、指を動かすとにちゃりと音を立てる。

 鉄臭い血の臭いに、硫黄のような腐った臭いが混ざり、鼻の奥の感覚が狂う。吐いてしまいそうだ。

 閉じ方を忘れた瞳孔が、王の背中を捉える。

 鎧ごと切り裂いたが、背中には届いていなかったようだ。背中に血の汚れはない。

 しかし、足の間から流れ続ける血が、傷の深さを想像させた。

 

「………………ぐっ………ぐふふ……」


 血を吐いているのだろうか――イサミはそう考えた。現に股の隙間から血の塊が落ちるのが見えたからだ。


「ふふふ………アアアアアアアアアアアッハッハッハァ!」


 しかし、膝をつくこともせず、王は、高笑いを始めた。


 理解の追いつかないイサミは息を切らせるばかりだった。

 否、落ち着き始めていた脈動が再び激しくなり始める。

 無意識下の中膨れ上がる不安が腹の内側から肺と心臓を圧迫した。

 イサミの頭の中には、木霊する自分自身の脈拍ばかりが支配していて、何も考えられなかった。


「いやぁあ、イサミクン、助かったよ。君くらいでないと、この男を倒すことはできなかっただろうからねえ」


 王は振り返り、ぱんぱんと手を叩き自分を斬った相手を讃えていた。

 斜めにずれた上半身と下半身の動きに微かな《《ずれ》》が生じている。その違和感は見ているだけで喉の奥に酸味を感じさせた。


 血を口から飛ばしながら意気揚々と喋る王は、もはや化物じみていた。


「な、何を言って…………どういう……ことだよ…………」


「見たまんまさ。君は確かに王を斬った。そしてワタシは生きている。これでいよいよ……」


 王の後ろに浮かぶ水晶の輝きが強まり、色が変わる。

 七色の光が一つの光に収束する。


 闇の深さを感じさせる紫色へと。


 王が手を前に差し出すと、水晶はふわりと浮かび上がり、手のひらの上にやってくる。


「ワタシが復活する時が来たのさぁあああああ!」


 浮かぶ水晶に、王は思い切り額をぶつけた。


 水晶が割れ、強い光が放たれる。

「!?」

 聖域を支える石柱よりも何倍も太い光の柱が縦に生まれた。

 遅れて衝撃波が届き、イサミの体をいとも簡単に吹き飛ばしたのだった。


「うわあああああああああああああああああ!?」




いつもお読みくださいましてありがとうございます!


いよいよ最終章でございます。7月中には終わる予定です。

今月は日曜日と平日のどこかで更新しますのでよろしくお願いいたします!

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